会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

公認会計士「5万人計画」頓挫

ZAITEN(財界展望)という雑誌の2010年3月号で会計士業界のことが取り上げられていました(「公認会計士「5万人計画」頓挫」)。

この記事自体はたいしたことはないのですが、記事によると、前回の会計士法改正の際の審議会の中で「会計士が食えるか食えないかまで考えてやる必要はない」という趣旨の発言があったということなので、金融庁のサイトで審議会の議事録を調べてみました。

たぶんこの審議会のことだと思います。↓
第2回金融審議会・公認会計士制度部会議事録(平成14年9月27日)

ある委員から、公認会計士協会として採用規模は一体どうするかというたぐいの議論ではなく、「食えるとか食えないというような話もある」けれども、(合格者の)数を違った原理で決めるとすると一体それは何だということを議論すべきという趣旨の発言があり、それを引き取って、別の委員が次のような発言をしています。

「○XX委員 今のご発言とも関連するのですが、公認会計士の方が、なったのに仕事がない、あるいは生活できないということを、僕は金融庁が考える必要ないと思うのですね。そもそも何で証券取引法に関連して公認会計士制度、それから試験というものを国費を使って、要するに税金を使ってそういう制度をやっているかというと、証券市場をちゃんとするためにということですが、もっと具体的に言うと、機関投資家とかあるいはアナリストを守る必要なんかないのですね。彼らはプロですから、どこかの会社がうその会計報告を出して、それで損をしちゃった、そうするとお前の責任だということですから、お前はプロじゃなかったのだからそのファンドマネージャーは首になる、こういう世界です。これに対して国が制度をつくってちゃんとした会計報告を出させるという必要は僕はほとんどないと思うのですね。
 
そうじゃなくてだれを守るのかというと、町を歩いているおじいさんとかお母さんとか、そういうプロでない、普通の人たちも株を買ったり売ったりしてもらいたい。だからそういう人たちにすべて会社を訪問して分析をして株を買いなさいというわけにはいきません。だから国が、政府が税金を使って、そういう人たちが安心して売ったり買ったりできるような市場にしましょうということで、金融庁あるいは我々もそうかもしれませんが、税金でこういう制度を維持する。

 そういうことを考えると、公認会計士になった方が仕事がある、あるいは食える食えないということを税金を使って我々考えているわけじゃないので、そういう観点から見ると、需給調整というのは、法律を全部見たわけではないですけれども、公認会計士関係の法律を見ても、公認会計士の人数については需給を調整するという条項はないわけですから、それは今回のというか、これからの審議で考える必要は私は全くないし、もしそれを考える必要があるということであれば、我々の審議会委員の側もそうですが、金融庁の側もそういう裁量というのは一体どこから出てくるのかということを明確にして次のステップに進むべきだというふうに思います。」

会計士制度は一般投資家のためにあるのであって、需給調整を行って参入障壁を築くのは、法の意図するところではないというのは、ある意味で正論といえるでしょう。仮に、社会的に会計士への需要がなく、試験に合格し資格を取っても、資格を利用して就職したり、独立開業できないのであれば、受験者が減っていき、長期的にはバランスがとれることでしょう。

ただ、(5年以上前の発言の揚げ足を取ってもしょうがないのですが)今考えると少し違うなという点もあります。

ひとつは、試験制度上、試験に合格しても資格が取れないという点です。実務経験や実務補習をクリアするためには、監査法人に就職しなければならない(少なくとも監査法人に就職しないとハードルが非常に高い)のに、就職できないために先に進めない合格者が多数発生してしまっています。「試験に合格したのになれない」わけですから、「なったのに仕事がない」以前の問題です。

2つ目は、あまりにも急速に合格者数を3000人程度まで増加させたことです。これが例えば医師免許や教員免許なら、受験者数は、医学部や教育学部の定員によって制限され、急に合格者数が2倍になるということは考えられません。会計士試験の場合、(会計専門職大学院は別として)会計の専門教育の規模が拡充されたわけでもないのに、合格者が2倍になったというのは、どこか不自然なところがあります(会計士の場合は、ある程度、受験学校の促成栽培・マスプロ教育でも足りる部分もありますが・・・)。会計士5万人という公約達成のための人為的な調整だったのでしょう。

いずれにしても、現に発生している就職浪人問題は、(冷たいことを言えば)法律上、会計士業界や監査法人が責任を取らなければならない義務はないとはいえ、何とか緩和しなければなりません。制度のそもそも論をやっていても時間がかかるので、当面は、需給調整と批判されようと、合格者数を絞ることでやりすごすしかないでしょう。

ZAITEN ( 財界展望 ) 2010年 03月号 [雑誌]ZAITEN ( 財界展望 ) 2010年 03月号 [雑誌]

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