大手運用会社や生命保険会社が役員退職慰労金の議案に反対する傾向が強まっているという記事。
「運用会社が投資先の企業の株主総会で、役員退職慰労金の議案に厳しい態度で臨んでいる。2019年4〜6月に開かれた株主総会について、大手運用会社と生命保険会社合計10社の議決権行使の結果を集計すると、反対比率は単純平均で65%で前年より13ポイント高くなった。在職年数に応じて支給する企業が多く、株主価値を引き上げる動機にならないとの見方が多い。」
「三井住友トラストAMは退職慰労金について、今年から「原則反対」として、すべての投資先の議案に反対票を投じた。コーセーの総会では主要10社のうち8社が反対している。
「退職慰労金は金額の決め方が不透明なことが多く株主の反発が強い。取締役のプライバシーを重視して具体的な金額や総額、支給基準が議案に記載されないケースが大半だ。上場企業では支払う企業はすでに少数となっている。」
退職慰労金以外でも、役員報酬に関する議案への関心が高まっており、反対比率が高い場合もあるそうです。
「東京エレクトロンの総会では、業績連動型の賞与を支給する議案への反対比率が3割にのぼった。野村AMは理由について「社外取締役が過半に満たず独立性のある報酬委員会もない」と、賞与額を決める仕組みが整っていないことを挙げた。国際石油開発帝石や三菱倉庫の取締役報酬についての議案には、期待する業績に満たないことなどを理由に反対に回るケースがあった。
社外取締役に対して業績や株価に連動する報酬を支給する議案にも反対が多い。独立性が薄れ、他の経営陣への監視がきかなくなるとの見方だ。東京海上ホールディングスの議案では反対が25%にのぼった。」
逆に、役員報酬の個別開示や「クローバック条項」に関しては賛同する動きもあるそうです。
「武田薬品工業では巨額損失が生じたら過去の報酬を返還させる「クローバック条項」を導入する株主提案があり、アセマネOneなど10社のうち7社が賛成した。」
役員退職慰労金の会計処理については、在任期間にわたって引当金を計上すべきというのが主流の考え方かと思いますが、私見では、株主総会で支払を決議するまでは、会社の法的な債務ではないので、負債計上すべきではないと思います。また、決議した年度でまとめて大きな金額を費用計上する方が、むしろ、巨額役員退職慰労金支払いへの抑止にもなって、株主の利益にもかないます。
また、これだけ総会での反対比率が高まると、引き当ての根拠である、支払いの蓋然性が高いという条件を満たさない場合もあるのではないでしょうか。
最近の役員報酬ランキングをみると、日本人の最高(3位)は新日本建設という会社の会長で、23億円強(うち22億円は退職慰労金)でした。
この会社の会計処理をみると、役員退職慰労引当金を計上していますが、2018年3月期 272百万円だったものが、2019年3月期 2,663百万円と急増しています。会計方針では「役員の退職慰労金の支払に備えるため、内規及び取締役会決議に基づく当連結会計年度末要支給額を計上しております」となっています。有報の役員報酬の開示の注記では、「取締役(社外取締役を除く。)における退職慰労金には、2019年6月27日開催の第55回定時株主総会で決議された、退任代表取締役1名に対する役員退職慰労金1,000百万円のうち784百万円及び創業者功労金1,500百万円が含まれております」と書いています。株主総会決議の前の期の決算作業中に退職慰労金の金額が確定し、その決算に織り込んだという理屈でしょうか。
ちなみに、この会社の監査役(社外監査役を除く)の報酬は2名で13百万円、社外役員の報酬は4名で9百万円でした(合計しても役員退職慰労金の100分の1)。
最近の「企業会計」カテゴリーもっと見る
ユニチカ、祖業の繊維から撤退 「存続へ最後のチャンス」―官民ファンドが再生支援決定(時事より)
2025年は「倒産ドミノ」勃発!?船井電機破産で高まる危機感、企業を襲う物価・人件費・金利高(週刊ダイヤモンドより)
「DMMビットコイン」廃業へ 5月に482億円相当が不正流出 口座などはSBI VCトレードに移管(ITmediaより)
倒産・注目企業情報(株)BALM(旧:ビッグモーター)(東京商工リサーチより)
登記上の本社同一地の最多は4,535社 代表ひとりが兼任する企業の最多は628社(東京商工リサーチより)
特別損失の計上に伴う数値変更見込みに関するお知らせ(監査法人から貸倒引当金の増額につき再協議の申し入れ)(横浜冷凍)
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2000年
人気記事