雨が上がったのは昼過ぎのことだった。窓際に置かれた観葉植物が、濡れた葉を光らせながら太陽に向かって背伸びをしているように見える。美咲は窓を開け放ち、吸い込むように外の空気を胸いっぱいに取り込んだ。湿り気を帯びた風には土の匂いが混ざり、どこか懐かしさを感じさせる。
スマートフォンが震え、画面には「翔太」からのメッセージが表示された。
「雨、やんだね!これから散歩しない?」
美咲は微笑みながら返信を打つ。
「うん!ちょうど外に出たい気分だった。」
翔太とは大学時代の友人で、気づけばいつもそばにいる存在だ。特別な感情を抱いているわけではないと自分に言い聞かせてきたけれど、最近、彼の一言一言が心に残るようになっていることに気づいていた。
待ち合わせは近所の公園だった。家を出ると、雨で洗われたアスファルトが光を反射して美しく輝いている。歩きながら、道端の花が鮮やかな色を取り戻しているのに目を奪われた。
公園に着くと、翔太がベンチに腰かけて待っていた。彼の手元には缶コーヒーが二本。美咲を見つけると、翔太はにこりと笑い、一本を差し出した。
「来たね。これ、飲む?」
「ありがとう!」
受け取った缶コーヒーの温かさが、雨上がりの少し冷えた空気に心地よかった。二人は並んで歩き始める。晴れ間から差し込む光が、葉の間からこぼれ落ちるように地面を照らしている。
「雨上がりの空って、なんか特別な感じがするよね」と翔太が呟く。
「うん、全部が新しく見えるよね。空気も綺麗だし。」
翔太は少し黙った後、美咲の方を向いて言った。
「実はさ、今日どうしても美咲と会いたかったんだ。」
「え?」美咲の胸が高鳴る。
「最近、美咲と過ごす時間がすごく大事だって気づいてさ。前はただの友達だと思ってたけど、もっと近くにいたいって思うようになったんだ。」
その言葉に、美咲は驚きと戸惑い、そして嬉しさが入り混じった感情を抱いた。ずっと自分の中で隠してきた気持ちを彼が代弁してくれたように感じた。
「私も……最近、翔太のことを考えることが多くて。なんでだろうって自分に問いかけてたんだ。」
「じゃあ、俺たち……これからもっと一緒にいられるかな?」
美咲は頷き、空を見上げた。澄み渡る青空が広がり、どこまでも続いているように見える。翔太と手を繋ぎながら歩き出すと、足元には雨の残した小さな水たまりが光を映して揺れていた。
雨上がりの空の下、新しい二人の関係が静かに動き始めたのだ。