吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二の妄想小説。譲二ルート続編のお話を彼氏目線で眺めてみました。
ネタバレありです。
☆☆☆☆☆
茶倉譲二 続編第三話~その7
〈譲二〉
その日は百花ちゃんも学校が休みだったので、一緒にクロフネの掃除をすることにした。
1階の掃除が終わり、俺は自分の部屋を片づけに2階に上がった。
引き出しの中を片付けていると、奥から子供の頃の写真が出て来た。
兄貴と2人で写っている写真だ。
2人とも鼻の頭に泥をつけて、顔いっぱいの笑顔で写っている。
(そうだな…。この頃は兄貴のことが大好きだったんだ。大きくて、頼りになって、何でもできる兄貴は俺のヒーローだったっけ)
あの頃の兄貴への思いを思い出して、ちょっと切なくなった。
ぼんやりしていて、ノックの音に気づかなかったようだ。
百花「譲二さん?」
百花ちゃんに突然呼びかけられて慌てた。
譲二「えっ? あっ」
とっさに写真を隠そうとしたけど…、手からひらりと落ちてしまった。
百花「あ、落ちましたけど…え?」
慌てる俺に百花ちゃんは不思議そうな顔をした。
譲二「ちょっと掃除してたら、奥から出て来たんだけど」
譲二「今さら子供の頃の写真を見て、懐かしく思っちゃって…」
ちょっと感傷的になっていたこともあって、照れくさくて必死で言い訳した。
百花「これ…紅一さんの家にも飾ってありました…って、譲二さんの実家ですけど…」
譲二「え? 茶倉の家に?」
百花「はい」
百花「紅一さんが、話してくれたんです。譲二さんといろんなことをして遊んだって」
譲二「兄貴が…」
譲二「そっか…兄貴もあの頃のこと覚えてたんだな」
しみじみつぶやくと、百花ちゃんが心配そうに聞く。
百花「…お兄さんと、ケンカしてるんですか?」
俺は百花ちゃんに兄貴とは小さい頃は仲が良かったこと、いつも、一緒に遊んでたことを話した。
譲二「ただ…大人になるといろいろ事情があってね」
また百花ちゃんを考えこませてしまった。
ダメだな~俺は…。
何か無いかな……何か彼女を元気づけるようなこと…。
譲二「あ、そうだ…明日、2人で出かけよっか」
百花「いいんですか?」
譲二「どこか行きたいところある?」
思い切ったように百花ちゃんが言う。
百花「井の頭公園がいいです」
譲二「え? そんな近場でいいの?」
百花「はい! 譲二さんと一緒にスワンボートに乗ってみたかったから」
キラキラした笑顔を見せる百花ちゃんがいじらしくて、頭を撫でる。
譲二「そんな可愛いこと言わないの。オジサン、困るでしょ」
譲二「じゃあ明日のデートのために、張り切って掃除しようか」
百花「はい!」
実家のこと、兄貴のこと。
何もかもが片付いた訳じゃないけど、ひとまず百花ちゃんと仲直り出来たのは嬉しい。
それに今まで言えなかった子供の頃の苦しかった話を、百花ちゃんに聞いてもらえたことは俺に安心感を与えた。
そうだな…。
明里が言ってたように、俺は思っていた以上に百花ちゃんに頼ってたんだ。
一生懸命に窓を拭いている百花ちゃんの横顔を見ながら、俺は幸せな気持ちに包まれていた。
茶倉譲二 続編第三話 おわり