譲二さんルートとの混乱を避けるため、ヒロインの名前は佐々木美緒とします。
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好きになったヒロインに迷わず告白し、実力行使にでてしまう男らしい譲二さん。
ただやっかいなのは、ヒロインが好きなのは譲二さんではなく、別の男の人だった。そう…、たとえばハル君。
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茶倉譲二: 喫茶クロフネのマスター
身長:183cm 体重:70kg
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『仲違い』の続き
『打ち上げで…』その1
〈譲二〉
ハルの空手の地区大会の日が来た。
美緒は応援には行かないという。
譲二「美緒ちゃん、行っておいでよ。ハルの応援はしたいだろ?」
美緒「いいの?」
譲二「当たり前じゃないか。それに美緒ちゃんが応援したら、ハルも頑張れるだろ?
みんなハルの試合の後にお祝いをしたいからって、俺は料理を頼まれているんだ。」
美緒がハルを好きな気持ちは誰にも止めることはできない。
大好きな人の応援には行きたいだろう。
俺は自分の気持ちを押し殺して、料理の下ごしらえを始めた。
〈美緒〉
みんなと一緒に応援にいった。
試合前のハル君に「頑張ってね」と声をかける。
ハル君は昨年優勝したから、シードだった。
試合中のハル君はとてもかっこ良かった。
あっという間に1本を決めていく。
一護君が「空手は3本先取」というルールを教えてくれた。
ハル君は次々勝ち進んだ。
準決勝でハル君は負けて、結局三位になった。
みんなの話だとハル君らしい試合内容じゃなかったらしい。
それでも、全国大会には出られるみたいで、よかった。
ハル君の『3位おめでとう会』を土手でしようということになって、着替えたハル君を私が連れて来るようにとりっちゃんに頼まれた。
ハル君のことは諦めているつもりだったけど、ハル君を待つ間はうれしくてドキドキした。
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『打ち上げで…』その2
〈譲二〉
ハルは残念ながら3位に終わったとりっちゃんからメールがあった。
リュウからは「土手で『ハルの3位おめでとう会』をしたいから、料理を重箱に詰めてくれ」というメールが来た。
用意して待っていると、タケとりっちゃんが取りに来た。リュウと一護は一足先に土手に場所取りに行ったという。
俺は平静を装って尋ねた。
譲二「美緒ちゃんは?」
理人「着替えたハル君を待って、土手に連れてくる役を頼んだよ。今日はハル君のおめでとう会だから、美緒ちゃんをハル君に譲ってあげたんだ。」
剛史「佐々木も嬉しそうだったな。」
譲二「…」
俺は何とも言えない焦燥を感じた。
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『打ち上げで…』その3
〈美緒〉
着替えて出てきたハル君は待っている私を見て、喜んでくれた。
そして、一緒に行こうと手をつないで歩き出した。
戸惑っている私に、
春樹「ほら、佐々木、急いで」
と爽やかに言う。
土手につくと、手をつないで現れた私たちにみんな驚いている。
一護「なんで、手、繋いでんの?」
春樹「え、あっ、ホントだ」
ハル君は手をぱっと放した。
春樹「ごめん。佐々木。つい子供の時のノリで。」
美緒「ううん、いいよ。」
ハル君は少し赤くなっている。
譲二さんのお重を広げてみんなで頂く。
私はサンドイッチを一口食べた。クロフネに来てから譲二さんのサンドイッチを食べると、いつも懐かしい気がする。なんでだろう?
考え込んでいると
理人「美緒ちゃんどうしたの?」
美緒「マスターのサンドイッチを食べると、いつも懐かしい気がするんだよね。なんでかなぁと思って。」
理人「マスターのサンドイッチといっても、普通にハムとかポテトのサンドだよね。」
美緒「うん。そうなんだけど。」
その時、ハル君が「痛っ!」と言って口を押さえた。
剛史「どうした?」
春樹「今、食べ物沁みたぁ…」
剛史「あー…口元、切れてるな。何かで冷やした方がいいんじゃね?」
美緒「あ、私、何か冷たいもの買ってくるよ」
ハル君のために何かしたくて、私は言った。
春樹「え!じゃあ、俺も…」
一護「俺が一緒に行く。主賓が席を外すのはマズイだろ。それに…こんなんでも一応、女だし?」
美緒「何か、一言多いんだけど…」
一護「間違ったこと、いったつもりはねーけど」
美緒「う…」
一護「ほら、行くぞ」
自動販売機でスポーツドリンクを買った。私が缶を取ろうとすると、一護君が上から手を重ねて来た。
(ど、どうして?)
急いで手を振り払おうとすると、ぐっと捕まれた。
美緒「い、一護く…」
一護「お前さ…ハルとは手、つなげるんだろ?」
美緒「な、何?」
一護「試合終わるの待って、一緒に土手まで手つないで来て。口元冷やすスポーツドリンクまで買って…お前がそこまでするのって、相手がハルだから?」
美緒「だって、ハル君口元が痛そうだったし…」
一護くんは苛立ったようにいう。
一護「そうじゃなくて…こうやってジュース買ったり、アイツ迎えに行ったり…何かしてやりたいって思うのは、ハルだから?」
一護君に心の中を言い当てられて、ドキッとする。
美緒「そ、それは」
一護「…やっぱ何でもねー」
美緒「う、うん」
やっぱり一護君から見ても、私がハル君を好きなのはわかるのだろうか? ハル君のことはあきらめようと決心していたのに…。
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『打ち上げで…』その4
〈美緒〉
お開きになった。
春樹「佐々木、家まで送るよ」
そう言ってもらえるとやっぱりうれしい。
美緒「うん、じゃあ帰ろう?」
春樹「今日は、ホントありがと」
美緒「次は、全国だよね。また応援に行ってもいい?」
春樹「うん…今度は、もっとカッコいいとこ見せるから」
美緒「今日もカッコよかったよ?」
ハル君は少し赤くなっている。
春樹「…もっといいカッコしたいの」
美緒「そうなの?ハル君て、結構プライド高いよね」
春樹「佐々木、男心がわかってないね」
美緒「う…ご、ゴメン」
美緒「…あ、そうだ。コレ」
春樹「何?」
美緒「ハル君に、お疲れ様の意味も込めて、この前のフリマで余ったオブジェを使って作ったんだ」
譲二さんと体の関係になる前に、ハル君のために作ってあげたもの…。
美緒「ハル君、ちょっと匂いかいでみて」
春樹「うん…。あ、これ…ラベンダー?」
美緒「ラベンダーって、リラックス効果があるって、本に書いてあったから…ハル君が頑張りすぎないようにって思って」
ハル君は、私の手をオブジェごと包み込んだ。
春樹「ありがとう。大事にするから」
美緒「うん」
私がハル君に何かをあげるのは、きっとこれが最後になるから…。
春樹「…なあ、聞いてもいい?」
美緒「うん…なに?」
春樹「佐々木は、なんでそんなに俺のために頑張ってくれんの?」
一護君の問いかけと同じようなことを聞かれて少し動揺する。
美緒「え…」
春樹「幼なじみだから?」
ハル君の真剣な目。私もじっと見つめ返す。
春樹「…ごめん、何でもない。忘れて!」
私がハル君のために一生懸命なのは…。それは幼なじみだからじゃなくて…。
春樹「いこっか」
美緒「…うん」
でも、ハル君は歩こうとはしなかった。
春樹「…なんかよくわかんないけど、まだ帰りたくないような気がする…」
ハル君はため息をついた。
春樹「でも、遅いから帰らなくちゃいけないよな」
美緒「そ、…そうだね」
ハル君とこうしているのはとてもうれしい。でも、すごくドキドキする。
ハル君と並んで歩くと、時々コツンと手がぶつかった。
でも私たちはお互いが意識して距離をとっているみたいに、その手を繋ぐことはなかった。
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『打ち上げで…』その5
〈譲二〉
俺はひたすら待った。
夕方まではそれなりに入っていた客足も途絶え、することなく1人で待つのは辛かった。
辺りがすっかり夕闇に包まれた頃、やっと美緒は帰って来た。
少し上気した顔で、瞳が輝き、とても美しい。
譲二「おかえり…。ハルに送ってもらったの?」
美緒「うん…。」
譲二「そっか…。…ハル、3位で残念だったね。」
美緒「でも、全国大会には出れるそうだから、今度はもっと頑張るって。」
譲二「ハルらしいな。」
美緒はハルの試合のことやみんなの応援ぶりについて、面白おかしく話してくれた。
痛々しいほど明るくてはしゃぐ姿は、何かを隠しているかのようにみえた。
『打ち上げで…』おわり
次は『紗枝ちゃんの誕生日』です