今日は例年だと祇園祭の前祭(さきまつり)で、四条通や御池通などでは、長刀鉾を先頭とする壮大な山鉾巡行や辻回しを一目見ようと集まった人たちで賑わいを見せるのですが、皮肉にも今年は新型コロナウイルスの影響で疫病退散の祭が中止となる事態に……
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長刀鉾の曳き初め・前から(2015年7月12日撮影)
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長刀鉾の曳き初め・後ろから(2015年7月12日撮影)
もちろん八坂神社で重要な神事は今年も行われています。この山鉾巡行が行われる前祭と後祭は本来、同日の夕方から夜にかけて行われる神幸祭(還幸祭)の神輿渡御の『露払い』となる役目の伝統行事なのです。ただ、まさかの疫病(感染症)で中止となったことで、1か月にもわたる長丁場の祭事を一千年以上も支えてきた京の町衆の『底力』をあらためて認識するきっかけになりました。
さて、その『底力』といえば、一見すると大した存在に見えない、あるいは人間やその生活においては厄介者にしか見えないのに、自然や植生にとって重要な役割を担う、つまり大事な場面で『底力』を発揮する植物たちがいます。
河原町今出川交差点近くの今出川通の歩道で、舗装の隙間に根を下ろして花を咲かせていたアカメガシワ(赤芽柏/赤芽槲)もそのひとつでしょうか。
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アカメガシワの雄花
アカメガシワは本州から四国、九州、沖縄にかけての河原や海岸、山地、伐採跡地などのあらゆる場所の日当たりのよいところで見られる雌雄異株の落葉高木です。
カシワ(柏)と同様に炊事や食物の盛り皿等に使う「炊し葉」のひとつで、ゴサイバ(五菜葉)やサイモリバ(菜盛葉)という別名があり、新芽の赤いことが和名の由来です。また、古くはヒサギ(久木)とも呼ばれていましたが語源は詳らかでなく、先端の芽(新芽)が赤いことから「緋先」と呼んだのが由来だと考えられています。
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日本では古くから民間療法としてアカメガシワの樹皮を胃腸疾患に、葉を腫物の外用薬に使用してきました。中国でも本種を「野梧桐」と称して、樹皮や根、葉が胃腸病薬に利用されています。
アカメガシワには、浅いところで根を横に伸ばし、そこから発芽する根萌芽で繁殖する性質があります。根萌芽で繁殖した個体は種子発芽した個体のように直根が伸びないため寿命は長くないとされていますが、刈り取れば刈り取るほど新しい萌芽が形成されて増殖するといった『底力』があるため、まちなかでは無駄に生えてはびこる『厄介者』扱いをされているのではないでしょうか。
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しかし、森林の暗いところでは何十年も休眠するアカメガシワの種子には伐採等で日当たりが良くなり地温が上昇すると一斉に発芽する性質があり、発芽して成長すると根萌芽でも繁殖することから、植生の遷移では山火事や伐採等で開けた場所にいち早く進出する先駆植物(パイオニア植物)として重要な役割を担う貴重な『開拓者』なのです。
そういった役割を担っている樹木では、クサギ(臭木)もそのひとつでしょうか。
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クサギの花(2017年8月撮影)
枝葉に独特の匂いがあるためかわいそうな和名がつけられていますが、若葉は食用になり、かつては茹でて乾燥させた葉を野菜の少ない冬の保存食としても利用されてきましたし、秋にできる実は草木染めの線量に利用されますが、造林地では先駆植物の性質が仇となって『厄介者』扱いされている樹種のひとつです。
また、草本類ではヤブガラシ(藪枯らし)も含まれるかと思います。
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ヤブガラシの花(2018年8月撮影)
このヤブガラシもあちこちに巻きつき、はびこることから『厄介者』とされ、みすぼらしい姿からビンボウヅル(貧乏蔓)といった別名でも呼ばれますが、じつは役目を終えるとひとりでに枯れ、その方法を応用すると自然に姿を消すそうです。その方法は、こちらの過去記事で取り上げています。
これら植物を日々の暮らしや生活環境の視点から捉えると、自分たちの生活空間に異質なものを持ち込む、あるいはこれら植物そのものが異質なものとして厄介な存在に見えるかもしれませんが、自然界の視点から見ると必要不可欠な重要な存在なのです。ひょっとしたら、自然界から見ると人間のほうが『厄介者』かもしれませんよ。