恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

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茶倉譲二本編10話~吉祥寺恋色デイズ

2014-06-02 11:16:39 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

☆☆☆☆☆
10話その1

子供時代の思い出


雨の中濡れながらベンチに座っている中学生の譲二を見つけた百花と良子。

風邪を引くといけないからと良子は家につれて帰る。

お腹がすいた譲二におにぎりを作る百花と良子。

明里に失恋した譲二。

涙を流す譲二に「いつか譲二君のことが一番大好きな女の子があらわれるよ。」と良子


☆☆☆☆☆

  とうとう百花ちゃんに会える日が来た。



教えてもらった住所を片手に佐々木家を訪ねた。

ドキドキとはやる胸を抑え、少し緊張して呼び鈴をならす。


間を置かず、にこやかな良子さんがドアを開けてくれ、中へ迎え入れてくれた。

佐々木夫妻に挨拶をしている間、百花ちゃんは信じられないという顔で俺を見つめていた。


1ヶ月会わなかっただけなのに、ずっと大人びて見える。

ふっくらとしていた頬が少しすっきりしたせいだろうか…。


 余裕の笑みを見せながら、俺の心臓は早鐘のように鳴っていた。


不思議そうな百花ちゃんに、なぜ俺が佐々木夫妻を知っているのかを良子さんが説明してくれた。

俺が中学生の時、佐々木さん宅を訪ね、その時にメールアドレスを交換してメル友になったこと。

大学の時にインターンシップ先を良子さんに相談したところ、ご主人の会社を紹介してもらったこと。

どの話も百花ちゃんは初めて聞いたらしい。

そして「マスターがちゃんとしているから驚いた」という。


譲二「これでも、ちゃんとした大人だからね。」


良子さんに明里の結婚式のことを聞かれる。


譲二「ええ、無事に滞りなく。」

佐々木父「結婚? 譲二君が?」

譲二「いえ、僕の親友と、幼なじみです。こっちで挙式をあげるっていうんで…」

良子「ふふっ。新婦は、実は昔、譲二君が好きだった女の子なのよね?」

譲二「いやだなぁ、それバラしちゃいますか?」

良子「懐かしいわね。あれからもう10年以上にもなるのね。」

譲二「やめてください…昔の話ですよ。」


 良子さんが、明里にふられた時の惨めな俺の話まで持ち出して来そうなので、慌てて遮った。


そして、俺が撮った結婚式での2人の写真を3人に見せた。

百花ちゃんは明里の花嫁姿をじっと見つめている。


(ほら…。明里の結婚相手は俺じゃないだろ?)


心の中でつぶやきながら、俺はひと月ぶりに会う愛しい人を見つめた。



☆☆☆☆☆

 ヒロインの目からは大人びて、どうどうと佐々木夫妻と話す譲二さんも本当は緊張であがっていたと思う。



☆☆☆☆☆
10話その2

 佐々木夫妻に許しをえて、百花ちゃんを散歩に連れ出した。


 明るい日差しの中、2人で公園をそぞろ歩く。


百花「どういうことなんですか?」


 俺は明里が俺の親友とずっと付き合っていたことを話した。

そして、明里は家を捨て、やっと好きな人と結婚したのだということも。


百花ちゃんはまっすぐな瞳で俺を見て尋ねた。


百花「マスターは悲しくないんですか?」


百花ちゃんはやっぱり誤解している。

俺は明里のことを昔好きだっただけで、今好きなわけじゃないと言った。


(これで分かってくれるよね?)


しかし、百花ちゃんは視線を落とすと少し拗ねたように呟いた。


百花「クロフネで……明里さんと抱き合っていたじゃないですか?」

譲二「俺が? 明里と? いつ?」


百花ちゃんの思わぬ言葉に彼女を問い詰めた。


なんと百花ちゃんは、明里が結婚を報告に来た時、俺とハグしてたところを目撃していたらしい。

俺は百花ちゃんにも軽くハグしてみせた。

そして、明里は海外生活が長かったから、明里にとってはただの挨拶なんだと説明した。


それにしても……。

やっと百花ちゃんに会えたというのに……。

なんでまた明里の話ばかりしてるんだろう?


俺は明里の話をするためにここへ来たわけじゃない。


俺がここへ来たわけは……。


もう自分を抑えることが出来なくて、百花ちゃんを抱き寄せて、しっかり抱きしめた。


譲二「本当に好きな人にはこんな風にするよ。」


今……やっと自分の腕の中に一番大切な人がいる。


この一ヶ月どんなにこの日を待ちわびていただろう。

もう絶対に放さない。



百花ちゃんを抱きしめたまま、ちょっと拗ねて尋ねてみた。


譲二「どうして俺にだけ手紙がないの?」


百花ちゃんの腰は抱いたまま、少し離れて顔を覗き込む。


譲二「だって変でしょ。ハルや一護や…みんなには手紙を残してるのに、俺にだけないなんて」

百花「だって……だって、マスターには『カルボナーラのレシピ』を書いたから…。」


俺はますます拗ねてポツリと言った。


譲二「でも、手紙も欲しい」


百花ちゃんはハッとしたように俺を見上げた。


譲二「ハル達に宛てた、手紙みたいなのが欲しい。」

百花「そんな。」


大人げないとは思ったけど、一度本音が出ると後から後から止まらなくなってしまう。


譲二「みんなの、読ませてもらったけどさ。すごかったじゃない。『ハル君大好き』『一護君大好き』って。」


百花ちゃんの大きな瞳を見つめて、甘えて言った。


譲二「俺にも言ってよ、百花ちゃん」

百花「だって…。だって、好きって言ったら迷惑になるって…」

譲二「…うん」

(そんな風に思っていたんだ…。)

百花「マスターには、明里さんがいるのに…。私が『好き』って言ったら、きっと迷惑だ…って…」


(ああ、また、明里か…。)


譲二「…迷惑じゃないよ。」

(むしろ嬉しいくらいだ…。)


俺の胸は早鐘のように打っている。

思い切って囁いた。


譲二「だから、俺にも『好き』って言って」

百花「マスター…。好きです…」

譲二「うん…」


 百花ちゃんの口からその言葉を聞いて、俺の心臓はドクンと大きな音を立てた。


百花「マスターのことが好きです…。誰よりも誰よりも、大好きです。」


(嬉しい。すごく嬉しくて…)


譲二「…良かった。ずっと、百花ちゃんの気持ち、知りたかった…。百花ちゃんに触れてもいいのかどうか分からなくて…ずっと不安だった…」

百花「そんな…全然そんなふうに見えなかった…。好きなの、私だけだと思ってた…」

譲二「ハハッ、ごめんね。ウソつくのが上手な大人で」


そして、百花ちゃんを胸に抱き寄せて言った。


譲二「しかも、先に女の子に告白させちゃうような卑怯な大人で…ホント、ごめんね。」

百花「マスター」

譲二「でも…こんな俺を、好きになってくれてありがとう…。本当に本当に…ありがとう…」


 目に滲んできた涙を見られないように、百花ちゃんをいっそう強く抱きしめた。




☆☆☆☆☆

 ゲームの方では、譲二さんが「好きになってありがとう」と言っている時、泣いている描写はないけど、多分泣いてしまっていると思う。


 ヒロインに「好き」って言ってもらえるまで、実は不安で不安で仕方がなかったと思うから。


☆☆☆☆☆
10話その3

 佐々木夫妻にレストランでごちそうになった。

俺がごちそうのお礼を言うと、佐々木夫妻は百花ちゃんが日本で世話になったお礼だと言ってくれた。


 俺は意を決して、佐々木夫妻に頭を下げた。


譲二「では、もう一つお願いしたいのですが」

佐々木父「なんだい。譲二君」

譲二「百花さんを、日本に連れて帰ってもいいですか?」

 
驚く3人。


譲二「日本で寂しい思いはさせません。高校も、ちゃんと責任をもって卒業させます。ですから…百花さんを、連れて帰らせてもらえませんか?」


俺は深々と頭を下げた。

佐々木父「えっと。それはどういうことなのかな、譲二君。娘はまだ高校生で、本来なら親許を離れるような年でもなくて…」

良子「あら、やだ。父さんったら。高校生にもなったら、家族より好きな人と一緒にいたいものでしょ。ね、百花?」

 良子さんが援護射撃をしてくれる。

百花「え!?」

佐々木父「そんな、好きな人って…まだ高校生なのに…」

良子「百花、あなたはどうしたいの?正直に言ってもいいわよ。」

百花「…帰りたい。マスターと一緒に、日本に帰りたい」

佐々木父「百花…!」

良子「じゃあ、決まりね」


俺はほっとして言った。

譲二「ありがとうございます。」


佐々木さんは納得いかない顔をして、抗議の声を上げたが良子さんは慰めるように言った。


良子「だってしょうがないわ。百花は、ちっちゃなころから『じーじ』が大好きだったんだもの」


(良子さん……ありがとう。)


☆☆☆☆☆

 ヒロインを連れ帰るのがもう一つの目的だったので、これでミッション完了!


☆☆☆☆☆


10話その4

 夜、佐々木邸の客間で寝る準備をしていたら、ノックの音がした。

ドアを開けると、パジャマ姿の百花ちゃんが立っている。

一瞬どきっとして、尋ねた。


譲二「…百花ちゃん?どうしたの?」

百花「マスターと話がしたくて…」

譲二「え? でも今、夜中の0時だよ?」

百花「そうですけど…ダメですか?」

譲二「…うーん。じゃあ、ちょっとだけだよ?」


百花ちゃんを招き入れ、ドアを閉めた。

少しだけなら、大丈夫だろう。

たぶん…。


百花「あの、マスター…。最初から、私を日本に連れて帰るつもりだったんですか?」

譲二「そうだよ。明里の結婚式への出席はオマケ。本当の目的はこっち」

百花「えっ?逆じゃないんですか?」


やっぱり百花ちゃんは分かっていなかった。

俺がどんなに苦しい1ヶ月を過ごしたか、そのためにここに来たのだということを。


譲二「そんなわけないでしょ。だいたい、前にも言ったじゃない。『俺は明里よりも百花ちゃん優先』って」

百花「たしかに、言いましたけど…。じゃあ、本当に私を連れて帰るために?」

譲二「そうだよ。絶対に、俺のことを『好き』って言わせて、連れて帰ろうって思ってた」

百花「マスター…」

譲二「だって、寂しいじゃない。遠距離恋愛なんて。それとも、百花ちゃんは平気?」

百花「平気じゃないです」

譲二「だよね?良かった」

譲二「あー、でも、誤算だったな。連れて帰るって言っても、すぐにはいかないんだねぇ」


百花ちゃんの頭をポンポンと叩く。

こんなことをするのも1ヶ月ぶりだな。


百花「はい。出国するためのいろいろな手続きを済ませないといけないから。もしかしたら1ヶ月くらいかかるかも…」

譲二「1ヶ月かぁ。俺、明日にでも連れて帰る気でいたのになぁ…。ま、いっか。これまでずーっと我慢してきたんだから、ちょっとだけ延びたと思えば…」


☆☆☆☆☆
10話その5

百花「あの…もう一つ聞いてもいいですか?」

譲二「どうぞどうぞ」

百花「マスターって、その…いつから私のこと、好きだったんですか?」

譲二「うーん、いつからだろう…。かなり前からだった気がするけど…」

百花「ホントですか!?」

譲二「うん。ただ、認めるのに時間がかかったていうか…。『いやいや、気のせいでしょ』って、ずーっと自分の気持ちを誤魔化してきたからなぁ」

百花「そんな、誤魔化すって…」

譲二「だって、さすがにマズイでしょ。百花ちゃん、まだ10代なんだし。これが、10歳違いでも37歳と27歳くらいだったら問題ないんだけどねぇ。勢いで押し倒しちゃうとか、できちゃいそうだしねー」


百花「押し…っ!?」


久々の俺のジョークに百花ちゃんは真っ赤になった。


譲二「だからね、『あー、もうこれ誤魔化しきかないわー』って思ってからは、ホント、辛かった。俺、ホント、よく頑張ったと思うんだよねー。」

百花「…」


ちょっと刺激が強かったかな。

そっと百花ちゃんの顔を覗き込む。


譲二「…ひいてる? もしかして」

百花「いえ…ただ…ちょっとビックリしただけです」

譲二「なんで?」

百花「だって、私がドキドキしているようなときも、マスターはいつも平気そうだったから」

譲二「そんなわけないでしょ。平気なフリしていただけだよ。」

百花「そうなんですか?」

譲二「当たり前でしょ。ほら、あの雷の夜…あったじゃない?」

百花「はい…」

譲二「あのあたりからさ、もうずーっとヤバかったんだよね。触れたいって思うけど、怖がらせるのはイヤだし…。好かれてるのかな…って思って確かめようとしたら、百花ちゃん、逃げ出しちゃうし…」

百花「あ…」

譲二「さすがにさぁ、アレはヘコんだよなぁ。俺、百花ちゃんに嫌われたって、本気で思ったもん。」

百花「ふふっ」

譲二「え、笑うとこ!?」

百花「だって…マスター、なんだか可愛いから…」

譲二「可愛いって!10歳も年上つかまえておいて。」

百花「だって…。ハハッ」

譲二「…ああ、もうこれだから、女の子は…。『可愛いなぁ』って思ってたら、いきなりキレイに見えたり、『子供っぽいなぁ』って思っていたら、急に大人びた顔したりするし…」

百花「今の私は、どっちですか?」

譲二「教えません」

百花「ズルい…」

譲二「ズルくありません。それより、もう夜も遅いんだから、そろそろ寝なさい」

百花「ええっ?」

譲二「ほらほら、部屋に戻って…」


 俺は百花ちゃんの体を押して、部屋から出そうとした。


百花「もっと、マスターと一緒にいたいのに…」

譲二「…また、そんなこと言って…。ダメだよ。さっきも言ったけど、これでも結構ギリギリなんだから」

百花「!」

譲二「だいたいね、百花ちゃんは無防備すぎ。夜中にパジャマで男の部屋に来るとか、ありえないからね。それとも、俺のこと…男として全然意識してないの?」

百花「…ごめんなさい」

譲二「分かってくれればいいけどさ…」

百花「じゃあ、もう寝ます…」


ちょっと寂しそうな、物足りなさそうな顔が可愛いくて、ドキッとする。


譲二「うん…」

百花「おやすみなさい」

譲二「うん…」

百花「…」


百花ちゃんは潤んだ瞳でじっと俺を見上げている。

できれば……。

このまま帰したくない…。


譲二「…。ああ、もう…まいったな…」


俺は百花ちゃんを抱き寄せて、額にキスをした。

これ以上はだめだ。

俺の理性が持たない。

抱きしめたまま囁いた。


譲二「みんなにはヒミツね?」

百花「はい…」

譲二「お父さんにも、お母さんにもだよ?」

百花「はい!」


目一杯見開いた瞳は俺をまっすぐに見つめてキラキラしている。


譲二「…ああ、もう…なんでそんな可愛いカオするの…。がんばれ…俺…」

百花「え?」

譲二「なんでもない。こっちの話。じゃあ、もう…本当におやすみ」


百花ちゃんの頭をぐしゃりと撫でる。

百花ちゃんは花のような笑顔で頷いた。


百花「おやすみなさい、マスター」

 

☆☆☆☆☆
10話その6

  百花ちゃんが部屋に帰った後……。

目が冴えてとても眠れそうにない。


今日佐々木邸を訪れてからのことを頭の中で反復する。


1ヶ月ぶりに見る少し大人びた百花ちゃん。

百花ちゃんが俺を好きだと言ってくれたこと。

百花ちゃんを抱きしめた手触り、百花ちゃんの匂い。

久しぶりに見た百花ちゃんの花のような笑顔。

そっと口づけた百花ちゃんの額の肌触り。


 あまりに幸せすぎて、本当のことに思えないくらいだ。

…それに、それ以上手を出さなかった俺は偉かったよな。

まだ若い百花ちゃんを傷つけないように、そっと、そっと大切にしていこう。

百花ちゃんが大人になるまで…。

日本に帰って来たら…。

ずっと一緒にいられるのだから…。


ゆっくりゆっくり、百花ちゃんの成長を待とう……。



 いつの間にか、俺はぐっすり眠っていた。


夢の中で、百花ちゃんと手をつないで草原の道をどこまでも歩いていた。

その百花ちゃんは小さい頃の姿だったり、俺が一番大好きな今の姿だったりした。


百花ちゃんの手を握りしめて、この手を絶対に放すまいと俺は心に誓っていた。


10話おわり

☆☆☆☆☆

本編はここで終わり


本編のエピローグカレ目線の話はこちらです。

譲二さんの少年時代をカレ目線で妄想した話はこちらです。



逡巡(しゅんじゅん)~譲二本編9話その後

2014-06-02 11:13:29 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

逡巡 しゅん‐じゅん 
[名](スル)決断できないで、ぐずぐずすること。しりごみすること。ためらい。

(デジタル大辞泉より)



 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。

譲二目線から本編のお話を眺めてみました。


ネタバレありです。
 


 前回9話の後、ゲームでは1ヶ月後のイギリスが舞台になる10話になります。


 ヒロインの前には、自信たっぷりの譲二さんが現れます。

でも、ヒロインがいなくなって1ヶ月の間、譲二さんは一体何をしていたのでしょう?

ヒロインの目には余裕があるように見える譲二さんですが、本当にそうなんでしょうか?


 この9話と10話の間を私なりに妄想してみたのが、今回のお話です。


 譲二さんのメールには「百花ちゃんがいないくなって、ダメな大人になってしまった。」という言葉があります。


 1ヶ月もの間、ヒロインの前に現れることのできなかった譲二さんには「逡巡」の物語があったことでしょう。

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り
 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。

☆☆☆☆☆
逡巡(しゅんじゅん)その1

「百花ちゃん…」


 二日酔いでズキズキ痛む頭を持ち上げ、時計を見る。

5時半。

もう、弁当を作ることもないのだから、こんなに早く起きる必要はないのだが、いつもこの時間に目が覚める。


 苦笑いして、もう一度布団を頭からかぶった。


 彼女がいなくなってから、俺の生活は荒れている。

クロフネはいつも通りに開けているのだが、ぼんやりしていて、ミスも多い。

百花ちゃんがそこにいるつもりで声をかけてしまったり、夕食の時など、ついつい二人分の材料で作ってしまったり…。


 彼女がここに来たのは数ヶ月前からだったのに、しっかりクロフネの一部になってしまっていたようだ…。

いや、俺の一部と言うべきかな…。


 なぜ、あの時もっと強く抱きしめて、つなぎとめておかなかったのだろう…。

あの時自分の気持ちにもっと素直になって好きだと言っていたら…。

わき上がる後悔に胸がしめつけられる。

いや、これでよかったんだ。

若い彼女にはもっと若くていい男がふさわしい。

 

☆☆☆☆☆
逡巡(しゅんじゅん)その2

 その日、休みではあるけれど、いつまでも起きてこない百花ちゃんを起こしに2階へ上がった。


いつものように軽くノックする。


譲二「百花ちゃん、そろそろ起きないと。朝ごはん、できてるよ。」


ぐっすり眠っている時はいつも返事がないので、そっと戸を開けて部屋に入った。


譲二「…」


 ベッドはきれいにメイキングされていて、彼女の姿はどこにもない。

部屋を見回すと彼女の持ち物がきれいになくなっていた。


胸騒ぎがして、机の上をみると花柄の封筒が数枚置いてあった。


 手に取ると、「佐東一護様」「種村春樹様」「八田竜蔵様」「湯野剛志様」「初音理人様」と宛名が書いてあった。


震える手で「茶倉譲二様」と書いてある封筒の封を破り、便箋を開いた。


譲二「…」


『♪簡単カルボナーラのレシピ♪


 普通に作ると時間がかかるけど、私が考えた簡単で美味しいカルボナーラのレシピです。

材料…』

 


 (何なんだよ! これ!?)


 頭が混乱したまま、とりあえずそれらの封筒をポケットに突っ込み、階段を駆け下りながら携帯を出して、百花ちゃんに電話をかける。


『現在、この電話は電源が…』


直ぐにメールに切り替えて「今どこにいるの?」と打った。

(どうすればいい?!)


(そうだ! あいつらなら何か知っているかもしれない。)


 こんな時に一番頼りになりそうな春樹に電話してみる。


春樹「あれ、ジョージさん。こんな朝早くからどうしたんです?」

譲二「百花ちゃんが手紙を置いて出て行ったみたいなんだ」

春樹「ええ!! 佐々木がですか?! 」

譲二「ハル、何か心当たりはないか?」

春樹「いえ。この間から元気がなくて悩んでいるみたいだったけど、ここ数日は少し明るくなって、何か吹っ切れたのかなぁと思っていたんですけど…。手紙にはなんて書いてあるんですか?」

譲二「それが…。手紙はおまえら宛のしかないんだ…。勝手に開けるわけにはいかないから、みんなに声をかけてクロフネに来てくれないか? 何が書いてあるか読んで教えて欲しいんだ。」


 最後の言葉は声を絞り出すようにしてつぶやいた。


春樹「分かりました。すぐみんなに連絡してそっちへ行きます。だから、落ち着いて待っていてください。」

譲二「ああ、こんな朝早くからすまないね。」



☆☆☆☆☆

 ヒロインは大好きな譲二さんへの手紙は何度も書こうとしたけど、どうしても書くことが出来なくて結局カルボナーラのレシピだけを残していくんだよね。


 でも、譲二さんにしたら訳がわからないし、みんな宛の手紙を勝手に読むわけにもいかないしで、結局後手後手にまわることになる。


 こんなときに譲二さんが相談するとしたら、やっぱり一番頼りになるのはハル君。

ハル君は自分のことではなかなか冷静になれないし、不器用だったりするけど、他の仲間のことは親身になるし、冷静な判断もできるし、頼りになるよね。



☆☆☆☆☆
逡巡(しゅんじゅん)その3

 まだ寝ていた者もいただろうに、20分くらいで全員クロフネに集合してくれた。

俺にとっては数時間にも思えたが…。

 みんなに封を開けて読んでもらい、差し支えない範囲で内容を教えてもらうことにした。


剛史「俺の名前の漢字が間違ってる…。」



一護への手紙


『一護くんへ


 今まで、ありがとう。

一護くんは意地悪だっていつも言ってたけど、本当は色々気を使ってくれていたんだよね。

ちゃんとわかっていたよ。

小さい頃からずっと大好きだったよ。


 本当はもっとみんなとずっと一緒にいたかったけど、私がいるとマスターは明里さんと結婚できません。

マスターの幸せを邪魔していると思うと(涙がにじんだ跡)、辛くてたまらないんだ。


 だから、両親もこっちへおいでと誘ってくれたし、イギリスへ行く事にしました。

一護くんやみんなにちゃんと話さなきゃと思ったけど、話すと心がくじけてしまいそうで、みんなには黙って発つことにしました。

学校の手続きはもうしてあります。

先生にもみんなには話さないように頼みました。

                                                            …』

 


 どの手紙にも同じような事が書いてあった。


(百花ちゃん、なぜ俺には手紙をくれなかったんだ…?)


 呆然としている俺に、みんなは口々に声をかける。


一護「マスター、携帯は…つながらないのか?」

春樹「メールも?」


 黙って頷く俺。


一護「マスター、行こう!!」

譲二「…どこへ…?」

理人「決まっているじゃん、空港へだよ。」

剛史「搭乗手続きに時間がかかるから、まだ間に合うかもしれない。」

竜蔵「俺らも一緒に行って手分けして捜すから。」

春樹「ジョージさん、空港で待っているようにって、メールもしといた方がいいんじゃないかな。」


☆☆☆☆☆

 剛史君はこんなときでもツッコミが笑わしてくれる。


 みんなの手紙を読んで、初めて譲二さんにもことが理解できたわけだけど、みんなの手紙には「ハル君大好き」「一護君大好き」って書いてあるのに、なぜ自分だけが手紙をもらえないのか訳が分からない。


 何の相談もなしにヒロインが両親の元に帰ってしまったというのも、すごくショックだったと思います。


 この「みんなを集めて手紙を開示→事情判明→出国阻止」をしている間に、手遅れになっちゃったんだよね。



☆☆☆☆☆
逡巡(しゅんじゅん)その4

メール


『百花ちゃんへ



イギリス行きの、何時の便?すぐに行くから、絶対、行っちゃダメだ!必ず空港で待ってて。


              譲二』

☆☆☆☆☆
 空港内をみんなで捜し、イギリス便への搭乗者を見張ったりしたが、結局、百花ちゃんを見つける事はできなかった。



 百花ちゃんは明里と俺との事を誤解したまま行ってしまった…。

明里のことはもう何とも思っていないと否定したのに、信じてはもらえなかったのか。


 いや、それより俺のために身を引こうと思い詰めるぐらい俺の事を思っていてくれたなんて…。

俺に好意を持っていてくれているとは感じていたが、そこまで好きでいてくれたのか。


それがもっと早く分かっていたら……。


 なにより、百花ちゃんがいなくなることで、俺自身がどんなに百花ちゃんを愛しているかを思い知らされた。

俺は自分の本当の気持ちに気づいて、ただただ驚いた。


そして、百花ちゃんが側に……俺の側にいないことがこんなにも辛いことだとは…。

☆☆☆☆☆

 それまで、ヒロインの気持ちに自信が持てなかった譲二さんだったわけだけど、やっと自分を好きでいてくれたことに気付くことができた。

そして、ヒロインが自分に取ってどんなに大切な存在だったかも気付いたわけだけど…。



☆☆☆☆☆
逡巡(しゅんじゅん)その5

♪~

 百花ちゃんのママ、佐々木良子さんからのメールが届いた。


 良子さんからのメールは、「百花がイギリスに着いたよ。」という簡単な連絡メールの後、2週間ぶりだった。

 


メール


『譲二君へ


元気にしてる? 

百花が日本にいる間はお世話になりました。

本当にありがとう。

朝晩の食事やお弁当まで、譲二君に作らせていたんだって?


一緒に住んでいた間はあまり料理はさせてなかったから…。

何もできない娘を預けたりして本当にごめんなさいね。


百花がこっちに来たいと突然言い出した時には本当にびっくりしました。

そちらで譲二君や春樹君達と楽しく過ごしている様子のメールがよく届いていましたから。

もちろん、百花がいなくて寂しい私たちは、冗談半分、本気半分で「百花もこっちへおいで」という手紙を送りましたが…。

まさか本当にイギリスに来てしまうなんてね。

百花がそれでいいなら私たちも別に構わないのだけど…。

でもねぇ…。

こちらでの百花はとても明るくてはしゃいでいるのだけど…。

なんだか、ちょっとした折りにふと見ると、涙をこらえるような思い詰めた顔をしてぼーっとしていることがあるの。


単刀直入に聞くわね。

そちらで何かあった?

百花、本当は日本に帰りたいのじゃないかしら?

譲二君しか、こんなことを聞ける人はいないから。

分かる範囲で教えてください。

お仕事が一段落して時間のある時にメールしてね。

                                              良子より』





☆☆☆☆☆


 ヒロインの母は元々譲二さんのメル友なんだから、ヒロインがイギリスに行ったら譲二さんに対して何らかのリアクションはあるはずなんだよね。


 ヒロインは両親の前ではきっと元気に振る舞うけど、女親なら本当の気持ちにも気付くはず。



☆☆☆☆☆
逡巡(しゅんじゅん)その6

 時計を見る。


0時20分。


(イギリスじゃ今は午後の3時過ぎだな。今なら電話しても大丈夫だろう。)


 震える指で良子さんの携帯番号を押す。


譲二「もしもし、良子さん。お久しぶりです。」

良子「あら、譲二君。どうしたの? もしかしてメールを読んでくれた? ごめんね、そちらじゃ夜中でしょ。明日にでもゆっくり読んで返事をくれればよかったのに。」


譲二「あの、良子さん。今、時間は大丈夫ですか? よかったら、ちょっとご相談があるんです。」

良子「(笑)なあに? 改まって。譲二君の相談にのるなんて久しぶりね。」

譲二「百花ちゃん…、お嬢さんをもう一度、俺に預けてくれないでしょうか?」


 俺はこれまでのこと、自分の気持ち、百花ちゃんは俺が明里を好きだと誤解している事、つっかえつっかえすべて話した。


良子さんは昔のように優しく相槌を打ちながら、俺の気持ちを引き出してくれた。


良子「そう。あの百花と譲二君がね。それで、あなたはどうしたいの?」

譲二「百花ちゃんに日本に帰って来てもらって、今まで通りに暮らしたいです。」

良子「それは…そうねぇ、私に言うのではなくて、直接百花に言ってごらんなさい。」

譲二「えっ」

良子「こっちに来るのは遠くて大変だから、申し訳ないとは思うんだけど…。そういうことは百花に直接言った方がいいわ。」

譲二「そうでしょうか…?」

良子「そうよ。元々百花を譲二君に預けたのは、あなたが快く引き受けてくれたのもあるけど、私的には百花のことを譲二君なら幸せにしてくれるんじゃないかなと思ったからよ。」

譲二「え…」

良子「もちろん、百花はまだ高校生だからそういうことはまだ早すぎるけど…。

百花は昔、譲二君のことが大好きだったしね。

譲二君には彼女ができたとかの話もまだなかったし、久しぶりに会わせてみてお互いに気に入るようだったら、ゆくゆくは結婚相手として考えてみてもいいんじゃないかしらって。」

譲二「俺が百花ちゃんに手を出したりしないか、心配しなかったんですか?」

良子「それは…(笑)。譲二君ならそんな変な事はしないでしょ。これでもあなたの性格はよくわかっているつもりよ。それに百花に変な男が近づいてきたらちゃんと追っ払ってくれるでしょ?」

譲二「…」

良子「百花が譲二君のことをお兄さんとしてしか思わないようなら、それはそれでいいと思ったの。譲二君には、誰かお似合いの女性を探してあげてもいいなぁと思っていたから。

 雨の公園で、迷子の子犬のようにあなたが泣きそうな顔で座っていた日の事は、今でも忘れられないわ。あの譲二君には、私、温かい家庭を築いて幸せになってもらいたいのよ。」


 良子さんの優しい言葉に、俺はただただ静かに涙を流していた。


☆☆☆☆☆
逡巡(しゅんじゅん)その7

良子さんへの電話を切った後、俺は決心した。


イギリスへ行こう!!


そして絶対に百花ちゃんを日本へつれて帰る!!


まず、疲れた頭と体を休めようとベッドに入ると、良子さんとの会話で安心したのか、久しぶりに朝までぐっすり眠った。



 翌朝、まず体からアルコール分を抜くことから始めた。

シャワーを浴び、うすいコンソメスープと濃いブラックコーヒーを飲み、大掃除をする。

1階も2階もすべての窓を開け放って淀んだ空気を追い出し、厨房や俺の部屋に転がる酒瓶を回収してまとめた。

掃除をしながら、2週間の間にこんなにも薄汚れてしまったかと苦笑いする。

こんなんじゃ、百花ちゃんが帰ってきたらびっくりするな。

さすがに百花ちゃんの部屋に入ると胸が痛んだが、構わず機械的に掃除をする。



 午前中働き続けるとさすがに空腹を感じたので、食事を作ることにした。


(そうだ百花ちゃんが置いて行ったあのカルボナーラのレシピを作ってみよう。)


 厨房にいい匂いが立ちこめる。


(それにしても、どうして俺だけが手紙をもらえず、カルボナーラのレシピだけなんだろう…。やはり、百花ちゃんは俺のことなんか、好きではないんじゃ…。)


 不安がよぎる。


良子『今の話を聞いた限り、百花は譲二さんのことが大好きだと思うわ。もっと自信を持って。』


良子さんが言ってくれた言葉を思い浮かべて、気持ちをなだめる。


良子『譲二君が本気になったら、どんな女の子でも夢中になるわ。』


(明里以外はね。)


…ああ、だめだ、だめだ。


 カルボナーラを一口食べてみる。

味はしっかりついているが、くどくなく優しい味。


(まるで百花ちゃんみたいだ。)


☆☆☆☆☆


 頭を整理してどうやってイギリスへ行くかを考えた。

 ふと思い出して、明里から来ていた結婚式の招待状を開いてみた。

返事はまだしてなかったが、たしかイギリスで結婚式をあげると書いてあったはず。


招待状の日付を確かめる。


 ちょうど2週間後だ。

よし、これにひっかけてイギリスへ行こう。


明里の元婚約者なんだから、これぐらい利用させてもらっても罰は当たらないだろう。


逡巡 おわり

☆☆☆☆☆

 この後は本編10話に続きます。


10話も譲二さん目線で書いてみたいと思います。


茶倉譲二本編9話~吉祥寺恋色デイズ

2014-06-02 11:11:14 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二目線から本編のお話を眺めてみました。
ネタバレありです。
 

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り
 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。

☆☆☆☆☆
9話その1
 公園で見つけた百花ちゃんをクロフネまで連れて帰る。

百花ちゃんは、しきりに明里のことばかりを気にする。


俺は、百花ちゃんを迎えに行きたいから、明里を追い返したといった。


百花「そんなことをしちゃだめですよ…。明里さんは婚約者なのに。」


明里にこだわる百花ちゃんの気持ちを聞いてみた。


譲二「あのさ。百花ちゃんは俺と明里に結婚して欲しいの?」

百花「え?」

譲二「だって、俺『結婚しない』って言ったよね? それなのに、そればっかり気にしているみたいだから…」


俺は百花ちゃんの気持ちが知りたくて問いつめる。


百花「結婚…してほしくないです。」

譲二「そうだよね。」


俺はその答えを聞いて少しほっとする。

なんでだろう?

別に俺が好きだから結婚して欲しくないって言ってるわけではないのにな。


百花ちゃんの頭をぐしゃっとなでた。


譲二「これでもね。百花ちゃんの気持ち分かっているつもりだよ。ハルや一護や…みんなと、まだまだずっと一緒にいたいもんね。」

百花「…」


俺は百花ちゃんがこの町に帰って来た時のことを話した。

百花ちゃんはこの町が好きなんだなって思ったこと、百花ちゃんがハルたちととても楽しそうにしていたことを。


譲二「さっき泣いてたの…明里のせいだろ?『出て行って欲しい』って言われたんだって?」


そっと覗き込むと百花ちゃんはまだ悲しそうにうつむいている。


譲二「あいつの言うことなんか気にしなくていいよ。約束どおり、卒業するまでうちにいてくれていいんだ。」


百花「私が卒業したらマスターはどうするんですか?実家に帰るんですか?結婚しちゃうんですか?」


 百花ちゃんは畳み掛けるように聞いてくる。


譲二「さあね。先のことはわからないよ。ただいつか結婚するなら、本当に大切な人としたいよね。」

百花「大切なひと?マスターにとって明里さんは大切な人ですよね。」


百花の口から思わぬ名前がでて俺は驚いた。

大切な人に具体的なイメージはなかったから…。

そう考えた時、なぜか百花ちゃんが思い浮かんだ。


いやいや、懲りてないな…俺は。


でも、本当に大切な人というのに明里という選択肢はない。


譲二「どうしてそう思うの?」


百花ちゃんは俺が明里のことを話している時にはとても優しい顔をしているからと言った。

そっか…俺はあいつのことを話してる時にそんな顔をしてたのか…。


やっぱり女の子だなぁと思う。

俺と明里の間に色々あったことを見抜いている。


☆☆☆☆☆


 譲二さんが明里さんのことを話す時とても優しい顔をしているのは、ヒロインから見ると「譲二さんが明里さんを好きだから」になるんだよね。


 でも、譲二さんにとっては、振られたり、パシリにされたり、とんでもない奴だけど憎めない幼なじみという意味で優しい顔になるんだよね。

一言では言い表せない諸々のことが2人の間にはあって、それがヒロインにとっては「譲二さんは明里さんが好き」なように見えてしまう。


  明里さんと恋人のことだって、今は心から喜んであげられるんだろうけど、そうなるまでは複雑な心の動きがあったんだろうね。

ヒロインに「明里さんには恋人 がいる」と言えば話は簡単だったんだろうけど、譲二さんの深い心の中の部分に関わることで、なかなか人に口に出して言えることではなかったんだと思う。



☆☆☆☆☆
9話その2


 俺は思い切って、明里にずっと片思いをしていたことを打ち明けた。


譲二「ずっと昔のことだけどね。」

百花「私が明里さんなら、すぐにマスターを好きになるのに。」


百花ちゃんの抑えた、しかし強い言葉に驚いた。


百花「絶対好きになるのに。」


 俺の中で無意識に押さえつけていた感情がもたげてくる。


譲二「ダメだよ。簡単にそんなこといったら。男なんて単純な生き物なんだから、そんなこと言われたら、すぐにその気になって…あっという間にパクって食べられちゃうよ?」


 俺の軽口に百花ちゃんはまっすぐな目をして見つめた。


百花「いいです。食べられても…。もう子供じゃないし…。」

譲二「そう?じゃあ、遠慮なくいただいちゃおうかな」


俺は半分本気で百花ちゃんを抱き寄せると、優しく抱きしめた。


(ああ、いい香りがする)


百花ちゃんはビクンと身をすくめた。


(……やっぱりまだ子供なんだよ)


俺はそっと百花ちゃんを離した。


譲二「ね? だから、ダメだって言ったでしょ? 大人の男は怖いんだから…ね?」


冗談めかしながら、一瞬本気になってしまった自分を少し嫌悪した。


譲二「とにかく、遠慮せずにずっとうちにいてくれたらいいから。」

百花「明里さんのことは?」

譲二「それも、心配いらないよ。」

譲二「人生ってのはね、ちゃんと、おさまるところにおさまるようにできているんだから。俺も明里もおさまるところにおさまるよ。」

譲二「俺はいつでも可愛い子優先。つまり、百花ちゃん優先だから…ね?」

百花「マスター…」


☆☆☆☆☆

 「俺はいつでも可愛い子優先。」て、ちょっとふざけたように言っているけど、もろ本音なんでしょうね。

譲二さんはこんな風にふざけて言っているようにみせて、時々本音をまぜるから、ヒロインはますます翻弄されるんだろうなぁ。



☆☆☆☆☆
9話その3


 ぽろりと百花ちゃんの目から涙がこぼれた。


譲二「えっ、ちょ…百花ちゃん?」

百花「大丈夫です。ごめんなさい、なんでもないんです。」

譲二「でも、そんな泣いてるし。」

百花「違うんです。マスターが優しすぎるから」

譲二「ええっ。やだなぁ!」


百花ちゃんにそんな風に言われると照れてしまう。

こんな可愛い百花ちゃん、ますます好きになってしまいそうだ。


譲二「俺が女の子に優しいのなんて、いつものことじゃない。」

百花「ふふっ…それもそうですね」


百花ちゃんはやっとあの花のような笑顔をみせてくれた。

(ふうっ。よかった…いつもの百花ちゃんだ)



 百花ちゃんが「クロフネにつくまで手をつないで」と言うので、手をつないで帰った。


百花「…ちいさいころも、よく手をつないでもらいましたよね。」


そうだよなぁ。

百花ちゃんは昔から手をつなぐのが好きだったよなぁ。


大きくなったようで、やっぱりあの頃と変わらないところもあるな。


だけど、百花ちゃんがもっと大人になったら…。

俺の望みは高望みなんだろうか?


温かい小さな手を握りしめ、頭に浮かぶ雑念をそっと打ち消した。


☆☆☆☆☆

 手をつないでクロフネまで帰る2人。

でも、その心の中はそれぞれ違ってる。


 譲二さんは百花ちゃんと色々話して、自分の気持ちや明里さんへの誤解も解けたと思ってる。

ずっと続く日常を信じているから、自分の心の中のもやもやは時間が解決してくれるだろうと思っている。


 ヒロインの方は大好きな譲二さん(と明里さん)のために自分が身を引こうと決心している。

お互いに好き同士で、同じ時を過ごしているのに、こんなにも気持ちが離れてしまっているのは切なくなります。



☆☆☆☆☆
9話その4


 あくる日からはまたいつもと同じ、明るい百花ちゃんに戻ってほっとした。

百花ちゃんの楽しいスクールライフを守るのが俺の役目だからね…。

それが一番大切なんだ。


でも、それだけでいいんだろうか。


俺はそれだけで我慢できるのか?

 百花ちゃんを1人の女としてみてしまっている自分が少し後ろめたい…。


でも、焦るまい。

時間はまだたっぷりあるのだ。

百花ちゃんが高校を卒業するまであと1年と少し。

俺の気持ちを整理して、百花ちゃんの気持ちを少しずつ確かめる。


そうだ。

時間はまだまだたっぷりある。


逡巡(しゅんじゅん)~譲二本編9話その後へ

☆☆☆☆☆


 大好きな人のためにと決心した女心は強いです。

譲二さんにも幼なじみたちにも気持ちを隠したまま、イギリスへの渡航準備を進めるヒロイン。


 みんなに直接いう勇気はないから、手紙を書くんだけど、譲二さんへの手紙だけはどうしても書けない。


 明日があると思うから、譲二さんの心の中は平静が保たれているし、幼なじみたちは来月みんなで行こうと計画している小旅行の話で盛り上がっている。


  譲二さんとの最後の夕食。

ヒロインは前々から試作していたカルボナーラを作ります。

「クロフネのメニューを増やそうと思って」と打ち明けるヒロインに感激する譲二さん。

簡単に作れるレシピのメモをわたすからというヒロインに譲二さんは明日の夜に作り方を教えてと言います。


 明日がある(と思っている)人とない人。

そのやり取りは本当に切ないです。


 ヒロインは結局、譲二さんへの手紙は書けないまま、カルボナーラのレシピをその代わりとして残して、出国します。


☆☆☆☆☆

 この後、ゲームでは10話になって、イギリスでのヒロインと譲二さんの再開の話になるのですが、その間の譲二さんとその心の動きを色々と妄想して書いてしまいました。


 今まで、長々と本編のお話を紹介してきたのは、この部分をアップしたかったからでもあります。

 

 


茶倉譲二本編8話~吉祥寺恋色デイズ

2014-06-02 11:09:23 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二目線から本編のお話を眺めてみました。
ネタバレありです。
 

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り
 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。

☆☆☆☆☆


8話その1


 翌朝、起きて来た百花ちゃんは目の下にクマを作って、いかにも寝不足だった。

恐る恐る聞いてみた。


譲二「宿題がそんなに大変だったの?」


百花ちゃんは大量の宿題のせいで寝不足なのだと言う。


(一応…、嫌われてはないのかな?)


そんな百花ちゃんのために、濃いめの紅茶と目を温めるホットタオルを用意した。

ホットタオルで温めていると珍しく剛史が現れた。


漫画本を返しに来たのだという。

百花ちゃんみたいにクマを作った悲惨な顔で、こちらは漫画を読みきったせいで寝不足だったと告げた。


(え? 剛史って百花ちゃんと同じクラスだよな? )


剛史にそんなに漫画を読んでて宿題は大丈夫か聞いてみたら、どうも2人の様子が変だ。

2人のやり取りを観察してたら、実はたくさんの宿題なんか出てなかったようだ。


(そうか…やっぱり)


たくさんの宿題というのは、俺から逃げるための口実だったんだな。


百花ちゃんは優しい子だから、いつもと同じように俺と接してくれてるけど。

これは完全に嫌われちまったみたいだ。


やっぱり、あんなことを聞こうとするんじゃなかった。



自分の愚かさに、今日は一日落ち込んでいた。


10代の女の子が俺みたいなオジサンなんか好きになるわけはないよな。


もう一緒にいるのもキモチワルイと思われたんじゃないだろうか…。

☆☆☆☆☆

 学校で開いた両親からのエアメール。

そこに書いてあった「イギリスに来ませんか?」という一行が後の伏線になります。


☆☆☆☆☆


8話その2


ため息ばかり付きながら夕方になった。

百花ちゃんはいつもより遅くて、なかなか帰ってこない。


 先にリュウたちが集まって来た。


ひどく落ち込んでいた俺は、みんなの前で「俺、百花ちゃんに嫌われたかも。」とぽろっと口にしてしまった。


からかってるのか慰めてるのか分からないようなあいつら。

だけど、それなりに親身になって話を聞いてくれて、少し気分が楽になった。



そして、帰ってきた百花ちゃんは普通に接してくれた。

それだけでもとても嬉しい。


(ごめんね。オジサン、これからは君に嫌われないように気をつけるから)


お詫びの気持ちを込めて、ハチミツ入りのミントティーを出す。


これで許してもらえるといいんだが。


ちょうど電話があり、出かけなくてはいけなくなった。


ワイワイと何かで盛り上がっている百花ちゃんとあいつらに店番を任せ、外へ出た。


☆☆☆☆☆


1人になって頭を冷やして考える。


百花ちゃんが明里のことを気にするのは、俺が好きだからかもしれないと思ってしまった。


実のところ、それは俺の願望だ。


けど、そうではなくて、百花ちゃんが明里を気にする本当の理由は別にあるんじゃないだろうか?

例えば……?


彼女はせっかく再会した幼馴染たちと別れることになるのを心配しているのかもしれない。


確か以前明里に連れて行かれた時、明里に「ここを出て行ってくれ」と言われたと言っていたよな。

あいつらと百花ちゃん、和気あいあいとしたいい仲間だものな。

今日だってみんなで楽しそうに話していた。

だけど、俺が実家に帰ったら、百花ちゃんはクロフネを出て行かないといけなくなる。

そうか…!

もしかしたら、ハルや一護たちと別れなきゃ行けなくなるから、俺と明里のことを気にしているんじゃないだろうか?

きっとそうだ!

だから、俺が明里と結婚するのか?なんて聞いてきたんだ。


クロフネを閉めてしまうんじゃないかって。

それが心配だったんだ。


じいさんのことは気になるが、百花ちゃんが高校を卒業するまでは、なんとかこのクロフネでがんばらないとな。

☆☆☆☆☆


 譲二さんが外出してる間に、幼なじみたちは譲二さんとヒロインのことを「あーでもないこーでもない」と相談にのってくれてます。

なんだかんだいいながら、相談にのってくれる仲間がいるのはいいよね。


 譲二さんの方はヒロインが自分のことを好きなんじゃなくて、幼なじみたちや吉祥寺を離れたくないから明里さんのことを気にしてるのかもと思い始めます。


 本音で話し合えばなんということもないんだけど、それぞれ自分だけで思い悩んでしまう性格だから、すれ違いがつづいちゃうんだよね。



☆☆☆☆☆
8話その3


 俺が用で店を離れている間に、明里が店に来て待っていた。


俺たちを残して、みんな口々に用があると言って店を出て行く。


百花ちゃんも気を遣って、早めに銭湯に行ってくるとみんなと外へ出かけてくれた。


譲二「で? 今日は何の用なんだ?」


ぶっきらぼうに問いかける俺に明里はにっこり微笑んだ。


明里「私ね、結婚することになったの」

譲二「結婚?! あいつとか?」

明里「もちろん! だから今日はその報告とお礼に来たの」


明里の恋人は俺の親友でもある。

奴は優柔不断なところがあり、ずっと煮え切らなかったのだが、やっと結婚を決心してくれたらしい。


前に俺が「本当に大切な人と結婚することが家よりも大事だろう。」と言ったことで、明里も恋人をプッシュする気になったらしい。

明里は「家から勘当されることになったけど」、と笑っていた。


俺との婚約の継続は恋人以外との結婚話が進まないようにするための偽造でもあったから、肩の荷がおりたようで正直ホッとした。


明里が帰った後、俺も気分が軽くなって、百花ちゃんを迎えに福の湯に行くことにした。


のれんをくぐると剛史が「あれ、百花は?」と聞く。


財布を忘れたと言って随分前にクロフネに戻ったという。


あわててクロフネに戻ったが、百花ちゃんはいなかった。


財布もそのままだったので、それを持って探しに行く。



(いったいどこに行ってしまったんだろう?)


足は自然と百花ちゃんと初めてであったあの公園に向かっていた。


公園のタコのすべり台の中をのぞくとやっぱりいた。


膝を抱えてポツリと座り込んでいる。

それは昔の百花ちゃんの姿と重なって見えた。


譲二「子猫かと思ったら、お姫様だった。」


なんだか元気のない百花ちゃんに声をかけて、すべり台を降りるよう手を差し伸べた。


百花ちゃんは手を伸ばしたものの、俺の手を取るのをためらった。


そっか…。

お年頃の女の子がこんなオジサンの手をとるのはちょっと嫌なのかもね。


昨日は変な誤解をしてしまったばかりだし…。




元気の無い百花ちゃんに「下宿を出ることは心配しなくていい」と伝えたくて、『デート』に誘った。
 
本編9話へ
☆☆☆☆☆

 財布を取りに戻ったヒロインは偶然、譲二さんと明里さんが抱き合っているのを目撃したんだよね。

本当は抱き合っているわけでもなくて、おめでとうのハグなんだけど。

ずっと明里さんのことを婚約者と思い込んでいるヒロインにはとてもショックな出来事だよね。


 譲二さんの「子猫かと思ったら、お姫様だった。」という言葉も昔の思い出に繋がる言葉です。

その時の譲二さんはもっとキツい言い方で言ったわけだけど…。


茶倉譲二本編7話~吉祥寺恋色デイズ

2014-06-02 11:06:59 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

 

吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二目線から本編のお話を眺めてみました。
ネタバレありです。
 

☆☆☆☆☆
茶倉譲二プロフィール 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
血液型:O型 特技:歴史語り
 特徴:歴史オタク
ヒロインの初恋の人。公園でサンドイッチをもらったり、抱っこしてもらったりしてた。

☆☆☆☆☆

7話その1

前夜停電の中、譲二にしがみついた百花。

でも、朝食の席ではいつも通りの譲二に肩透かしをくう。


 朝食の時、百花ちゃんは俺に何か言いたそうにしている。


(えっと、そんなに見つめられると困るな…)


そんな百花ちゃんの様子に気付かない振りで、あえていつも通りに接するようにつとめた。


いつものように百花ちゃんを学校に送り出してホッとした。


(何、意識してんだろ…俺)


暗闇でしがみつかれて、思わず昔のように抱きしめてしまったけど。


百花ちゃんが抱きついてきたのは雷が怖い恐怖心のせいだ。


それに甘えて、百花ちゃんに変な感情を持たないようにしないと。
 
 
☆☆☆☆☆

昼も過ぎた頃、百花ちゃんにご両親からのエアメールが届いた。

☆☆☆☆☆

夕方、エアメールを渡した時、百花ちゃんはまたあの花のような笑顔で受け取ってくれた。

なんだか、百花ちゃんの笑顔を見るたびに癒やされているよなぁ。


その時、カウンターには一護もいた。


ずっとそこにいたのに、百花ちゃんが自分に気付かなかったと焼きもちを妬く一護。


それが余りに一護らしくて可笑しく思えたのと一護への優越感もあって、ちょっとふざけてみた。


「百花ちゃんは俺ひとすじだものな」と百花ちゃんの肩に手を回して抱き寄せる。


百花ちゃんも俺のおフザケに乗ってくれることを期待して。


一護「…マスター。コイツ、硬直してんだけど…」


一護に指摘されて、百花ちゃんの顔を横目で見た。

確かにぎこちない笑顔を浮かべて固まってる…。


譲二「うぁぁ、」


俺は慌てて飛び退いた。


(なんてバカなことしちまったんだ!)


馴れ馴れしすぎて、百花ちゃんに嫌われたかも。

今のは冗談だよと百花ちゃんに言ったけど、信じてくれたかなぁ。


昨夜、あんな風に抱きしめてしまったから、気が緩んでついつい馴れ馴れしくしてしまった。




☆☆☆☆☆

 この7話あたりからヒロインと譲二さんの恋の駆け引き?みたいなのが始まります。

好きになった譲二さんに振り向いてもらいたいヒロインと、自分の気持ちを押し込めてなんとか平静を保ちたい譲二さんと。


 今まで通りの反応の譲二さんにヒロインは動揺してしまって、りっちゃんにも感づかれそうになるし、ハル君にも悩んでいるって分かってしまうし。

  お昼にハル君と剛史君に明里さんのこととか相談してたら、ヒロインが譲二さんを好きなことは2人にもしっかりバレてました。

ハル君には「がんばれ」って励 まされたものの、剛史君には「(ハル君の妹の)紗枝ちゃんと竜兄が恋愛するようなもの」と指摘されて、一挙に暗くなる3人だった…。


 若い頃の10歳差って本当に大きいものね。

大人になって、年を経ってくると10歳なんてだんだん大差なくなってくるんだけど。



☆☆☆☆☆

7話その2

 夜、お詫びの気持ちもあって、勉強していた百花ちゃんを一階に呼んでココアを入れてあげた。


お疲れ様とマグカップで乾杯。


昼のことは無かったように普通に2人でおしゃべり出来た。


よかった…。


あのちっちゃかった百花ちゃんが進路をどうしようか? なんて悩んでいる。

なんだか可笑しくなって、ちっちゃい頃、『お姫さまになりたい』と言っていた話をした。


昔は抱っことかもよくしていたけど、今はもうできないなぁっていう話も。


じーじだってバレてからは、こんな昔話で盛り上がれるのが楽しい。


進路のことからなぜかまた明里の話になってしまった。

やれやれ…。

なんで百花ちゃんと明里の話なんかしなきゃならないんだろう?

百花ちゃんには「明里と結婚するのか?」なんて聞かれるし。

俺はきっぱりと明里と結婚することはありえないと言った。


だけど、なぜか百花ちゃんはそう思ってくれないみたいだ。


それにしても…。

百花ちゃんはどうしてこんなに明里のことばかりにこだわるんだろう?

もしかして?

まさか?


百花ちゃんはひょっとすると…俺のことを?

いやいや…そんなわけ。

でも、気になる。


 俺は思い切って聞いてみた。


譲二「…一つ、聞いてもいいかな?」


百花ちゃんが小首をかしげて俺をみつめる。

俺の心臓がバクんと跳ね上がる。

ここまで、口に出したら…ええい。


譲二「違っていたら悪いんだけど、百花ちゃんって、その…もしかして、俺のこと…」


しどろもどろになりながらも思い切って言おうとして…。

だが、最後まで言えなかった。


百花ちゃんは突然立ち上がって、宿題がどうとか言いながら、慌てて2階に上がってしまった。


後に残された俺は頭を抱えた。

俺…どうかしてた…。

あんなこと聞こうとするんじゃなかった。


10歳も年下の百花ちゃんが俺のことを本気で好きになるわけはないじゃないか。


何バカなことを口に出してるんだよ。


変な色気を出したオジサンだって、嫌われちまったよな。


昨夜、なんだかいい感じになったような気がしたから、つい調子にのってしまった…。


俺の悪い癖だ。


明日になったら、百花ちゃんは許してくれるだろうか?


本編8話へ
☆☆☆☆☆

  ヒロインにとって、明里さんは譲二さんをめぐっての恋敵なわけですが、譲二さんにとっての明里さんは既に終わった人で、その辺りの2人の温度差が今後のギクシャクに繋がっていくんだよね。

ここで、譲二さんが「明里には恋人がいるんだ」とはっきり説明すればいいんだろうけど…。

明里さんのことがこんなにもヒ ロインを苦しめているというのが譲二さんにはわかっていないから無理なんだよね。

譲二さんが中途半端な説明をすればするほど、ヒロインは疑心暗鬼になって しまうという…。

 ヒロインがここまで本気だとわかっていれば、譲二さんにも対処の仕方があるんだろうけどねぇ…。