アスカ監査法人に対する検査結果に基づく勧告について(PDFファイル)
(とりあげるのが少し遅れましたが)金融庁の公認会計士・監査審査会は、アスカ監査法人を検査した結果、同監査法人の運営が著しく不当なものと認められたとして、同監査法人に対する行政処分その他の措置を講ずるよう勧告しました(2024年11月1日付)。
発表文は、いつもどおり、運営が著しく不当という結論に向かって、問題点をこれでもかこれでもかと列挙していく方式で書かれています。
今回の特徴的な点は、「監査調書の改ざん」を重視しているらしいということです。
業務管理体制。
「経営管理担当者である代表社員及び品質管理担当責任者である代表社員は、職業的専門家としての倫理感が欠けており、法人内において、外部検査等での指摘の回避を最優先事項とし、職業的専門家としての誠実性・信用保持を軽視する風土が形成され、まん延する状況を助長・放置している。このため、業務執行社員が、監査報告書日後の追加的な監査手続の実施、監査調書の事後的な作成や改ざん等を指示し、監査補助者が当該指示を躊躇なく実行するなど、社員及び職員において、法令、監査の基準、倫理規則等を遵守して業務を遂行する意識が保持されていない。」
(監査基準報告書 230「監査調書」では、監査報告書日後の手続や、最終的な整理が完了した後の監査調書の修正・追加の規定があり、追加手続の実施や調書の事後的作成が禁じられているわけではありません。例えば、監査事務所内のレビューで不備を指摘されたら、調書整理完了後であっても、必要な手続を追加実施し、手続や調書の不備を改善しておくべきでしょう。ただ、整理完了済みの調書をいじることはできないというだけです。指摘がちょっと雑です。もちろん、監査報告書日後の手続であることや修正・追加された調書であることは明記しないといけないので、当初は不備だったということを自白するようなものですが)
「経営管理担当者である代表社員が、収益維持・拡大を志向する経営姿勢を保持する中で、社員会等において、監査の品質の維持・向上に向けた施策(監査業務数の適正水準への調整等)について議論する風土が形成されていない。このため、当監査法人では、業務執行社員が、人的資源が不足している状況について十分に考慮することなく、監査契約の新規の締結又は更新を行い、また、十分かつ適切な監査証拠を入手していない状況において監査手続を終了させるなどの事態が生じており、各業務執行社員において、監査の品質を適正な水準に保つ意識が保持されていない。」
品質管理態勢。
「経営管理担当者である代表社員は、他の社員の過半数による承認を受けることなく、当該代表社員が代表社員を務める税理士法人との顧問契約の締結、当該代表社員が代表取締役を務める株式会社との業務委託に関する契約の締結等を行っている。」
(監査品質とは直接の関係はなさそうな指摘です。そもそも、公認会計士法で、利益相反取引の制限が規定されているのかどうか...)
「当監査法人の社員及び職員は、令和4年度品質管理レビュー(通常レビュー)及び令和5年度品質管理レビュー(改善状況の確認)において、レビュー対象個別監査業務とする監査業務に係る通知を受けてから、協会のレビューアーに当該監査業務に係る監査ファイルを提出するまでの期間において、監査調書の改ざんを組織的に行っている。」
「当監査法人の社員及び職員は、今回の審査会検査において検証対象個別監査業務とする監査業務に係る通知を受けてから、審査会検査の検査官に当該監査業務に係る監査ファイルを提出するまでの期間において、監査調書の改ざんを組織的に行っている。」
「当監査法人は、監査報告書日後に実施した監査手続の結果に基づき、監査調書を新たに作成する行為等を防止するための措置を講じておらず、監査調書の事後的な作成や、監査調書の改ざんを組織的に行っている。」
(先に述べたとおり、「監査調書を新たに作成する行為」や「監査調書の事後的な作成」は禁じられていません。理由があれば認められています。もちろん「改ざん」はよくありません。)
「審査担当社員は、監査チームが実施した、不正リスク対応や会計上の見積り、グループ監査等に係る監査手続に関し、業務執行社員との討議や関連する監査調書の査閲を十分に実施することなく、監査チームによる重要な判断及びその結論には問題がないとして審査を完了させており、今回の審査会検査で検証対象とした個別監査業務において検出された重要な不備を含む複数の不備を、審査において指摘できていない。」
「このほか、内部規程の整備及び運用、品質管理レビューでの指摘事項の改善状況、職業倫理及び独立性、監査契約の更新、社員及び非常勤職員の評価等、監査補助者に対する指示・監督及び監査調書の査閲並びに品質管理のシステムの監視に不備が認められる。」
個別監査業務。
「業務執行社員及び監査補助者は、会計基準及び監査の基準の理解や、現行の監査の基準が求める手続の水準の理解が不足している。特に、不正リスクへの対応、会計上の見積りの監査、確認手続及びグループ監査に関し、会計基準及び監査の基準の理解や、現行の監査の基準が求める手続の水準の理解が不足している。」
「業務執行社員及び監査補助者は、被監査会社の特性に応じたリスク評価を適切に実施していない、監査証拠に不自然な点が認められる状況において追加の監査手続を実施していないほか、会計上の見積りに係る経営者の仮定の合理性を批判的に検討していないなど、職業的懐疑心が不足している。」
「業務執行社員は、各業務執行社員が担当する監査業務を実施するために必要な時間を確保できていないほか、監査補助者を過度に信頼しており、監査補助者に対する適切な指示・監督及び監査調書の深度ある査閲を実施していない。」
「監査補助者は、十分な監査手続を立案・実施するために必要な時間を確保できておらず、必要な監査手続を完了させることなく監査を終了している。」
「これらのことから、収益認識における不正リスクへの対応、固定資産の減損の検討、確認手続及びグループ監査に係る監査手続が不十分といった重要な不備が認められる。」
「連結範囲の検討、リスク評価手続、違法行為への対応、収益認識における不正リスクへの対応、経営者とのディスカッション、関係会社に対する債権の評価、収益認識基準の検討、企業結合取引に関する監査手続、訴訟事件への対応、注記の検討、内部統制監査、内部統制の運用評価手続、内部監査人の作業の利用、関連当事者取引の注記、監査役等とのコミュニケーション、後発事象の手続及び継続企業の前提の検討が不十分、また、重要な虚偽表示リスクの評価、仕訳テスト、資産除去債務の検討、関連当事者取引の検討及び虚偽表示の評価が不適切かつ不十分、さらに、監査上の主要な検討事項(KAM)、監査報告書のその他の事項区分の検討及び監査報告書の日付が不適切並びに経営者確認書が未入手といった、広範かつ多数の不備が認められる。」
(以前は大手監査法人でも、協会レビューの際に調書改ざんし放題だったという話も風の噂に聞きますが、十数年前(?)に「監査調書」の監査基準委員会報告書(当時)で、調書の整理期限が定められ、また、調書の電子化、アーカイブの仕組みの整備(変更履歴が残る)などにより、大手監査法人では対応が完了しているのでしょう。昔の感覚のままの中小事務所は、今後も金融庁検査や協会レビューで同様の指摘が続くかもしれません。)