京都園芸倶楽部の元ブログ管理人の書笈

京都園芸倶楽部のブログとして2022年11月までの8年間、植物にまつわることを綴った記事を納めた書笈。

こちらも返り咲きしていました

2021-11-05 17:54:36 | 歳時記・文化・芸術
上高野や修学院を源流とする太田川の支流にあたるそうですが、かつては砂川という小さな川が流れ、鴨川に合流していました。太田川とともに砂川も下流は暗渠になり、その跡地は細道となっていますが、その砂川に面した寺院が三軒あったことから「砂川の三軒寺」と呼ばれているのが、京阪電車や叡山電車の出町柳駅前近くにある「正定院」「常林寺」「長徳寺」です。

常林寺は「萩の寺」として有名ですが、その北隣の長徳寺は門前の「おかめ桜」で知られています。そのおかめ桜が数輪だけ返り咲きしていました。



本来の時期ではないので、なんとなく寒々しい咲き方に見えますが、花序柄は見えないものの花柄はしっかりあります。先日、京都御苑で見つけたソメイヨシノ(染井吉野)の返り咲きの花のほうがより寒々しい咲き姿でしょうか。

京都御苑で返り咲きしていたソメイヨシノの花(過去記事より再掲。2021年10月撮影)


この時期に咲くと「返り咲き」としてニュースや新聞でも報道されるくらいですが、じつは日本の桜の原種はインド北部やネパール等を原産地とするヒマラヤザクラ(ヒマラヤ桜)であると言われています。このヒマラヤザクラは海抜千メートルから二千メートルあたりの高山帯の森林に自生していますが、日本より年間を通して温度変化の少ない場所であることから、晩秋から初冬に咲き始め、早春まで咲き続ける花期の長い桜で、冬も青々とした葉を茂らす常緑の樹木です。

おそらくヒマラヤザクラがその分布を広げ、日本にやってきたときに一番ネックになったのが冬の寒さだったのだと思います。そして、日本で生息するために選んだ手段が「冬眠」だったのではないでしょうか。日本でも本来なら咲き始める時期である秋の気温は問題ないのでしょうが、冬季の気温が寒すぎるため、秋に花を咲かせることを諦め、落葉して花芽を休眠させていると考えられています。

そして、その後、日本の桜は住み着いた場所でさらに進化したようで、日本の桜の原種は沖縄の標準桜であるカンヒザクラと3年前に発見された新種のクマノザクラを含めると11種類になりますが、咲き始める時期は1月から6月とかなり幅があります。

カンヒザクラも含めた11種類を咲き始めの早い順におおざっぱに並べると、以下のようになるでしょうか。ただし開花期(咲き始め)は地方によって違いますので、自生地でのおおまかな目安としてください。

・カンヒザクラ(寒緋桜)  1月〜2月上旬
・マメザクラ(豆桜)    3月中旬
・エドヒガン(江戸彼岸)  3月中旬
・クマノザクラ(熊野桜)  3月中旬〜4月上旬
・チョウジザクラ(丁字桜) 3月下旬〜4月
・オオシマザクラ(大島桜) 4月上旬
・ヤマザクラ(山桜)    4月中旬
・カスミザクラ(霞桜)   4月下旬
・オオヤマザクラ(大山桜) 4月下旬〜5月
・ミヤマザクラ(深山桜)  5月上旬〜6月上旬
・タカネザクラ(高嶺桜)  5月上旬〜6月

ちなみに、ソメイヨシノはエドヒガンを種子親、オオシマザクラを花粉親に持つ交雑種です。おかめ桜はマメザクラを種子親、カンヒザクラを花粉親に持つ交雑種でイギリスの鳥類学者で植物収集家、庭師のコリングウッド・イングラム(別名、チェリー・イングラム)が作出した品種です。おかめ桜のほうが元々早咲きの性質を持った原種から作出されていますので、返り咲きしやすいということもあるのでしょうか?

ソメイヨシノの種子親のエドヒガンは京都御苑にも、前出の返り咲きのソメイヨシノの隣に1本植えられていて、ソメイヨシノより少し早めに咲き出します。

石薬師御門近くのエドヒガン(過去記事より再掲。2019年3月撮影)


名前のとおり春のお彼岸が近づくと咲き始め、ソメイヨシノより少し小振りの花で、花筒の基部がぷっくり膨らんでいるのが特徴です。

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返り咲きの花を見たことで、桜の原種のことなどが頭に思い浮かんだので、筆の進む(キーボードの進む?)まま書き進めてみましたが、なんだか、どんどん取り止めのない話になってしまいそうなので、ここらで筆を置きます。

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と言いながら、もうひとつ。本来は陰暦十一月のことなので1か月ほど先ですが、小春日に返り咲きした花を季語では「帰り花」と言い、初冬の句に詠まれるようですね。

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