いっくんは7時少し前に目を覚ました。
ムクリと起きあがり、伴侶の寝ているはずであろうベッドを寝ぼけ眼でしばらく見つめていたのだが、そのベッドにはだれも寝ておらず、すでに伴侶は7時前の電車に乗るために家を出ていたのだ。
しばらくぼんやりしていたいっくんだったが、それが判った途端、急に泣き始めた。
今日は火曜日で、伴侶は昨日も同じように仕事に行っているし、そんなに普段からそばにつきまとっていたわけでもないのに、何か夢でも見たのか泣きじゃくり、大声で名前を呼びながらベッドを出ていってしまった。
大泣きしながら名前を呼ぶ声と、小さな足でゆっくりと階段を下りる音がトン、トンと聞こえる。
目を覚ました私は、鳴り始めた携帯のアラームを止めて、まだまぶしそうに目を細めてむにゃむにゃ言っているこいちゃんの頭を少しなでた。
こいちゃんも寝起きの機嫌は悪いのでゆっくり明るさにならしながらそろそろ降りるようにこいちゃんに声をかけていたのだが、いっくんの声がどんどん遠くなっていくのを聞いて飛び起きた。
階段を下りて1階にいるはずのいっくんの声が窓の外から聞こえるのだ。
慌てて窓を開けると門のあたりに水色の寝間着を着たいっくんが立っていて、泣きながら伴侶を呼び続けている。
その脇には犬の散歩で出ていたと思われる、ご近所のFUさんがいっくんを慰めているではないか。
いつも伴侶は鍵をかけて出ていくはずなので、おそらく自力で開けてしまったのだろう。
我が家の通りは決して大通りではないものの、大通りから少し入ったところの路地のため、よく抜け道として猛スピードで通り過ぎる車がいるのだが、こんな早朝に、小さないっくんが急に出てきたらよけろと言う方が難しい。
大慌てで、血相を変えていっくんの所に行くと、ご丁寧に靴を履き、車の横で帰らぬ伴侶の名を呼びながら、ただただ泣き濡れていたのが、可哀想であった。
「いないの~、いないの~」と涙でてかてか光る顔を私に向けながら、手を引かれて居間に戻ると今度は二階でこいちゃんが「さみしい」と泣いていた。
大急ぎで二階に上がり、こいちゃんをおんぶして1階に下りてから傷心のいっくんのために伴侶に電話をした。
伴侶はどうやら電車の中だったらしく声を潜めながら何とかいっくんと話をつけ、いっくんも納得して機嫌が直った。
一体どんな夢を見たのやら、急に恋しくなってしまうものらしい。
慌てたのは伴侶も同じである。
「泣いて探されるのは嬉しいけど、このままではいっくんに(事故などしたら)会えなくなってしまう。明日からは一緒におきよう」と言うことになった。
その方が絶対安全だ。
子供は今まで出来なかったことが急に出来るようになるから、嬉しいが恐ろしい。
特にいっくんのように、親の言うことには殆ど従わず、一見何も出来ないような顔をしてお世話をされながら、自分の興味のある事柄に関しては着々と技術を身につけるような性格の子は思わぬ事をしでかすから侮れない。
朝も早くから肝が冷える出来事であった。
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