誰だろう~、と出てみると近所の小学1年生、YUちゃんとTAくんがアミとバケツを持って立っている。
こいちゃんといっくんを呼ぶと、驚くべきことを話し始めた。
その計画は「鳩を捕まえにいく」事であった。
バケツには何故か沢山の葉っぱと、その上にちぎったパンがいくつも入っている。
彼らの考えでは、「鳩がパンを食べに入ったところをアミで捕まえる」と言うことらしい。
何とも子供らしく、素晴らしくわくわくする計画ではないか。
もちろん、そんな簡単に捕まえられるとは思っていない。
が、その無謀な挑戦を「そんなの無理だよ」とはなから諦めず、とりあえず「やってみる」精神が素敵である。
私は早速本棚から「生き物の飼い方」なる本で鳩のページを検索し、4人に見せてやる。
4人とも鳩や鳩の卵、ケージの写真などを見て大興奮。
これが私達の物になるのか…と、まだ捕まえてもいない鳩をめぐって喧嘩まで勃発する始末である。
「ついてきて!」と先頭をたって歩き出したYUちゃんに、皆はやる心を抑えながらぞろぞろとついていく。
いっくんは幼稚園児のため、やはりついていかないわけには行かないだろう、とカギをしめ、子供達と間隔を開けて歩き始めた。
子供達だけでどうやって切り抜けるだろうかと見ていると、さすがに不安だったらしく私をちらちら見て助け舟を求めている。
工事をしているおじさんに声をかけながら脇を通り過ぎ、4人はまた気を取り直して歩き始めた。
すでに風は冷たく、夕方の空気である。
おそらく鳩はどこかのねぐらに帰って、丸くなっている頃であろう。
私は震えながら彼らの後を遅れて歩くが、子供達に寒そうなそぶりは全く無い。
こいちゃんといっくんはかつてない大計画に興奮気味で、勇み足である。
YUちゃんの言っていた場所に鳩はいなかった。
が、手すりを抜け、階段を下り、溝を飛び越えているうちにそんなことはどうでも良くなったようである。
鳩を捕まえる為の網やバケツは邪魔になり、コンクリートの上に放り出されたまま。
子供達はアスレチックさながらにはしゃぎながら、小さな冒険を目いっぱい楽しんだ。
私はそんな子供達の声だけを聞きながら、だいぶ離れたところで子供達の冒険が無事に終わるのを待っていた。
大騒ぎの声とともに階段を上ってきたYUちゃんは裸足であった。
こいちゃんも、自分のソックスを網に入れ、へらへらと笑っている。
大笑いしている4人の話を統合すると、どうやら水溜りにハマってしまい、泥だらけになってしまったようなのだ。
ズボンもどろどろで風邪もひきかねないYUちゃんを自宅に送ってから私達3人も帰宅した。
今日の冒険を絵日記にしようか、と提案したところ大喜びして色々書き始めた。
この日の冒険は、子供達の冒険だけでなく、私の冒険でもあった。
子供達の姿が見えない場所で、子供達の帰りを待つのは少々心配であったし、声だけをたよりに無事を祈ると言うのは勇気がいることであった。
こうやって少しづつ離れたところで遊んだりしながら、親から離れていくことも必要だと思うし、親がうっとおしくなる時期が来るのはそんなに遠い未来の話でもないだろう。
こいちゃんが小学生になれば、こんなこともどんどん増えてくる。
私も度胸を持って二人を眺めていられるように、覚悟をしておかねば…。