味覚嗜好、味覚感度は患者の食習慣を左右し、それが肥満や高血圧といった生活習慣病にも影響を及ぼすことが考えられる。今回、山陰労災病院(鳥取県米子市)循環器科の水田栄之助氏らは、うま味に対する感度が低下すると甘味嗜好が強まり、肥満になりやすい可能性があることを明らかにし、10月20日に宇都宮で開幕した日本高血圧学会(JSH2011)で発表した。
検討対象は、鳥取県内在住の健診受診者48人(男性15人、女性33人)で、平均年齢37.4歳だった。身体測定(身長、体重、腹囲、血圧)、空腹時採血、採尿を行った同日に味覚嗜好アンケートおよび味覚感度調査を行い、検査前日の食事内容については、栄養士が24時間思い出し法により聞き取った。
うま味嗜好検査では、味の素1%溶液を口腔内に1mL滴下し、その味が好きかどうかを尋ね、好きと答えた10人をうま味嗜好群、嫌いと答えた38人を対照群と定義した。また、うま味感度検査では、味の素溶液を5段階の濃さ(0.03%、0.1%、0.25%、0.5%、1%)で作成し、薄いものから順に口腔内に1mL滴下し、最初に味を感じた段階をその人のうま味感度閾値とした。本検討では、0.03%で味を感じた26人を対照群とし、0.1%以上の濃度で味を感じた22人をうま味感度障害群と定めた。
うま味嗜好群と対照群の間で年齢やBMI、生化学検査値、疾患保有率に有意な相異は認められなかった。また、食事内容(カロリー摂取量、糖質摂取率、脂質摂取率、蛋白質摂取率、塩分摂取量、不飽和脂肪酸摂取量)でも、両群間に有意な違いは認められなかった。
一方、うま味感度障害群と対照群の間で比較したところ、肥満者(BMIが25kg/m2以上)の割合がうま味感度障害群は36.4%、対照群は11.5%で、前者で有意に高かった(オッズ比:5.617、95%信頼区間:1.104-28.581、P=0.0376)。したがって、うまみ感度障害があると有意に肥満であった。
また、うま味感度障害群と対照群の食事内容には有意差はなかったが、うま味感度障害群では対照群に対し甘味嗜好が有意に高かった(オッズ比:2.439、95%信頼区間:1.122-5.303、P=0.0245)。さらに、うま味感度が鈍いほど、甘味嗜好が強いことも明らかになった。
以上から水田氏は、「うま味感度障害があると甘味嗜好が強くなり、肥満を呈する可能性があることが示唆された」と述べた。その機序として、うま味感度障害があるとうま味による報酬系が低下し、その代わりに甘味による報酬系が強化されるのではないかと考察した。また過去の文献報告からは、レプチン濃度の低下を介してうま味感度が低下している可能性も考えられるという。
したがって、うま味に対する感度が障害されている人に、減塩指導の一環として食事中のうま味を増強するように指導すると結果的に肥満を助長する恐れがあり、水田氏は「患者一人ひとりのうま味嗜好・感度を考慮することは、高血圧診療、特に減塩指導において非常に有用だ」と指摘した。
(日経メディカル別冊編集)