政府が進めようとしている農協改革の解説記事。農協の監査が、JA全国監査機構を分離して設立される新監査法人と一般の監査法人の選択制になることをめぐる論点を説明しています。
「新法人は、同法(注:公認会計士法)に加え公認会計士協会の自主規定も守る必要があるなど、法制度の枠組みは激変する。その中で骨格では、新法人の「円滑な設立と業務運営が確保でき、農協が負担を増やさずに確実に会計監査を受けられるよう配慮する旨を規定する」とした。
新制度への移行に伴う大きな論点が、従来の会計監査と業務監査の一体的な実施が保てるかだ。全中は、財務諸表の適正性を証明する会計監査に加えて、幅広い事業についてその適正性を検証する業務監査も同時に行う。一方で、公認会計士監査で義務化されるのは会計監査だけ。骨格は、業務監査を「経営コンサル」とし、単位JAが任意で受けるものと位置付けられた。
監査主体は監査対象から独立性を保つ必要があるが、コンサルを手掛ければ監査対象の経営に入り込み、独立性が損なわれる懸念がある。同協会は自主基準で、何らかの方策をとることで独立性が保てるならばコンサルと会計監査の同時提供は可能とするが、実際には、全中のような広範な業務監査と会計監査を両立している実例は無い。」
結局費用負担の問題になるのではないでしょうか。今まで監査報酬相当額として全中に支払ってきた金額より多くは負担できないという前提で、財務諸表監査のコストが今までより増えるとすれば、業務監査(「経営コンサル」)の部分を減らさざるを得ないでしょう。それでも足りなければ、負担を増やしてもらうか、監査人側が日数は減らさずに安く請け負うしかありませんが、最低限の監査品質が維持できないほど安くしては本末転倒です。
独立性に関しては、新監査法人の内部で会計監査と業務監査を担うチームを分けることも検討されているようです。しかし、J-SOXで、チームを分離することまでは求められなかったことを考えると、必ずしもそこまでする必要はないようにも思われます。逆に、チームを分けたからといって、同じ監査法人内で同時提供できない業務もあります。「業務監査」の中身次第でしょう。
解説 農協改革 9] 監査(2) 公認会計士 確保が鍵
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「公認会計士監査に移行すると、業務監査は任意の取り組みとなるので、農協監査士が担うことは問題ない。一方で会計監査は公認会計士法に基づき、責任者は公認会計士しか担えなくなる。責任者には監査対象に出向き経営者と討議したり、監査チームの調書を最終確認したりする役割がある。全中は約640の単位JAを監査しているが、農協監査士に公認会計士の資格を取ってもらうなどでその割合を増やさないと、人手不足に陥る懸念がある。」
一般の監査法人に依頼する場合の問題点にもふれています。
「新法人がうまく機能しなければ、単位JAが一般の監査法人の監査を選ぶことにつながる。一般の監査法人は会計監査のノウハウはあるものの、JAは営農経済事業をはじめ幅広い事業を展開している。これらの事業の健全性を確かめる業務監査について、一般の監査法人がどの程度対応できるのかは不透明だ。
また、公認会計士は大都市に集中し、地方の単位JAにとっては、ふさわしい監査法人が地元で見つからない事態も心配される。・・・」
農協監査が全国でどのくらいの業務量になるのか、きちんと監査できるだけの人材確保ができるのか(全中から分離する監査法人で足りるのか)などを、考えなければならないでしょう。先にふれた農協側の負担との兼ね合いもあります。たぶん会計士協会あたりで検討していると思いますが。
全部合わせれば世界最大級の金融機関であるという意味では、その監査は、金融庁の問題でもあります。
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