ユジンは、おおきなため息を一つついて、会社のドアを笑顔でくぐった。しかし、緊張して来たのに、今日も理事は不在だった。理事の部屋にはいろいろな家具が運び込まれていた。その中にジグソーパズルがあった。マルシアンのキム次長がやってきて、ユジンに挨拶をした。そして、ジグソーパズルを見て
「あのジグソーパズルってやつは何が面白いんですかね。パズルをやる人の気がしれない。」とつまらなそうに言った。ユジンは
「きっと思い出したいことが沢山あって、ひとつひとつそのカケラを集めてはめていらっしゃるんじゃないですか」
と言った。キム次長は、ほうと言う顔をしてニヤリと笑った。ユジンは階段を降りて帰ろうと思ったとき、床にジグソーパズルが一片落ちているのに気がついた。そして何げなくそれを拾ってポケットに入れた。きっと理事のパズルだろうから、次に会った時に返そうと思った。
その日の午後、ミニョンが出勤して自分の部屋の片付けをしていると、どうしてもジグソーパズルのピースのひとつが欠けていることに気がついた。近くを探してみるが見つからない。
そこにキム次長がやって来てニヤニヤして言った。
「理事がジグソーパズルを好きな理由が分かりました。今まで付き合ってきた女性たちひとりひとりの思い出を思い出しているんでしょう」
「先輩、何言ってるんですか。僕は女ったらしじゃありません」
「ふーん、ポラリスのチョンユジンさんが言ってたです。忘れたくない思い出があるから、ひとつひとつはめこむんだって。」
チョンユジン、、、あの設計図の主か。面白いことを考えるな、会うのが楽しみだ、とミニョンは思った。
夜はサンヒョクとユジンで婚約式の最後の打ち合わせをした。サンヒョクはとても楽しそうで、ユジン以上にあれやこれやとこまごました事項を確認している。そんなサンヒョクを見ているのが幸せだった。
すると、サンヒョクがニッコリと笑って
「ひとつ忘れてるものがあるよ」
と謎々を出すような顔をした。
??
ユジンがポカンとした顔をしていると、サンヒョクが小箱を取り出した。中にはユジンが想像したよりもすこし派手な感じの指輪が2つ入っていた。サンヒョクがうれしそうにリハーサルと言うので、お互いの指に指輪をはめた。
「これでお揃いの物が出来た」と満足そうなサンヒョクを見ていると、ああこの人と本当に結婚するんだなぁとユジンは他人事のように思うのだった。
アパートにもどると、もう少しで夜の12時になるところだった。サンヒョクは車を止めて、12時までのカウントダウンを始めた。
「じゃーん。今日はキムサンヒョクとチョンユジンさんの婚約式でーす」
とおどけたように言った。そしてユジンにキスしようとした。ところが、クラクションを誤って鳴らしてしまい、失敗に終わった。もう一度チャレンジするものの、今度はユジンが吹き出してしまい、またまた失敗に終わった。ユジンは
「サンヒョクが子供の頃にしてたおかっぱ頭を思い出した」と笑っていたけど、サンヒョクは胸に不安が広がった。ユジンはキスしようとすると、時々はぐらかす。それがたまらなく寂しかった。
明るく手を振ってアパートに入るユジンを見ながら、サンヒョクはなぜか沸き起こる不吉な予感を感じ始めていた。
この日がサンヒョクにとって、無条件で幸せだと感じた最後の日になった。