前にも書いたけど、吉恋本家の譲二ルートの3年後編には色々と不満がある。
久しぶりに吉祥寺に帰ってきた譲二さんとのラブラブな話のはずなのに、新キャラの紹介に使われてたり、色々とモヤモヤするものがあって、私の思う『勝手に3年後編』を書いちゃいました。
『譲二の勝手に3年後編』の始めの部分は本家の『譲二3年後編』とほぼ同じです。
そして、時々本家のエピソードに重なるものも入れながら、少しずつ離れていき、玉の緒ワールドの譲二さんの話になってます。
航くんは出てきませんが、本家の『譲二3年後編』では出てこなかった、懐かしいあの人とかあの人とか出てきます。
だから、ネタバレも少々あるものの、譲二ルートの3年後編とはまた別のお話と思って下さい。
☆☆☆☆☆
悪意~その6
〈譲二〉
譲二「玲さん!なんでこんなことをするんだ!俺に恨みでもあるのか!」
自分でも驚くほどの大声で怒鳴った。
玲さんを百花ちゃんから引き離した時に、弾みで千切れたカフスボタンが床に転がっている。
百花ちゃんは俺の胸に顔を埋めて、震えていた。
しかし、玲さんは何事もなかったかのように平然としている。
艶やかな前髪が目にかかり、相変わらず美しい。
玲さんはその前髪を掻き上げた。
玲「恨み?…そうね…確かにアンタのことは恨んでるわ」
そう言うと、俺を鋭い目つきで見据えた。
譲二「どうして?お前の父親の店を俺が継いだからか?」
玲「それもあるけど…それだけじゃない」
玲「アンタはアタシの欲しい物を全部持ってる。その上アタシの大事な物も奪っていった…」
譲二「いったい何を言ってるんだ!」
玲さんは寂しげな笑みを浮かべた。
玲「前にこの店を父がやってたのを最近知ったって言ったわよね?」
譲二「ああ」
玲「あれ、嘘なの」
譲二「え?」
玲「本当は以前から知ってた。それに…店に来たこともあるのよ」
譲二「いつ?」
声が掠れてしまう。
玲「ずっと昔…。そう、あれは20歳になったばかりの頃だった。」
玲「何年も会ってない父さんがここで『黒船』って喫茶店をやってるってことを教えてくれた人がいてね。アタシ、懐かしくて、父さんに一目会いたくて来てみたのよ」
玲「久しぶりに会う父さんはちょっと老けてたけど、記憶にあるまんまの優しい父さんだったわ。」
玲「…だけどね、アタシが自分の息子だってことには全然気づかなかったわ。もちろん、アタシは声を出さなかったから、男だとは思わなかったんだろうけどね」
玲さんはしばらく黙った。
玲「アタシが席に着いたら、アンタが水を運んで来たわ」
譲二「⁈」
玲「最初はただのバイトかと思ってたけど…。アンタ、『譲二くん、譲二くん』て、父さんに随分可愛がられてたわよね?」
譲二「…ああ」
玲「アンタもコーヒー淹れたり、オーダー運んだり、楽しそうに働いてた。父さんはそんなアンタを目を細めて嬉しそうに見てたわ」
譲二「……」
いつの間にか、雨が降り出していたようだ。
雨粒が窓を叩き始めた。
その7へつづく