再会を果たした二人は、しばらくの間見つめあって動けないでいた。
チュンサンは暗闇の中、ユジンの声がした方を見つめていた。ユジンはどんな顔をして見ているのだろうか?目が見えないことでショックを受けているのではと心配していた。また、昨日キム理事と一緒に、ユジンはサンヒョクと仲睦まじく子供をあやしているのに遭遇したから、ユジンに声をかけるのが怖くてたまらなかった。
一方ユジンはチュンサンをじっと見つめていた。今の彼は無防備で純粋でまるで無垢な少年のようだった。まるで、高校生の時に出会ったころのチュンサンみたいに、ガラス細工のようだった。そっと抱きしめてあげたくなったが、繊細すぎて心がバラバラに壊れてしまいそうな気がした。そこで、足音を立てないように一歩ずつそっと近づいて行った。ユジンが目の前に立ってそっと手を握ると、チュンサンはびくっと体をこわばらせた。ユジンは何も言わず、チュンサンの手を引くとテラスの椅子に座らせた。そして、ユジンも無言のまま向かい合って座った。
「ユジン、久しぶり、、、」
「ええ、久しぶり、、、」
ユジンはもう一度そっとチュンサンの手を握り、その手を自分の頬にもっていった。チュンサンが彼女の頬は涙で濡れているのに気がついた。
「チュンサン、不可能な家を建ててくれて本当にありがとう。」
「、、、気に入った?」
ユジンはチュンサンの手を頬にあてたまま何回もうなずいた。すると泣いてこわばっていた彼の顔が、一瞬でこぼれるような笑顔に変わった。
「そうか、良かったなぁ」
「愛する人の心の家、でしょ?」
「、、、そう、愛する人の心の家」
ユジンは再び立ち上がって歩き回って建物の細部を一つ一つを丹念に見始めた。すると、チュンサンがユジンの見ている方に検討をつけて、
「そこに壁画がかかってるだろ?」「テラスの柵は少し変わった素材で作ったんだ」と解説をし始めた。ユジンはびっくりして
「チュンサン、少し見えているの?」と振り返っていった。
「ううん、全部覚えてるんだ」
ユジンは落胆しながらもそれを隠して言った。
「目はいつから?」
「、、、、半年ぐらい前から、、、」
「そうなのね、わたしそんなに深刻な状況だって知らずに、あなたを独りでアメリカにに行かせてしまってごめんなさい、、、。私のせいで事故にあったのが原因なんでしょう?」
チュンサンはユジンが静かに泣いているのを、雰囲気から感じ取っていた。
「、、、ユジン泣かないで。全ては僕が選んだことだから。どうか、自分のせいなんて思わないで」
二人が無言のまま涙を流していると、誰かが玄関に入ってくるのに気が付いた。
「ユ、ユジンさんじゃないですか?!」
それはキム次長ならぬキム理事だった。キムは、外で待っていた管理人の男性から『見知らぬ女性が家に入り込んで、チュンサンとただならぬ雰囲気で話し込んでいる』と電話を受けて、港で待機していたのを急いで駆け付けたのだった。彼はもう一脚椅子を持ってきて座った。そして、感慨深げにユジンを見ていた。
「ユジンさん、お久しぶりです。きれいになりましたね。」チュンサンの方を見て
「髪の毛も長くなってるし、なんていうか、とっても洗練されて、大人の女性って感じです」
と解説した。するとユジンが
「大人の女性って、前はどんなだったんですか?おかっぱ頭だったから子供みたいだったって言うんですか?」と不満そうに言った。彼が来たことで場はなごんで、ユジンもチュンサンも涙が止まってしまい、くすくすと笑った。
「ユジンの笑い声って久しぶりだなぁ」
「、、、そうね、あの頃は泣いてばかりだったから、、、」
「、、、ごめん」
「そういう意味じゃなくて、、、今が幸せなの」
すると、キム理事が恐る恐る聞いた。
「、、、それはやっぱりサンヒョクさんと留学中に結婚したからですか?」
ユジンは怪訝な顔をした。
「サンヒョクと?サンヒョクと私が?」
「だって昨日あなたとサンヒョクさんがお子さんをあやしているのを見たから、、、」
「先輩!」
チュンサンは慌てて遮ったが、ユジンは目を真ん丸くして驚いていた。
「もしかして、昨日チンスクの家の近くにいたんですか?!」
キム理事はバツが悪そうに、昨日のいきさつを話した。すると、ユジンは
「だからあの時、なんとなく視線を感じたのね。でも誰もいなかったから気のせいだと思っていました。ちなみにチヒョンのことなら、あれはチンスクとヨングクの子供です。チュンサン、わたしがあなたの言いつけを守って、本当にサンヒョクと留学して結婚したと思ったの?」
「うん」
「そんなことあるわけないのに。それだけはいくらあなたの頼みでも無理よ。わたし、3年間はわき目もふらずに必死で勉強してたのに。」
ユジンはあきれたようにチュンサンを見つめた。そんなユジンの様子を感じて、安心したチュンサンとキム理事は微笑むのだった。すると、キム理事は急に立ち上がって帰り支度を始めた。
「チュンサン、私一人でソウルに帰ります。」
「先輩?」「キム次長?」
「3年ぶりに最愛の人と会えて、しかもその人が結婚してないことが分かったんだから、連れて帰るなんて野暮なことはしませんよ。独り身のおじさんはさっさと帰ります。あ、帰国の便は延期しておきますし、会社には適当な理由をつけて何日か休みを取っておくから気にしないでください。心行くまで二人で過ごしてください。じゃあ、最終便の船が出るので」
そういうと、キムはさっさと笑顔で帰って行った。残された二人は顔を見合わせて噴き出すのだった。
「キム次長って、、、相変わらずね」
「そう、面白くて優しいだろ?」
こうして二人は不可能な家に取り残された。これから長い夜が始まる。