「テクノロジーで理想の社会は作れない」『帳簿の世界史』“ベストセラー歴史家”が鳴らす未来への警鐘
『帳簿の世界史』の著者へのインタビュー記事。「信頼」の重要性を語っています。
「『帳簿の世界史』をもって捉えなおしてほしいのは、「信頼」が如何に重要なものなのかということです。トランプという人物が米国で大統領になったこと。これは、人々の国に対する信頼がガタ落ちしたことが引き金となりました。また、2007年の金融危機の際には不良資産救済プログラム(TARP)に基づき、政府が金融機関に資本注入をしましたが、これらの資金について透明な監査は行われていません。こうした信頼の喪失が、今の時代を形作っているのです。」
「ドイツなどは大きなバランス・シートを操作することによって(ドイツの貸出金利は2.5%とダントツに低い。イタリアは7.7%、フランスは5%)、「赤字」を自在にコントロールしています。こうした基本的な会計の手法を知っておくと、騙されづらくなったり、あるいは騙されたと思った時に対処ができます。」
会計士に権限があるかどうかが重要な要素だそうです。
「反対に、会計文化において特に素晴らしい国を挙げるとすれば、ニュージーランドになるでしょう。会計士という面では、英国も良いです。オーストラリア、アメリカ、イタリアも悪くないですね。しかし結局は、法律上どこまでの権限が会計士に認められているのか、というのが重要な要素です。
ニュージーランドが世界でも有数の素晴らしい会計文化を誇っているのは、そもそも人口に対する会計事務所の数が極めて多く、様々な角度から監査を行えているからです。ニュージーランドでは金融危機が起こらなかったことを思い出してください。これは偶然ではありません。会計士や会計事務所の発言力が大きいため、政府も不適切な行動に走ることができないのです。
他に、シンガポールも社会・会計文化ともに健全な国の一つです。また、意外かもしれませんが、金融危機後に大きな改革を行ったギリシャも、現在の政府の会計レベルと文化は世界最高水準であり、信頼も戻ってきています。」
それでは、会計士の力が弱く、政府の会計にも会計士がほとんど関与していない日本はどうなのかということになりますが、それにはふれず、トヨタのレクサスを例に挙げて、「日本」というブランドに対する信頼度は高いとほめています。しかし、日本が女性を活用できていない現状は批判しています。
テクノロジーの影響は...
「テクノロジー化の波は、会計の世界にも確実に押し寄せています。近いうちに、会計の基本的なことはコンピューターやAIによって行えるようになるでしょう。また、ブロックチェーンにも大きなポテンシャルがあるはずです。これは自己監査力を高めるにはもってこいの技術だからです。
しかし、会計というのは科学ではなく、芸術に近いものです。たとえばレクサス車のバリュエーションを考えるとき、正確な数字をはじき出すためには会計知識だけでは足りません。10年保証がついているレクサスを買ったとしても、7年後に世界が電気自動車社会へと完全に移行してしまったらどうなるのでしょうか。また、二酸化炭素の排出規制が変化したらどうなるのでしょうか。
こうした状況に対応するため、会計士には、実は深い教養が備わっていなければならないのです。
例えば日産の問題について、テレビで「カリスマ会計士」が分かりやすく、何が問題になっているのかを説明してくれたら、かなりの視聴率が取れるはずです。本来、会計士が解説できる情報には高いニーズがあるのです。」
日本にも、会計士ではないけれども、おなじみの八田教授や会計評論家(元会計士)の細野氏がいます。もちろん、会計士にも、一般向けにわかりやすくかつ正確に深い内容を解説できる人はいるのでしょうが、所属している組織のしがらみ(監査法人ならクライアントとの関係など)があって、目立つ活動はできないのでしょう。
執筆中の本についてふれています。
「現在、私は自由市場をテーマに、新たな本を書いています。これまで「自由市場」という概念を追って、人類史を書いた人はいませんでした。」
「私たちはこれまで、それが18世紀、アダム・スミスによって提唱された概念だと思ってきたのですが、歴史をひも解いていくと遥か昔のローマ時代、なかでもキケロにたどり着くことが分かりました。実はアダム・スミスはキケロ派の倫理哲学者であり、哲学者ヒュームもキケロを深く勉強していました。」
「そして判明したのは、自由市場というのは自由でも何でもない、ということです。それは2500年もの間、西洋の支配階級の思想と価値観に支えられてきた産物だったのです。
そもそも裕福になるためには、「自由」である必要などありません。そのことは近年、中国(ずっと昔はフランス)など、主に国営企業によって経済を成長させてきた国の例をみても明らかです。
すると、我々が求めている自由市場とは一体何のために“存在”するのか。何故、私たちはそれを求め続けてきたのか。ここに現代社会を読み解くヒントがあります。」
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