上場企業、大型M&A増加 会計基準変更も一因
のれんの残高が急増しているという記事。
「上場企業の無形資産である「のれん」が急増している。M&A(合併・買収)で生じる買収先のブランド価値を示し、昨年末の総額は最大の29兆円に達した。成長を狙い企業が大型M&Aに踏み切っているためで、国際会計基準(IFRS)などのれんを定期的に処理しない会計基準への変更増加も一因だ。買収先の業績が悪化すれば多額ののれんが損失に転じる恐れがあり、将来の損失リスクも高まっている。」
まず、のれんが「買収先のブランド価値」だというのは不正確でしょう。海外会計基準では、ブランドはのれんとは別の無形資産として認識されることがあるようです。日本基準では、ブランド価値も紛れ込んでいるのでしょうが、基本的には、海外基準と同様、のれんは買収金額のうちのほかの資産・負債に配分されない残余部分ということになっています。
日経は、ほかの記事でも、のれんの枕詞として「買収先のブランド価値」といっているようです。
本論であるのれんの残高については...
「約3600社ある上場企業が2016年末時点で計上したのれんの総額を日本経済新聞社が集計したところ、1年前に比べ4兆8000億円(20%)多い29兆2000億円となった。上場企業は16年度に総額30兆円強の純利益を見込んでおり、のれんの残高は年間の純利益に迫る規模に膨らんでいることになる。
計上額が1千億円を超える企業は61社と1年前から9社増え、最大が4兆8000億円を抱えるソフトバンクグループだった。米通信大手スプリントや英半導体アーム・ホールディングスなどの大型買収を繰り返し、のれんが膨れあがった。M&Aを通じて海外展開を急ぐ日本たばこ産業(JT)やNTTも1兆円超ののれんを抱えている。」
会計基準について。
「日本の会計基準はのれんの一定額を毎年費用として処理する定期償却を実施。のれんの償却が利益を押し下げるのを避けるため、ルネサスエレクトロニクスなど大型M&Aを実施した企業の中にはのれんの定期償却が必要ないIFRSや米国会計基準への切り替えを決める例も増えている。
IFRSや米基準は日本基準のようにのれんを定期的に償却しない。代わりに買収先の業績が大幅に悪化した場合のみ、のれんの価値の減少分を一気に損失として処理するルールだ。」
会計基準ということでは、子会社株式を一部売却してものれんの金額を減らさない(売却簿価に含めない)という現行連結基準の処理も、のれんを減らさない方向に働くことになるでしょう。
報道によれば、ソフトバンクがアーム・ホールディングスの株式の一部をファンドに売却するという話があるようですが、のれんの金額はそれによっては減らないということになります(この点はIFRSと日本基準は同じ)。
逆に、連結子会社の株式を追加取得した場合(例:東芝がIHIからWHの株式を取得する)に、純資産のマイナスになるだけでのれんは増えないという改正もあるので、差し引き、どうなるかわからないともいえますが...。
記事の表であがっている10社の合計を計算してみると、12兆円超となり、それらの会社だけで4割を占めています。
のれん残高が大きな会社(日経記事より)
ソフトバンクグループ 4兆8589億円
J T 1兆6019億円
N T T 1兆2790億円
キヤノン 9364億円
武田薬品工業 7773億円
電 通 7187億円
パナソニック 5598億円
富士フイルムホールディングス 5049億円
ソ ニ ー 5032億円
KDDI 4539億円
こうやってみてみると、ほとんどがのれん償却不要の海外会計基準採用会社のようです。(大きな会社は海外基準採用割合が高いということもありますが)
子会社株式の一部売却(新日本監査法人)
当サイトの関連記事(ソフトバンクのアーム株一部売却について)
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