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そっ..と、言葉を置いていきます。

海の子守唄

2020-10-09 11:36:21 | 日記
 
◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎

目をとじると・ ねえ 
目をとじてみて・
するともうひとつの・  
そこにひとつの景色がみえる

ビー玉のなか まるい期待を散らばせて 
そこにあるのは ただのコップ
ただのガラスのコップに 魔法を注ぐ・ すると 
ただのコップが 魔法のコップ・ そこに
ただの水を注いでみると 何が起きる・ 何かが起きる
期待が生まれ
ガラスはあの日の夢をおもいだす・ 
むかしむかしの子守唄
古ぼけたお話をしましょうか
 
シュワシュワのソーダ水だった海・ うそみたいなお話
パチパチ甘くて飛び跳ねて あまりの美味しさに魚もヒトデも踊りだす
海のいのちが奏でる音にならない音たちと 
絹の泡のなめらかさ・透き通る人魚の歌声に 
ひとたび身を浸せば とろけるほどのあまい世界・ いつまでも味わえるのよ
誰もがみんな ここへ帰って来る
すべてがとろけて ひとつのあまさ・ 誰でもない 君を抱きしめ踊り続けるのよ
ただただ・ うれしくて 笑顔がこぼれて
だからずっと 
このままでいたいとおもったんだ

でも・
どうしよう どうしよう
海があまかったら どうしよう

そしたら・ 
みんなみんなが おなかいっぱい飲んじゃって・ 海が 
池になって水たまりになって 
どんどん・どんどん・小さくなって  
そのうちぜんぶ無くなっちゃう

そしたら・
みんなみんなが 虫歯になって 
痛くて痛くて・大騒ぎ
ぼくも わたしも 動物たちも・ 
ここにいる みんなみんなが泣きだしちゃって
世界中が涙で溢れて
大洪水・
またそんなことになったら 
大騒動・  
だから海は考えた

だから  
しょっぱいのさ・
だれにも飲めないようにと・ ね

むかしむかしのお話
ほんとか うそか だれにもわからない・

海はおもった・
過ちは二度と繰り返さない
海がいつまでも枯れ果てないのは それはね・ 
涙の記憶が還る場所 だからだよ
ほんとか うそか・ 
海はおもった・

地上に溢れる悲しみの記憶 そのすべてを 受け入れよう・
この世界でいちばん大きな ひとつ なのだから 
どんなにたくさんでも 平気だよ・
深い深い腹の底・ 瞳の雫の大きなひとつ
いっぱい いっぱい・ 詰め込んで
うっかり外に飛び出してしまわないように 涙のベールで隠しておこう
だけど疼くの  それが波・
空の網目 透き通る風が 
慰めるように水面を撫でる
くすぐったくて うれしくって・ 
そのときだけは 
集まる痛手も 和らいだ
 
海は言った・ 
 ないしょだよ

ほんとうに怖いものは
ほんとうはみんな優しいんだ
優しいこころを隠しもっているから あえてみんなの嫌いなカタチを選んでる
守りたい人・ あなたが
触れたら 傷つけてしまいそうだから
近づいたら 悲しませてしまいそうだから
嫌われたって いい
あなたが笑顔でいてくれるなら 
わたしはひとり見守るだけで いい
痛みも悲しみの記憶も ぜんぶ
ここへ還っておいで・ みんな・
みんな・

海の色は 鏡に映した空の色・ だれの姿
空の色は 鏡に映した海の色・ だれの心
ふたつでひとつ 
ひとつづつでは存在しえないひとつ
ぼくにはこう見える わたしにはこう見える 
君にはどうみえる

わからないでしょ わからない  
わたしのすべてを 説明しよう・ それは到底不可能なこと・
あなたのすべてを 理解しよう・ それも到底不可能なこと・
涙の理由は そこからではわからないでしょ
雨がそれを隠すから
頬を伝う涙の記憶 そこからではわからないでしょ
雨がそれを流すから

ここへおいでよ 来てごらん・
音にならない音たちが 聴こえない音色・  子守唄をうたってる
深い深い ここより深いそのまた奥底で 大きな愛が疼いてる
自らを慰める子守唄・ 
生まれた期待は 幾千も
まるい・まるい・きたいを背負い 
夢見心地にふわり・ふわりと  あるべき場所へかえってゆく
過去の幻想・ あまいあまい海の時代・ 
かつてこの星には 悲しみの涙は存在しなかったんだ

それが 海の記憶
古ぼけたむかしむかしのお話

ほんとか うそか・ 
いまとなっては だれにもわからない
 
パチ・パチ・ シュワシュワ・

いまでもこんな音が聴こえてくるよ・  それはあの頃の名残り
夢みる海の子守唄

ほんとか うそか・ 
それが無口な海の記憶 
 
慰めの子守唄

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