雪は苦手だ、特に初雪のニュースが耳に入ると、蓋をした気持ちが溢れでそうになってしまう。今日はサンヒョクとの婚約式なのに、あいにくの初雪予想。ユジンは会社を出て、急いで美容院に向かった。
婚約式は簡素にしたかったのだけれど、サンヒョクと義両親の気持ちを汲んで、盛大に行われることになった。いくら一人息子だからと言って、少しプレッシャーに感じた。
ユジンはわざとその日は仕事を休まず、仕事で気を紛らわしてから式に臨むことにした。
美容院を出ると、外はもう真っ暗で、空からみぞれ混じりの雪が降ってきた。急がなければ、と早足で歩き出すと、遠くに背の高い男性が見えた。メガネ姿で、髪の毛が茶色でパーマがかかっているが、その姿はユジンが思い描いていた10年後のチュンサンそのものだった。
チュンサン、チュンサン、チュンサン。
その瞬間、ユジンは駆け出していた。婚約式のことは頭からなくなり、髪の毛がみぞれでびしょ濡れになるのも構わず、とにか探し続けた。どれくらいたっただろう。コートもぐしゃぐしゃに濡れたまま、ユジンはフラフラと婚約式の会場に向かった。もうとうに婚約式は終わっている時間だった。
正直あとのことは夢うつつで覚えていない。あまりにショック状態だったから。ただ、悲しそうなサンヒョクの顔と、険しい顔で嗜める母親の顔と、サンヒョクの両親の厳しい視線をぼんやりと覚えている程度だった。
次の日、サンヒョクのうちに婚約式を台無しにした謝罪に訪れたが、義母は怒って会ってはくれなかった。当たり前だ、自分が悪かったのだから。お詫びのしようもなかった。サンヒョクは大丈夫と言ってくれたけれど、申し訳なくて仕方なかった。
それなのに、頭の中にあるのは、あのチュンサンに似た男性のことばかり。あまりに自分勝手すぎて、自分にうんざりしてしまうが、四六時中考えずにはいられなかった。仕事が終わると、毎日見かけた界隈を探し回る日々が続いた。もしチュンサンだったら、チュンサンが生きているのならもう一度会いたい。たとえチュンサンとそっくりの他人でも、一目会いたいと思った。
サンヒョクはユジンが婚約式をドタキャンしたことよりも、尋常でない錯乱ぶりが気に掛かって仕方がなかった。ユジンの留守時に部屋で待っていた時に、机の上に置かれたメモを見て驚愕した。そこにはチュンサンそっくりの男性を婚約式の夜に見かけたことが記されていた。忘れられない、会いたくてたまらなと、、、。ユジンはその男性を探しに、毎晩似た男性を見かけた大学路に出かけていたのだ。
チュンサン、チュンサン、またあいつだ。やっと結婚の道のりが見えてきたのに、過去の亡霊がユジンを絡め取ろうとしている。
サンヒョクは歯ぎしりしたい気持ちでいっぱいだった。ユジンを探してあちこち歩いたあげく、街の片隅で座り込むユジンを見つけて、抱きしめて慰めた。神様、どうかユジンを連れて行かないでください、と祈りながら。
「ユジン一人で悲しまないで。一緒にいてあげるから」
「サンヒョクごめんね。本当にごめんなさい。」
ユジンは、優しいサンヒョクをこれ以上傷つけてはいけないと心に誓った。チュンサンの写真がないから、とこっそり描いていた絵を、焚き火にくべてさよならをした。また涙が溢れ落ちた。
ヨングクは、パソコンに来ているチェリンから集まりたいというメールを見ていた。そして婚約式のやり直しを思いついた。かなりショックを受けている親友のサンヒョクを早く元気にしたかった。ヨングクはチンスクに手伝ってもらい、ゴリラ先生に連絡をして、懐かしい高校の放送室をかしてもらうことにした。
当日は晴天だった。事前に知らされていたサンヒョクと何も知らないユジンは、校庭を歩いていた。するとヨングクの突然の婚約アナウンスが鳴り響く。サンヒョクとユジンは照れながらも無事に指輪の💍交換をした。
「ユジン、いつもそばにいるからね」
「ありがとう」
この前の婚約式ドタキャン騒動がウソのように仲睦まじい2人。友人たちはほっとした。
4人が、放送室でケーキを囲んでいると、思い出話に花が咲いた。まるで高校生に戻ったようだった。ただ、チンスクが「初めて」という曲のレコードをかけたときだけは、ユジンの顔が曇ったけれども。
そんなことをしているうちに、自信満々のチェリンが合流した。相変わらずというか前よりパワーアップしているチェリン。チリチリのパーマに毛皮のコートを着て、彼氏を紹介するとかなんとか言っている。チンスクは、せっかく2人の婚約式なのに、無神経すぎると思いながらも何か言うとまた怒鳴られそうなので、グッと我慢していた。
すると、静かにノックをする音が聞こえ、彼が入ってきた。夢にまで見たチュンサンそっくりの彼が。
部屋の中は凍りつき、一瞬で空気が変わった。勝ち誇ったような顔でその男性と腕を組むチェリン以外は、まるでお通夜のようになってしまった。
ユジンはその場に凍りついていた。何も言えず、呆然としている間にその男性は、チェリンの彼氏でイミニョンと名乗って、一礼すると部屋から出て行った。この前見かけたのはあの人だったんだ。ユジンの気持ちはいつまでも乱れたままだった。
チェリンは勝ち誇ったような顔で
「ねっ、すごーく似てるでしょ?」と笑いながら言うとしばらく話をして帰って行った。皆、上の空で話していた。
帰り道、ヨングクとチンスクとサンヒョクと歩きながら、ユジンは平気なふりをしていた。みんなを心配させたくなかった。
「私が見たと思ったのはあの人だったのね。ばかみたい。」
ユジンはさりげなく聞こえるように話した。それでもみんなぎこちない雰囲気のまま、サンヒョクとヨングクと別れた。ヨングクはしきりに「生写しだなあ」とつぶやいていた。
ユジンと一緒に住んでいるチンスクは、家に帰ってからも、とても心配そうに見ていたが、ユジンは平気そうにテレビを観ていた。チンスクは無理をしているな、と思った。
一方ミニョンは困惑していた。さっきチェリンに呼ばれて、婚約式に顔を出した時、そこにいたら誰もが信じられないものを見た顔をしていた。特に一番奥にいた女性は、まるで幽霊を見たように、真っ青になっていた。いったいどうしてなのか、チェリンははぐらかすようにして教えてくれない。
それにしても、あの女性には前に会ったことがあるような懐かしさを感じてしまう。純粋そうな潤んだ瞳や、サラサラの髪の毛、華奢な身体つき、長い手足、そして雪のような白い肌、とてもきれいな人だったな、不思議な人だった。
チェリンの友達だからまた会えるかもしれないな、会えたらいいのに、とぼんやりと思うのだった。