ものの見事に・・・北野晶夫に成り損なった私は・・・
周囲の失笑とやんやの喝采を浴びながら・・・マーチの待つ、リヤカーの所まで戻っていった。
「やっちまったぁ・・・一瞬だったんだよ」
「ああ・・・分かってる、セッティングのミスだ、ガスが薄すぎる」
「でもなぁ、楽しかったよ。ライディング・ハ~イって聞こえたもん」
「はははは・・・・・」マーチは御苦労なしの私を力なく笑うしかなかった・・・
「飯でも食って帰ろうぜ、俺は河口湖をまわっていつものコーヒー屋に寄ってくけど、マーチはどうする」って聞くと・・・
「俺は、もうまっすぐ帰るよ。疲れちまった」
「そうかぁ・・・精進湖から帰るのか?」
「ああ、そうするよ、明日、単車バラしに行くから」
「了解・・・じゃ~明日」・・・「ああ、気を付けてな」
私はまたまた、単車二台をリヤカーに積み込み、トットトロロロロってエンジンを掛けて河口湖を目指して走り出した。大分、リヤカーにも慣れてきて来る時ほどの苦労はなく、ってか道が平坦だったので順調に河口湖畔の、なじみの喫茶店に着いた。
この店にどうしても寄りたかったのは・・・実際のところ金がなく、ただ飯を食わせて貰えるって事と・・・バイトしている子に私の勇姿を見せたかったって~のが本当の所だったのだろう。なんてったって17歳お多感な時期であるのだから・・・
「こんちわぁ~飯食わせてよ」
「何やってんだよ、おめぇはぁ~クズ屋かと思っちまったじゃね~か」・・・とマスター。
それにもましてショックだったのは、バイトの子にまで・・・
「なんかぁ、汚らしい・・・」だって・・・
またまた北野晶夫にはなれず、意気消沈してしまう私。
「でもさぁ、レーサーだぜ、汚れた英雄とか見た事ないの?」と食い下がってみたのだけれど、
「ぜ~んぜん興味ないもん。早く顔洗ってきなさいよ」・・・なんて言われてすごすごと便所で顔と手を洗ってきた。
300gはあるだろうかと言うスパゲッティーを腹に入れ、人心地着いた私はえんえんと今日の経緯をマスターとバイトの子に話して聞かせるのだけれど、反応はいま一つ、そんな事をしているまに雲行きが怪しくなり、雨が降り出してきた。
「おい、単車は置いてけ、ど~せ俺も街に出るから乗っけていってやるよ」
そう言われてちょっと気持ちがグラついた・・・なんと言っても、ここからは御坂越えだ・・・しかし・・・
「いーよ、大丈夫。明日にはバラさんならんし」本当の所はお願いそうしてって思っているのだが、そこはその、少年の強がり・・・もう一言、もう一回言って、そしたら「はい」って言うから・・・なんて思っていると・・・
「あ~そうかぁ、じゃ~面白ぇ~から後ろからついってってやるよ」なんてあっさり言われてしまった。こうなりゃ~もう後には引けない・・・
「じゃ~見ててよ」なんて言って帰り支度を始める。マスターのお友達もやって来て、
「がはははは、ま~たおめぇはこんな事やってるのかよ」「峠で落ちるなよ」なんて格好のネタにされてしまった。
意地と・・・ちょっとだけ注目されている事に軽い眩暈を感じながら、またGNのエンジンを掛ける。同じだ・・・トットットロロロロって雨にかき消されそうなほど、か弱い、もうやめてって音でエンジンが掛かり、私は雨の河口湖畔を疾走・・・いやいやとんでもない、ノロノロと走り出す。
「ちゃんと走れよぉ」「邪魔になんなよぉ」なんて声を背中に聞きながら・・・野猿公園のところまでやって来た。
「もう、先にいくぞぉ~気を付けてなぁ」そんな言葉を残してマスター達の車は私を追い越していった。そこで初めて気付いたのだけれども、私の後ろは大渋滞・・・観光客の帰りの渋滞に嵌ってしまっていたのだ。いや、正確に言うと私が渋滞の先頭に、ってか作り出しているのだ。
でもね、どうにもならない・・・喘ぎ続けるGNのエンジンはどんなに頑張っても10キロほどしか出ずにとろとろ、トコトコと坂を上って行く。なんとか、場所を見つけては何台かの車を先に行かせるのだけれども、そんなのは焼け石に水・・・どうにもなるもんじゃ~ない・・・
ようやく、坂を上りきり、雨と汗とでグシャグシャになっているであろう顔を拭って、一息ついた・・・
「なんで・・・乗せてもらわなかったんだ・・・」ちらと頭を掠めたそんな言葉を、大きく首を振って振り払い、ダラダダラダダッダッダダ、アイキャンシーユーバーニングウイズディザイアーって大声で唄ってみた・・・しかし何も解決はしなかった。
トンネルを抜けて下りに入った時に・・・地獄のような恐怖が突然襲ってきたのだ。
「と・と・止まらな~い・・・」後ろのリヤカーに押されてドラムの陳腐なブレーキなんかじゃ~何の役にも立たない。エンジンブレーキを駆使して、もの凄い嫌な音と、妙な軋みをいろんなとこに感じながら・・・ジェットコースターよろしく坂を、もうほとんど転がり落ちてゆく・・・
「下りのが・・・やばいじゃ~ん。こ・この先には・・・し・し・信号があんじゃ~ん」
上ってくるライダー達のピースサインに答える暇もなく前方にだけ、集中する。信号機はそんなの無視してドンドン迫ってくる。
「頼むぅ・・・あお~」大声で叫んでみるのだが・・・無情にも信号機は黄色に変わり、赤になってゆく・・・
「来ないぃぃぃぃいいい~」心に決めて加速してしまう。
ギュウイ~ン・・・・・って心臓が口から出そうである・・・一瞬すべての景色が停止して・・・何事もなく通過する。しかし、間違えなく2歳は歳を取ってしまったんだろう。
道は平坦になり、心臓も元の位置に戻った。自販機を見つけて、飲みたくもないのに、ここはコーヒーだろうって、甘く苦い液体を胃に流し込んでゆく・・・すると、どうだろう、はるか彼方からおばちゃんが手を振っているじゃないか。
「居たんだぁ・・・分かってくれる奴が・・・」満面の笑みを称え、照れながらも、手を振り返す。
「おにいちゃん~ん、これ持ってってぇ」おばちゃんは14インチくらいの壊れたテレビの上にこれまたぶっ壊れたトースターかなんかを載せている・・・
「クズ屋かぁ~」・・・マスターが言っていた言葉が蘇る・・・
これは私が20数年前に実際に経験した実話である。往復200キロ弱くらいの、壮大なる冒険旅行の顛末を書いてみたかった。単車は楽しい、素晴らしい乗り物だ。若気の至りで・・・かなり危ない目にもあった。でもね、ぶっ壊れたテレビを抱えながら走ってきたおばちゃんも、バイク屋のおっさんも、みんないい人だった。リヤカー引っ張ってかなきゃ~こんなにえらい目にも遭わなかっただろうし、危なくもなかった。でも引っ張ってったからこその出逢いだったんだろうと思う。
いまから、単車には最高の季節・・・また、何かを求めて、あの頃のように旅立ちたい・・・みなさんも事故にだけは気を付けて・・・疾走りだそうゼイ・・・
周囲の失笑とやんやの喝采を浴びながら・・・マーチの待つ、リヤカーの所まで戻っていった。
「やっちまったぁ・・・一瞬だったんだよ」
「ああ・・・分かってる、セッティングのミスだ、ガスが薄すぎる」
「でもなぁ、楽しかったよ。ライディング・ハ~イって聞こえたもん」
「はははは・・・・・」マーチは御苦労なしの私を力なく笑うしかなかった・・・
「飯でも食って帰ろうぜ、俺は河口湖をまわっていつものコーヒー屋に寄ってくけど、マーチはどうする」って聞くと・・・
「俺は、もうまっすぐ帰るよ。疲れちまった」
「そうかぁ・・・精進湖から帰るのか?」
「ああ、そうするよ、明日、単車バラしに行くから」
「了解・・・じゃ~明日」・・・「ああ、気を付けてな」
私はまたまた、単車二台をリヤカーに積み込み、トットトロロロロってエンジンを掛けて河口湖を目指して走り出した。大分、リヤカーにも慣れてきて来る時ほどの苦労はなく、ってか道が平坦だったので順調に河口湖畔の、なじみの喫茶店に着いた。
この店にどうしても寄りたかったのは・・・実際のところ金がなく、ただ飯を食わせて貰えるって事と・・・バイトしている子に私の勇姿を見せたかったって~のが本当の所だったのだろう。なんてったって17歳お多感な時期であるのだから・・・
「こんちわぁ~飯食わせてよ」
「何やってんだよ、おめぇはぁ~クズ屋かと思っちまったじゃね~か」・・・とマスター。
それにもましてショックだったのは、バイトの子にまで・・・
「なんかぁ、汚らしい・・・」だって・・・
またまた北野晶夫にはなれず、意気消沈してしまう私。
「でもさぁ、レーサーだぜ、汚れた英雄とか見た事ないの?」と食い下がってみたのだけれど、
「ぜ~んぜん興味ないもん。早く顔洗ってきなさいよ」・・・なんて言われてすごすごと便所で顔と手を洗ってきた。
300gはあるだろうかと言うスパゲッティーを腹に入れ、人心地着いた私はえんえんと今日の経緯をマスターとバイトの子に話して聞かせるのだけれど、反応はいま一つ、そんな事をしているまに雲行きが怪しくなり、雨が降り出してきた。
「おい、単車は置いてけ、ど~せ俺も街に出るから乗っけていってやるよ」
そう言われてちょっと気持ちがグラついた・・・なんと言っても、ここからは御坂越えだ・・・しかし・・・
「いーよ、大丈夫。明日にはバラさんならんし」本当の所はお願いそうしてって思っているのだが、そこはその、少年の強がり・・・もう一言、もう一回言って、そしたら「はい」って言うから・・・なんて思っていると・・・
「あ~そうかぁ、じゃ~面白ぇ~から後ろからついってってやるよ」なんてあっさり言われてしまった。こうなりゃ~もう後には引けない・・・
「じゃ~見ててよ」なんて言って帰り支度を始める。マスターのお友達もやって来て、
「がはははは、ま~たおめぇはこんな事やってるのかよ」「峠で落ちるなよ」なんて格好のネタにされてしまった。
意地と・・・ちょっとだけ注目されている事に軽い眩暈を感じながら、またGNのエンジンを掛ける。同じだ・・・トットットロロロロって雨にかき消されそうなほど、か弱い、もうやめてって音でエンジンが掛かり、私は雨の河口湖畔を疾走・・・いやいやとんでもない、ノロノロと走り出す。
「ちゃんと走れよぉ」「邪魔になんなよぉ」なんて声を背中に聞きながら・・・野猿公園のところまでやって来た。
「もう、先にいくぞぉ~気を付けてなぁ」そんな言葉を残してマスター達の車は私を追い越していった。そこで初めて気付いたのだけれども、私の後ろは大渋滞・・・観光客の帰りの渋滞に嵌ってしまっていたのだ。いや、正確に言うと私が渋滞の先頭に、ってか作り出しているのだ。
でもね、どうにもならない・・・喘ぎ続けるGNのエンジンはどんなに頑張っても10キロほどしか出ずにとろとろ、トコトコと坂を上って行く。なんとか、場所を見つけては何台かの車を先に行かせるのだけれども、そんなのは焼け石に水・・・どうにもなるもんじゃ~ない・・・
ようやく、坂を上りきり、雨と汗とでグシャグシャになっているであろう顔を拭って、一息ついた・・・
「なんで・・・乗せてもらわなかったんだ・・・」ちらと頭を掠めたそんな言葉を、大きく首を振って振り払い、ダラダダラダダッダッダダ、アイキャンシーユーバーニングウイズディザイアーって大声で唄ってみた・・・しかし何も解決はしなかった。
トンネルを抜けて下りに入った時に・・・地獄のような恐怖が突然襲ってきたのだ。
「と・と・止まらな~い・・・」後ろのリヤカーに押されてドラムの陳腐なブレーキなんかじゃ~何の役にも立たない。エンジンブレーキを駆使して、もの凄い嫌な音と、妙な軋みをいろんなとこに感じながら・・・ジェットコースターよろしく坂を、もうほとんど転がり落ちてゆく・・・
「下りのが・・・やばいじゃ~ん。こ・この先には・・・し・し・信号があんじゃ~ん」
上ってくるライダー達のピースサインに答える暇もなく前方にだけ、集中する。信号機はそんなの無視してドンドン迫ってくる。
「頼むぅ・・・あお~」大声で叫んでみるのだが・・・無情にも信号機は黄色に変わり、赤になってゆく・・・
「来ないぃぃぃぃいいい~」心に決めて加速してしまう。
ギュウイ~ン・・・・・って心臓が口から出そうである・・・一瞬すべての景色が停止して・・・何事もなく通過する。しかし、間違えなく2歳は歳を取ってしまったんだろう。
道は平坦になり、心臓も元の位置に戻った。自販機を見つけて、飲みたくもないのに、ここはコーヒーだろうって、甘く苦い液体を胃に流し込んでゆく・・・すると、どうだろう、はるか彼方からおばちゃんが手を振っているじゃないか。
「居たんだぁ・・・分かってくれる奴が・・・」満面の笑みを称え、照れながらも、手を振り返す。
「おにいちゃん~ん、これ持ってってぇ」おばちゃんは14インチくらいの壊れたテレビの上にこれまたぶっ壊れたトースターかなんかを載せている・・・
「クズ屋かぁ~」・・・マスターが言っていた言葉が蘇る・・・
これは私が20数年前に実際に経験した実話である。往復200キロ弱くらいの、壮大なる冒険旅行の顛末を書いてみたかった。単車は楽しい、素晴らしい乗り物だ。若気の至りで・・・かなり危ない目にもあった。でもね、ぶっ壊れたテレビを抱えながら走ってきたおばちゃんも、バイク屋のおっさんも、みんないい人だった。リヤカー引っ張ってかなきゃ~こんなにえらい目にも遭わなかっただろうし、危なくもなかった。でも引っ張ってったからこその出逢いだったんだろうと思う。
いまから、単車には最高の季節・・・また、何かを求めて、あの頃のように旅立ちたい・・・みなさんも事故にだけは気を付けて・・・疾走りだそうゼイ・・・
…若くなきゃ無理ですね(笑)でも単車の楽しさはよ~く分かりました!