シャープのプレスリリース。
発表を延期していた2021年3月期第3四半期決算短信を提出するとともに、過年度の決算短信等について訂正開示したとのことです。
経緯は...
「当社は、当社連結子会社であるカンタツ株式会社(以下、「カンタツ社」という。)において不適切な会計処理が存在するとの認識に至り、外部の弁護士・公認会計士を含む調査委員会を設置して事実の確認等を行ってまいりましたが、本日付「調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」のとおり、調査委員会からの調査報告書の提出を受けました。
これを受けて、主として過年度においてカンタツ社における売上計上要件を満たさない売上取消や棚卸資産評価損の計上、固定資産の減損の計上を行い、その他の当社連結決算における未修正事項と併せて、過年度決算の訂正を行います。」
後述の調査報告書によると、カンタツは、「スマートフォン等に搭載されるカメラのマイクロレンズユニット分野で有数の企業」とのことです。シャープは、2018 年 3 月に同社を連結子会社化しています。
訂正の影響は...
利益や純資産への影響は、シャープ全体の規模と比較してもかなりのものとなっています。
不正の詳しい中身につては、こちらの調査報告書をどうぞ。
↓
調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(PDFファイル)
調査開始のきっかけは...
「シャープ株式会社(以下「シャープ」又は「シャープ本社」という。)は、カンタツ株式会社(以下「カンタツ」という。)において多額の売掛金の滞留があったことから、このような滞留が生じた経過・原因について内部監査を実施することとし、2020 年11 月、シャープ監査部によって監査が実行された結果、取引先からの注文(purchase order。以下、注文あるいは注文書を示すものとして「PO」を用いる。)が無いままに売上が計上されていること(架空売上)を発見した。また、過年度から滞留している売掛金が存在していたため、シャープ監査部がその経過や回収可能性について継続監査を行った結果、当該売掛金がカンタツの直接の取引先である商社に対して製品を販売する取引から生じたものであるところ、その取引については、さらに商社の取引相手(以下「製品納入先」という。)に転売できない場合にはカンタツに返品できるという返品特約が付されていること、よって、転売がなされるまではカンタツにおいて通常売上を計上することは許されないにもかかわらず、売上を計上していることを発見した。」(1ページ)
どのような不正だったのか...
(報告書目次より)
A 法人及び B 法人は、カンタツの海外拠点です。
「A 法人においては、2018 年 7 月頃から、資金繰りの必要性及び売上高確保のため、商社(甲社)を経由して製品納入先に対してレンズを販売するという商流において、製品納入先から商社への PO が提出されていないなど転売見込みが確定していない時点で、予め合意した範囲で商社(甲社)からの PO のみに基づき、当該商社(甲社)に対し商品を引き渡し、この時点で売上を計上していた。」
「2020 年 1 月頃以降、上記アの先行販売によっても売上が不足したため、売上を確保するため、製品納入先からの PO 発行がないことはもとより、商社(甲社)からのPO 発行もない(商社(甲社)の了解がない)状況下で、不正に売上を計上した。」
「評価損又は廃棄損を計上して簿価を有しない製品を販売して得られた収益は、営業外収益に計上され、売上を計上できない。
B 法人は、後記(3)のとおり簿価を有しない製品の販売を見込んでいたことから、当該販売についても売上を計上できるよう、これに先立ち、2019 年 2 月から 3 月にかけて、当該製品を、B 法人が商社 A に、商社 A が商社 B に、商社 B が B 法人に販売する循環取引により、通常の製品であるかのように装い、不正に仕入価格を簿価とする製品として棚卸資産計上した。かかる循環取引は、伝票処理のみで実施され、実際の出荷はされておらず、実体のない取引であった。
なお、B 法人から商社 A への販売時点では簿価を有しない製品であり、上記のとおりその販売について売上・営業利益を計上することができないものであったが、実際には、誤って売上及び原価が計上され、後記(3)の商社(乙社)への販売による売上・営業利益と併せて、同一の製品の販売について二重に売上・営業利益が計上された。」
(財規では、作業くずの原価は売上原価となっており、その売却収入は売上高でしょう。簿価を有しない製品の売却収入も、同じように考えて、売上高でよいような気がするのですが...。)
「B 法人から商社(乙社)への販売には、契約上、売買代金の支払に一定の条件が付されており、又は、一定の条件のもとに返品を受けることを義務付ける条件が付されていた。このため、同取引については、会計上、当該商社(乙社)がその販売先に対して当該製品を販売し B 法人に返品しないことが確定するなど、売買代金の支払条件が充足された時点ではじめて B 法人において売上計上が可能であったが、B 法人は、当該製品について、商社(乙社)への納品をした時点で、売買代金の支払条件が成就していないにもかかわらず、不正に売上を計上した。
また、2019 年 3 月に PO の発行を受けた製品については、製品の出荷すらなされていないにもかかわらず、不正に売上を計上した(但し、当該製品にかかる取引については、下記(4)イの商社(丁社)との取引によって販売できる見通しが立ったことから取引が解消され、その売上処理は 2019 年 7 月に取り消されている)。」
「カンタツは、2019 年 4 月から 6 月にかけて、及び同年 8 月から 12 月にかけて、製品納入先による発注の有無が未確定の段階で、商社(丙社)に対する製品の販売を実施した。当該販売に際しては、当該商社(丙社)の転売先の検収を了さない限り、カンタツとして販売代金の支払を受けることができないことを合意していた。このため、かかる商社(丙社)との間の取引では、会計上、対価支払の条件成就の見通しが立っていないため、売上を計上することは許されなかった。」
引用していると切りがないのでやめますが、こういう無理な売上を計上しているうちに、案の定、返品の嵐となり、それを回避するために、循環取引に走ったようです。
不正の動機は...
「2018 年 3 月末以降、カンタツはシャープの連結対象子会社となり、これまで以上に事業計画の達成状況についてのシャープへの報告を求められるようになった。また、シャープ出身の A 氏が代表取締役に就任し、これまで以上に事業計画の達成に注力するよう事業現場への働きかけを強めた。さらに、カンタツでは、予てより、上場申請を検討しており、2018 年度中の申請こそ決算の低迷に照らして見送ったものの、2019 年度以降についても引き続き上場申請を目指しており、そのためにも事業計画通りの事業の遂行、安定的な収益計上の実現が求められた。」
「B 法人では、事業形態に照らしても、製品が滞留在庫になるリスクがあった。カンタツでは、2018 年以降、相次いで製品納入先に納入できない製品が大量に発生した。
加えて、2019 年 7 月に製品の返品があったことから、滞留する在庫が増加し、これらの売却を実現しない場合には評価損を計上するリスクが高まった。
このような B 法人又はカンタツでの評価損の計上の回避の要請は、実需が確定しない段階で不正に売上を計上する動機の一つとなった。」
シャープ子会社が不正会計 架空計上や循環取引(共同通信)
「報告書によるとカンタツは、2018年7月ごろから製品を引き渡した時点で、返品の可能性があるにもかかわらず売り上げを計上した。20年1月ごろからは納入先から注文書の発行がない状況で計上。19年2~3月には、中国のカンタツ子会社が製品を商社に売って買い戻す循環取引をしていた。」
不正会計、子会社会長が主導 架空売り上げ75億円―シャープが調査報告書(時事通信)
「不正処理が行われたのは2018年4月から20年12月の間。報告書によると、カンタツは取引先の商社から発注がないのに商品を納入、売り上げとして計上するなどしていた。原因について、「(経営改善のためシャープから派遣された)会長への期待から反対が出なかったと推認される」と指摘。シャープによる18年3月の連結子会社化以降に高まった事業計画達成に対するプレッシャーも背景にあるとした。
調査に対し、当時の会長らは不適切との認識はなかったと説明したという。刑事告発や処分については現段階では決まっていない。」
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