金融庁傘下の公認会計士・監査審査会は、新日本有限責任監査法人を検査した結果、その運営が著しく不当なものと認められたとして、2015年12月15日付で、金融庁長官に対して、当監査法人に対して行政処分その他の措置を講ずるよう勧告しました。
(処分・措置の内容についてはふれていません。)
大きく4つに分けて指摘がなされています。
最初の2つは、法人全体に関するものです。残りの2つは、具体的な監査(たとえば東芝の監査)における指摘事項なのか、それとも法人全体の傾向なのか、はっきりとは書いておらず不透明です。
指摘の1番目は審査会検査、日本公認会計士協会の品質管理レビュー等への対応です。
「品質管理本部及び各事業部等においては、原因分析を踏まえた改善策の周知徹底を図っていないことに加え、改善状況の適切性や実効性を検証する態勢を構築していない。そのため、社員及び監査補助者のうちには、監査で果たすべき責任や役割を十分に自覚せず、審査会検査等で指摘された事項を改善できていない者がいる。また、...審査態勢も十分に機能していない。
経営に関与する社員はこうした状況を十分に認識しておらず、審査会検査等の指摘事項に対する改善策を組織全体に徹底できていない。」
「これまでの審査会検査等で繰り返し指摘されたリスク・アプローチに基づく監査計画の立案、会計上の見積りの監査、分析的実証手続等について、今回の審査会検査でも同一又は同様の不備が認められており、当監査法人の改善に向けた取組は有効に機能していないなど、地区事務所も含めた組織全体としての十分な改善ができていない。」
2番目は品質管理体制ですが、1番目と同じようなことを繰り返し指摘しています。
「当監査法人では、品質管理本部及び各事業部等において、検査結果等に対する原因分析を踏まえた改善策の周知徹底及び浸透を十分に図っていない。
品質管理本部は、定期的な検証及び期中レビューにより、全ての監査の品質を一定水準以上に向上できているかを検証することとしている。しかしながら、これらの手段を組み合わせて用いても、早急に改善を要する監査業務や監査手続への適時な対応となっていないなど、実効性のあるモニタリングを実施する態勢を構築していない。また、定期的な検証において、監査手続の不備として指摘すべき事項を監査調書上の形式的な不備として指摘している。そのため、監査チームは指摘の趣旨を理解しておらず、審査会検査等で繰り返し指摘されている分析的実証手続等の不備について、改善対応ができていない。
さらに、品質管理本部は、問題のみられる一部の地区事務所への改善指導を実施しているものの、前回の審査会検査で検証した地区事務所が担当する監査業務において、今回の検査においても重要な監査手続の不備が認められている。
監査での品質改善業務を担っている各事業部等は、品質管理本部の方針を踏まえて監査チームに監査の品質を改善させるための取組を徹底させていない。また、一部の業務執行社員は、深度ある査閲を実施しておらず、監査調書の査閲を通じた監査補助者に対する監督及び指導を十分に行っていない。
このように、当監査法人においては、実効性ある改善を確保するための態勢を構築できていないことから、監査手続の不備の改善が図られない状況が継続しており、当監査法人の品質管理態勢は著しく不十分である。」
3番目は個別監査業務の指摘です。特定の監査業務(たとえば東芝の監査)を指しているようにも読めますが、文面上は、全監査エンゲージメントの話のようにもとれます。
「個別監査業務においては、業務執行社員がリスクの識別、リスク対応手続の策定等にあたり、職業的懐疑心を十分に保持・発揮しておらず、また、実施した監査手続から得られた監査証拠の十分性及び適切性について検討する姿勢が不足している。
このため、識別されたリスクに対応した監査手続が策定されていないなどリスク・アプローチに基づく監査計画の立案が不十分であり、重要な会計上の見積りの監査における被監査会社が用いた仮定及び判断について遡及的に検討をしていないほか、被監査会社の行った見積り方法の変更や事業計画の合理性について批判的に検討しておらず、分析的実証手続の不備が改善されていないなど、これまでの審査会検査等で繰り返し指摘されてきた監査手続の重要な不備が依然として認められる。加えて、重要な勘定において多額の異常値を把握しているにもかかわらず、監査の基準で求められている実証手続が未実施であり、また、経営者による内部統制の無効化に関係したリスク対応手続として実施した仕訳テストにおいて抽出した仕訳の妥当性が未検討であるなど、リスクの高い項目に係る監査手続に重要な不備が認められる。」
4番目は審査です。
「監査業務に係る審査においては、審査担当社員が、監査チームから提出された審査資料に基づき審査を実施するのみで、監査チームが行った重要な判断を客観的に評価していない。また、監査チームが不正リスクを識別している工事進行基準に係る収益認識について、監査調書を確認せず、監査チームが経営者の偏向が存在する可能性を検討していないことを見落としているなど、今回の審査会検査で認められた監査実施上の問題点を発見・抑制できていない。
このように、当監査法人の審査態勢は、監査チームが行った監査上の重要な判断を客観的に評価できておらず十分に機能していない。」
処分するという方針が先にあって、そのための材料をかき集めてきたような印象もあります。法人全体として、本当にこんなにひどいのなら、たいへんなことです。
また、全体として、これまでの金融庁検査で適切に指摘済みなのに、監査法人側がそれに十分対応していなかったというスト―リーになっているようです。
新日本監査法人への行政処分を勧告=公認会計士監査審査会(ロイター)
「過去の検査で再三指摘されてきた監査手続き上の問題点について同監査法人が十分に改善できておらず、自力での改善は難しいと判断した。
監査審査会は9月に同監査法人への定期検査を開始。不正会計問題が発覚した東芝への監査体制のみならず、監査業務全般にわたって検証した。審査会は、東芝の監査において職業的専門家としての「懐疑心」が発揮できていなかったと認定した。」
金融庁の発表文では「東芝」の監査のことだとはいっていないのですが...。
東芝不正会計「監査法人へ行政処分を」金融庁に勧告(NHK)
「金融庁は、東芝の監査を担当した会計士から話を聞くなど、不正会計問題について調査を進めていて、新日本監査法人に対し、業務改善命令などの行政処分を検討しています。」
監査審査会、新日本の行政処分を勧告 東芝会計問題(日経)
「監査審査会は東芝の監査について、東芝が特殊な隠蔽工作をしたことや新日本監査法人に圧力をかけたことなどは確認されなかったとしている。」
隠ぺい工作がなかったのに、不正を発見できなかったのでは、よけいに責任が重くなります。
新日本監査への行政処分を勧告 東芝手続きで重大不備(日経)
「個別企業への監査では東芝問題を主に点検した。審査会幹部は「多数の異常値を把握していても、実証手続きをしていなかった」と指摘。水増しした利益などの虚偽記載を検証しなかった上、会社側の財務担当者の説明をうのみにするケースがみられたという。新日本の審査体制は「重要な判断を客観的に評価できず十分に機能していない」(同幹部)と認定した。」
「今回の東芝問題は新日本側に故意があったかが焦点になる。金融庁は業務改善命令を軸に、さらに新規業務の一部停止や課徴金処分も慎重に検討している。」
発表文自体は「東芝問題を主に点検」したとは書いていません。
東芝不正会計 新日本監査法人の行政処分を勧告(毎日)
「金融庁は今月7日、証券取引等監視委員会から東芝に過去最高額の課徴金(約73億円)を課すよう勧告を受けた。新日本の監査責任は重いと判断しており、監査報酬の2年分に当たる20億円規模の課徴金納付命令を検討している。課徴金の実施は、08年の制度導入後初めてとなる。顧客との新規契約を6カ月前後禁じる一部業務停止命令を出す可能性もある。」
東芝不正会計 新日本監査法人の行政処分を勧告(テレビ朝日)
「審査会は、定期検査の結果、新日本監査法人が有価証券報告書の虚偽記載につながる項目を重点的に調べていないなど過去の検査で何度も指摘されたことが改善できていないことが分かったとしています。これは、東芝の監査に限らず、他の企業に対してもみられたということです。審査会は「法人の規模が大きく、指摘が社内に浸透しなかった」と分析しています。」
新日本監査法人の処分、金融庁に勧告 東芝不正見過ごし(朝日)
「東芝の不正の可能性に気付いたのに深く追及せず、他の企業の監査についても、審査会が繰り返し不十分だと指摘しても改善されなかったという。」
「原因については「大企業だから大丈夫だという思い込みから、漫然と前年と同じ監査を繰り返していた」とし、意図的な不正の見逃しは確認されなかったとしている。」
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