会計ニュース・コレクター(小石川経理研究所)

船井電機破産、不可解な資金の流れ 出版社が買収後3年半、347億円の現預金ほぼ枯渇(産経より)

船井電機破産、不可解な資金の流れ 出版社が買収後3年半、347億円の現預金ほぼ枯渇

船井電機の倒産を取り上げた記事。

すでにいろいろ報じられているように、普通の倒産とはだいぶ違うようです。

「船井電機のような規模の会社が民事再生法や会社更生法によって事業再建を図らず、取締役会などの決議を経ない準自己破産の手続きをとるのはきわめて珍しい。帝国データバンクの担当者は「企業のノウハウも人材も散逸してしまう。大企業でこのようなケースは見たことがない」と驚きを隠さない。

破産申立書などによると、船井電機の21年3月末時点の現預金残高は約347億円あった。しかし、今年10月25日に予定していた従業員への給与計1億8千万円を支払うと、運転資金は1千万円を下回るというほぼ枯渇した状態となっていた。約3年半の間に一体何があったのか。」

資金の流れを示した図が掲載されています。

(産経新聞ウェブサイトより)

記事本文でもふれているように、ミュゼプラチナムという脱毛サロンの会社にも流れたようですが、金額は示されていません。また、船井を買収した秀和へのりそなの貸付けが、船井の資金を使って返済されており、それは180億円もの大きな額です(記事によれば、りそなは今年5月に回収)。船井の資金繰りが一挙に厳しくなったのは、このりそなへの返済が大きな要因だったのでしょう。また、親会社の貸付について、公認会計士がコメントしています。

「M&A(企業の合併・買収)に詳しい公認会計士の久禮(くれ)義継氏は「買収の手段の一つで、スキーム上、特に不自然なところはないように見受けられる」と話す。ただ、船井電機が持ち株会社である船井電機HDに約253億円を貸し付けていたことについて「グループ全体を統括する持ち株会社が子会社に貸し付けるのが普通。金額もきわめて多額で、違和感がある」と指摘する。」

学者のコメント。

「近畿大経営学部の中村文亮准教授(M&A)「安すぎる日本企業、株価上げる努力必要」

今回のケースは、当事者でないと経営戦略の失敗か、企業の資産を吸い上げるのが目的の「吸血型M&A」か判然としないのが難しい点だろう。ただ、出版社が電機メーカーを買収する経営合理性が見えないなど気になる点はある。秀和システムに任せて本当に船井電機が再建できるかをもう少し慎重に見定める必要があったのではないか。

根本的な問題として日本の企業が安すぎることがある。船井電機には買収額を上回る約347億円の現預金があったとされている。つまり、買収すればそれだけでもうかってしまう。これでは買収側は経営を再建する必要性がない。(船井側は)株価を上げる努力をもっとしなければいけなかったし、現預金を事業の芽を育てる投資に回しておくべきだった。

また、株式についてもすべて売却してしまうのではなく、創業家がある程度保有して口を出せる状況をつくっておけばよかったのではないか。一般的にはそういうケースが多い。株式をすべて握られてしまうといざというときに何も対抗できない。船井側の脇が甘かったといえるだろう。」

(今年の流行語大賞経理部門は「吸血型M&A」でしょうか。)

りそな銀行社長、船井電機破産手続き「決算に影響ない」(日経)

「りそな銀行の岩永省一社長は12日、大阪市内で開いた2024年4〜9月期の決算記者会見で、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた船井電機(大阪府大東市)について「個別の話は言えない」としたうえで、「決算に影響が出ることはない」と述べた。」

「関係者によると、りそな銀が買収資金として秀和システム系企業に貸し付けた180億円は、船井電機の預金を担保として5月に回収されており、現在りそな銀は船井電機に対して融資をしていないという。」

船井電機の倒産でりそなに影響が出るというより、りそなによる資金回収が倒産の引き金を引いたともいえそうです。

そもそも、りそなが、経営能力が疑わしい先に船井買収資金を融資しなければ、船井が倒産することもなかったでしょう。やはり、りそなの取引先は中小企業ばかりで、大きなM&Aを適切に実行できる先はなかったのかもしれません。今後は、りそなが融資した先からのM&Aは要注意ということになるのでしょう。

日経の記者も、金融機関の貸し手責任について、問いただすべきでしょう。

船井電機の破産、会長が取り消しを申し立て 「債務超過ではない」(朝日)

「破産手続きの開始決定が出されたAV機器メーカー船井電機の代表取締役会長だった原田義昭元環境相(80)が、決定の取り消しを申し立てたことが原田氏らへの取材でわかった。10月30日付で、「債務超過でも支払い不能でもない」と主張。ただ、識者の一人は「決定を覆すのは相当にハードルが高い」と指摘している。」

船井電機会長、破産決定に即時抗告 東京地裁「理由なし」(日経)(記事冒頭のみ)

「船井電機(大阪府大東市)の破産手続き開始を認めた東京地裁の決定に対し、同社の代表取締役会長に就任した原田義昭・元環境相らが東京高裁に即時抗告を申し立てていたことが12日、分かった。地裁の訴訟記録で判明した。地裁は原田氏らの即時抗告について高裁に「理由のないものと考える」とする意見書を11日提出した。」

この会長は、倒産直前に就任した人のようです。

船井電機会長に原田元環境相が就任(2024年10月11日)(NetIB-News)

「時期を同じくして、役員構成も変更された。前社長で、秀和システムの代表取締役会長でもある上田智一氏は、9月27日付で取締役から外れた。新社長には、日本政策金融公庫専務や財務省理財局次長を務めた上野善晴氏が就任。驚いたのは、代表取締役会長に元環境大臣の原田義昭氏が就任したことである。

原田氏は21年の衆院選で落選したが、今も政治に未練があるようで、昨年の筑紫野市長選では平井一三氏を支援し、衆院選でも自民党公認の栗原渉氏に対抗して候補者を擁立する動きを水面下で行うなどしていた。

原田氏は元通産官僚で中小企業庁参事官も務めた経歴をもつが、官僚と経営者は違う。弁護士資格も有する同氏だが、はたして船井電機の再建に寄与できるのか、注目される。」

政治家が登場するというのは、ますますあやしい...

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