辞めたのか、辞めさせられたのか
LIXILグループの藤森義明社長兼CEOの退任を取り上げた記事。ちなみに監査人はトーマツです。
「2011年8月の就任から、藤森氏が矢継ぎ早に手がけたのは、投資総額5000億円に迫る大型M&Aだ。衛生陶器の米アメリカン・スタンダード、水栓金具の独グローエなど、業界の世界的名門を次々と買収。結果として、LIXILの売上高は1.5倍に拡大し、海外売上高比率も1割以下だったのが3割に伸びた(2011年3月期実績と2016年3月期予想の比較)。」
「だが一方で、買収戦略の中では蹉跌も生じた。最大の失敗は、グローエ買収に伴って傘下に収めた、中国の水栓金具メーカー・ジョウユウの粉飾決算だ。創業者の蔡親子によるとされる巨額の簿外債務が発覚、上場していたドイツで2015年5月に破産処理を行い、LIXILは関連して660億円もの損失を被った。
さらには前代未聞にも、ジョウユウは「ドイツにおける破産処理は中国での経営に影響しない」と、一方的に宣言。創業一族を経営幹部に据えたまま、現在も中国で経営を続けている。LIXILは債権約360億円の回収に乗り出しているものの、もはや糸の切れた凧である、ジョウユウと創業者親子が経営資源や個人資産から返済額を捻出するとは、期待しにくいのが現状だ。」
「M&Aによる失敗は、通常、収益向上策が計画通りにはいかなかったという、買収後の経営力不足によるもの。だがジョウユウの場合、そもそもが負債まみれの”まがい物”であり、現地経営陣も意思疎通が困難な曲者である。つまり、本来買うべきでない企業を傘下に収めてしまったという、目利き力の問題なのだ。」
基本的には、LIXILが現地経営者にだまされたという構図だと思われますが、それにしては、昨年11月に公表された調査結果があまりに中身のないものだったので、かえって、なにか裏があるのではないかと思わせます。雑誌FACTAもその点を追及しているようです。
会計的には、以前にもふれたとおり、まず、損失計上のタイミングが疑問です。FACTAの報道によれば、2014年7月に、問題のジョウユウの中国子会社の借り入れ(借入先は日系の金融機関)について債務保証を行ったようですが、2015年3月期の決算期間中に不正が明るみに出たにもかかわらず、なぜか、修正後発事象とせず、その損失計上は2016年3月期にずれ込んでいます。
また、2015年3月まではグローエとその子会社であるジョウユウはLIXILの関連会社だったわけですが、4月に残りの株式を取得した直後に、ジョウユウの不正が明らかとなり、株式追加取得分も損失となってしまいました(損失計上は2015年3月期)。グローエにLIXILとともに投資したのは、日本の政府系金融機関(具体的には日本政策投資銀行)のようです。つまり、実質的にグローエやその傘下のジョウユウの経営を見ていたのは、LIXILだったはずで、子会社化するずっと前から、ジョウユウの財務状況が怪しいということはわかっていたのではないか、わかっていながら、株式を追加取得した(LIXILにとっては背任行為にあたるかもしれない)のではないか、という疑問が浮かびます。
以上のような疑問は、中身ゼロの調査報告(開示用のごく短いもの)では解消しませんでした。
外野的懐疑心を少し行使しただけで、いろいろと疑問な点が出てきますが、監査人や開示を監督する財務局・金融庁は、職業的懐疑心を最大限に発揮し、調査してくれたのでしょうか。政府系金融機関が絡んでいるので、あまりやる気がないのかもしれませんが。
国際財務報告基準(I F R S)に基づく連結財務諸表及び独立監査人の監査報告書の開示(LIXILグループ)(PDFファイル)
IFRS準拠の2015年3月期の決算が昨年12月末に公表されています。後発事象の注記のところで、グローエなどの子会社化、ジョウユウ関連の損失などについてふれています。
当サイトの関連記事(ジョウユウ問題の調査結果公表について)
雑誌FACTAが継続的に取り上げています。
藤森LIXILが姑息な「隠蔽」(FACTA 2016年1月号)(記事冒頭のみ)
同誌編集長のブログ記事。
「LIXIL藤森」の墜落5――広報部の狂った回答
「LIXIL藤森」の墜落4――「偽・第三者委員会」の茶番
「LIXIL藤森」の墜落3――再質問状と回答
「LIXIL藤森」の墜落2――空々しい回答
年収3億円「LIXIL藤森」の墜落1
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