Kitten Heart BLOG -Yunaとザスパと時々放浪-

『きとぅん・はーと』でも、小説を公開している創作ファンタジー小説や、普段の日常などの話を書いているザスパサポーターです。

【小説】「パスク、あの場所で待っている」第16話

2015年12月01日 17時01分11秒 | 小説「パスク」(連載中)
 ビーフォンが置いていった金で、浴場は修復……というよりもう建て替えか。順調に小屋組の建築は進んでおり、元の浴場に戻りつつあった。また襲われて巻き添えで壊されてはいけないと、簡単に作った湯船の中に、源泉から引いてきた湯で治療に専念していた。源泉より下の位置にあり、かなり奥の方に作ったので、ここならすぐに見つからないだろう。
 数日後には傷口も塞がり、無理なく動けるようになった。八割ぐらい回復といったところだ。

 昨夜は雨が降ったらしく、草木が雨露で光り輝いていた。実家の庭は広く、その一角に池を作ってあり、そこで川魚を飼育している。朝から池の脇で素振りをひたすら続けて、体の具合を確かめた。
「おっと。来客か……!」
 突然なにかが飛び込んできたかと思いきや、一匹のアマガエルだった。
「お前……。こんな所に飛び込んできたら、真っ二つだぞ」
 幸いにも素振りに使っているのは真剣ではなく、木刀だが。
「そして、もう一匹。来客か……」
「久しぶりだな、パスク」
 オレが初めて候補に入り、最初に戦った相手であるディンモ・テオ。あの時は力の差を見せつけられ惨敗だった。
「テオか……。そうだ! これ、やるよ」
「うおぉぉぉ……!」
 先ほどのカエルをテオに投げてみたら、やや小柄ながらも筋肉質の男からは思いがけないリアクションを見ることができた。
「こんなちっちゃいカエルごときで驚くなよ。山育ちじゃなかったのか?」
「カエルだけはダメなんだよ……」
 テオが振り落としたカエルを拾い上げ、池の方に帰してやった。
「それで何のようだ? 湯治か」
「それを言わせるつもりか?」
 だよな……。そんなわけないよな。
「ここはまずい、場所を変えてくれ。他の民家もあるんでな」
 テオをここから離して広いところでやろう。その方がいい。
「結構広いところがあるんだ。人も来ないし、ちょうどいいんだ」
 急にテオが立ち止まり、何か冷たい視線を背中で感じた。
「まさか……。ビーフォンと同じ手で倒そうなんて考えていないだろうな?」
「ちっ。見ていたか……」
 影で四人見ていたのは気づいていたが、テオとそれぞれの監視員三人ってわけか。
「だいたい、この辺りの地形は理解した」
 そりゃあ、ここに何度も来ていたら覚えるだろうな。ビーフォンとの決戦の地は、テオは知らないだろうと思っていたが、手を打たれてしまった。

「ここだったら、いいだろ」
 連れてきたのは広い平原で、所々に木々が自生していた。ここも雨で湿っており、水溜まりもちらほら存在していた。
「他にないのか?」
「だったら、別の日にしてくれ」
「まあいい。お前を倒すのに環境は関係ない」
 しかし、テオは強い。数回対戦したうち、あと一歩まで追い詰めたことはあるが、それまでだった。奇襲作戦を使ってくる先日の卑怯者とは違い、面と向かってきたので少しの間だったが策は考えた。
「今度こそ、勝たせてもらいます」
 両者全力で蹴り出し、乾いた金属音が辺りを響き渡った。


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