会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

企業買収の落とし穴「EBITDA」-会計の錬金術が悲惨な結末招く(ブルームバーグより)

企業買収の落とし穴「EBITDA」-会計の錬金術が悲惨な結末招く

シュア・フレキシブルズというオーストリアの包装会社が「EBITDA」を操作していた疑惑の記事。この会社は、PE投資会社が売却した後に「EBITDA」水増しが発覚したそうです。

「ウォール街で由緒あるプライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社が、ある企業の売却を望んだ。ゴールドマン・サックス・グループやモルガン・スタンレー、JPモルガン・チェースといった一流の投資銀行が、この取引を支援した。

取引完了からわずか数カ月後、売却された企業の最も重要な利益指標、EBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)が幻影だったことが分かった。」

「PE投資会社のリンゼイ・ゴールドバーグが2019年にオーストリアの包装会社シュア・フレキシブルズの売却に乗り出したところ、市場から疑いの目を向けられたことが発端だった。

ゴールドマンによる買い手探しは初期段階で失敗に終わったが、最終的に21年に投資会社B&Cグループに売却された。B&C側のアドバイザーはモルガン・スタンレーとマッキンゼーが務めた。

シュアは売却された後、ほぼ即座に崩壊したが、売り手側は何も間違ったことはしていないと主張している。」

シュアの財務状況について懐疑的な見方もあったそうですが...

「ウィーンを本拠とするB&Cは、デューデリジェンス(資産査定)の期間を短縮した後、シュアの企業価値を約9億ユーロ(現在の為替レートで約1400億円)と評価する取引で同社の過半数株式を取得した。 リンゼイは20%の株式を保持した。」

とことが、数ヶ月後には...

「しかし数カ月後、シュアの新オーナーとなったB&Cは、経営陣による浪費や報告された利益を水増しする工夫が施された会計処理の証拠を見つけたと債権者宛ての書簡で訴えた。

シュアに絡む債権の価値は急落。銀行が与信枠を凍結したため、B&Cはアポロ・グローバル・マネジメントが率いる債権者グループにシュアの経営権を譲渡せざるを得なくなった。

シュアは最終的にEBITDAを修正し、20年のEBITDAを3分の1に引き下げたKPMGから送り込まれた会計士は、それ以前の2年分についてもさらに大幅な修正を勧告した。」

KPMG以外にもビッグ4事務所が関与しています。

「オーストリアの不動産帝国シグナが会計処理に対する批判が原因で破綻し、ドイツの決済会社ワイヤーカードの不正会計を巡る裁判が続く中、欧州の監査業界は再び厳しい目にさらされることになった。

プライスウォーターハウスクーパース(PwC)はシュアの決算を承認EY(アーンスト・アンド・ヤング)は買い手のデューデリジェンスを支援した。  

リンゼイの広報担当者によれば、シュアの「財務諸表は、4大会計事務所の1社であるPwCによって監査され、承認された」という。

同担当者は「B&Cはシュアを買収する前に広範なデューデリジェンスを実施し、同社がEBITDAをどのように計算し報告しているかを知り、理解していた。また、迅速な新規株式公開(IPO)による大きな利益を見込んで、シュアの市場価格を上回る評価額を提示した」と主張した。」

どのような水増しだったのか...

「懐疑的な投資家がEBITDAについて語る場合、企業による仮定に基づく「調整後」の数値を指すことが多い。B&Cによるシュア買収では、報告されたEBITDAで同社が資本支出として除外した費用が焦点となった。

リンゼイの下で、シュアは特定のボーナス支払い、過剰なコンサルティング契約、さらには機械の試験・保守・移設にまで及ぶ膨大な支出を資産として計上し、時間をかけて減価償却していたとされる。 」

「ブルームバーグが入手した文書によると、リンゼイはシュアと話し合い、経費を資産として計上するという方法でかさ上げしたEBITDAを報告。EBITDAと実際の損失の差は、「特定の費用の資産計上が主な原因だ」とB&Cに伝えた。

ウィーン経済・経営大学コーポレートガバナンス研究所のアン・ダーシー所長は「シュアの経営陣が実際に行ったのは、費用を貸借対照表に載せることだった。非常に短期的な措置だという点で奇妙な行動だ」と述べ「経営陣が、売却が完了するまでの間、数値を粉飾しようとした」との見方を示した。」

記事を読んでも、EBITDAだけが水増しされていたのか、それとも、財務諸表に粉飾があったのか(粉飾があったのならPwCの責任も問われる)はあいまいです。

いずれにしてもこの取引にはビッグ4会計事務所など専門家が関わっていたのですから、事前に気がつきそうなものですが...

「EBITDAの性質を考慮すると、なぜこれほど多くの財務専門家が数値を精査しながら異議を唱えなかったのかという疑問が生じる。

全てを検証した上で、一体どうして監査法人が異常に気付かなかったのか」と監査法人RSMのリチャード・ガードナー公認会計士は言う。「監査法人はどんな質問をしたのだろうか」。

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