ミニョンとユジンは友人に祝福されなくとも、晴れて付き合い始めることが出来て幸せだった。
ミニョンは、欲しくてほしくてたまらなかった宝物を、やっと手にした子供のように、踊り出したい気持ちだった。一方でユジンはチンスクをはじめとして、2人の交際に反対する人全てに会うのが気まずいのもあり、ソウルに帰らずに、ひたすらスキー場で過ごしていた。ミニョンと一分一秒でも一緒にいたかったのもあるが。スキー場は誰の目も気兼ねなくすごせる自由な場所だった。周りに遠慮しなくてはならない、灰色の空に囲まれたビルだらけのソウルには、当分帰りたくない。2人だけの世界に閉じこもりたかった。
ミニョンとユジンは一緒に仕事をするのが楽しくてたまらなかった。2人でアイデアを出してあれこれ議論するのは至福の時であった。
しかも、ホテルも同じなので、24時間一緒にいられる。もちろん人前でこれ見よがしに寄り添ったりはしなかったが、少しでも近くにいられることがとても嬉しかった。お互いの姿がいつも視界のどこかにうつるだけで、心が温かくなった。それでも、ミニョンはユジンが近くにいると、知らず知らずのうちに髪の毛にふれたり、身体にふれたりしてしまうことがあった。
そんなミニョンを見て、キム次長とチョンアは苦笑いをするしかなかった。二人とも、どれだけミニョンがこの時を待っていたか知っていたので、何も言うことは出来なかった。
ミニョンは、ユジンとの付き合いに新鮮さを感じていた。今までの付き合いはオシャレなレストランに連れて行ったり、デートスポットを巡ったり、時には泊まりがけの旅行に行ったり、男女関係があっての楽しさだったが、ユジンとはそんなことをしなくても、ただ一緒にいるだけで楽しいのだった。
ユジンが
真剣な顔で仕事をしていたり、
自分の冗談にクスクス笑ったり、
目が合うとニッコリ微笑んだり、
時には少女のように笑い転げたり、
意外なほど勝気な発言をして睨みつけてきたり、
拗ねて頬を膨らませたりするだけで、
ミニョンの心は弾むのだった。
これが人に恋すること、愛することなのかと生まれて初めて心が満たされていくのを感じた。
一方でユジンも自分の気持ちの変化に日々戸惑っていた。ミニョンには、
低い声で直近で優しく喋られるだけで心が震えるし、
ふと視線が絡むだけでもドキドキするし、
かすかに身体が触れただけで胸が苦しくなってしまう。
付き合うまではそんなに意識していなかったことひとつひとつが、全て特別なことに感じてしまい、心に刻みこまれるのだった。それは、昔チュンサンに感じたのと全く変わらない気持ちだった。サンヒョクにはついぞ感じなかった感情の全てにユジンは戸惑っていた。
そんなミニョンも、いったいユジンにどう接して良いのかわからなくて、内心困惑していた。今まで何人もと付き合ってきたのに、手を繋ぐのさえも、抱きしめるのもためらうほど、どうして良いか分からないのだ。キム次長曰くプレイボーイがどうしたんだろう、自分で自分が情けなくて、苦笑いしてしまう。
特にそっとユジンの身体に手をまわし、優しく抱きしめるとき、ユジンのことを特別な存在だと感じた。腕の中のユジンは心臓の鼓動が信じられないくらいドクドク言っている。しかも、見ると顔だけでなく、耳まで真っ赤になっている。ミニョンはユジンの無垢さにびっくりして、よけい愛しさがつのってくるのだった。
柔らかな髪がミニョンの鼻先をくすぐり、シャンプーらしきスミレの香りが、心を満たしていった。どうしようもない懐かしいような気分と愛しさに心が満たされた。ミニョンはいつまでも髪の毛を優しくなでていたくなるのだった。
ミニョンは思っていた。ユジンは今まで自分が中途半端に付き合ってきた女性たちとは全く違うのだ。自分が生まれてはじめて真剣に恋をして、そして愛した人なのだ。本当に大事に慎重にしたい、自分の思いや欲望だけで進めてはいけないと心に誓っていた。きちんと婚約をして、お互いの親に挨拶に行きたいと真剣に考え始めていた。
ユジンはそんなミニョンの心は知らずに、相変わらず楽しそうに過ごしていた。チュンサンとの別れ以来はじめて、心から笑ったり、怒ったり、泣いたり出来るようになった。高校時代の友人が見たら、あの陽気で屈託のない明朗快活なユジンが戻ってきたと思うほど、自然に振る舞うことができるようになっていた。自分の心のままに振舞えるのがこんなに幸せな事だとは、、、。10年間凍りついていた心が溶けてゆくようだった。それも全てミニョンのおかげだと思った。そして、お返しにポラリスのシールを車の天井に貼った。二人の幸せが続きますように、と祈りをこめて。そんなシールをキム次長が車に乗ったときに冷やかすのだった。
また、ユジンはお守りのようにポラリスのネックレスをつけていて、時々それを胸元から取り出しては得意そうにミニョンに見せた。ミニョンはまるで小学生のように無邪気なユジンに、笑いを堪えきれないでいた。
普通の恋人たちのように、デートする暇はなかったけれど、ゆるやかに二人の幸せな時間は流れていった。
しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。サンヒョクの母親がユジンを訪ねて来たのだった。サンヒョクの母親は、顔色も悪く、痩せてしまい、とても思い詰めた様子でユジンの顔を見ると泣き出した。