迷子・・・

　何十年ぶりであろうか・・・迷子になってみた。

　昨日はくにちゃんの大型自動二輪免許取得祝いにかこつけてまたまたよく飲んだ。蕎麦屋から始まり時間調整とストレス解消を兼ねたカラオケボックス。そこからちょいと気の利いた・・・焼き鳥屋。そして店に帰り・・・よせばいいのに近所のお店にご挨拶ってな事を言いながらみやちゃんをつき合わせてみる。
　時間は１時っくらいになってたのかなぁ・・・店から単車が置いてある教習所まで歩いてみる事を決意する。この辺がもうかなりの酔っ払い、しなくてもいい事をしてみたくなる。まぁでも距離的には５～６キロゆっくり歩いて１時間くらいのもんだ。ってか、で、あるはずだった。ズンズン、ズンズンと歩き続ける事３０分位、結構に疲れて咽喉が渇いてきた。「お～そう言えば、そこの角をちょいと曲がれば知り合いのビアーバーがあるじゃ～ないか」と言うろくでもない思いがふつふつと湧きあがる。するともうそれを止めるだけの理性なんかは消し飛んでいる訳だから１０分後くらいにはその店のカウンターに座りバスエールかなんかを呷っている。おまけにクアーズも一瓶頂き勘定をする。釣りがあるってんで、じゃ～それで飲めるウイスキーをってのがトドメの一撃になった。

　フラフラしながらもそのお店を出て歩き始める。ここから教習所まではそう、１０分そこらだ。そして事件が起きた。立小便をしようと思い都合がいい場所を探しているとアパートなのか何なのか、官舎みたいなのがあった・・・ように思う。先ほどのスコッチが脳幹を蝕みはじめてよく憶えていない。ただ方角としては間違えなくショートカットになる。そう確信した私は、よくあるブルーの網のフェンスを乗り越えた。そしてその向こう側に見えていた道に出ると「うふふ・・・発見したなぁ、近道」なんぞと一人悦に入っていた。
　しかしね、さすがに本物の酔っ払い。着地した時に自分が向かうべき方向とは逆を向いていた事に気付かない。そのままに、ただひたすらに歩き始める。１０分経ち２０分経ち酔いは絶好調に回ってくる。脚が痛くなり、しゃがみ込む。店をでてから、いくら一軒寄ったとはいえゆうに２時間以上経っている。「どこなんだ、ここは・・・」「おかしい・・・七瀬ふたたびの世界じゃないか・・・ここはほんとに俺の住む街なのか」電柱に貼ってある住所を見る。知ってるところなのだが、何故そこにいるのかが解からない。混乱は深まる。「どっちが北・・・なんだよぉ・・・」空を見上げたのだが生憎雲っているらしく北斗七星は発見出来ない。本当に不安になって来る。多分、メインの通りから一本二本奥に入っているくらいで、酔って居なければ何でもないのだけれど今は全く何も解からなくなっている。その時にひとすじ先の路地から二人の人影が現れた。むこうも酔っているらしく千鳥足になっている。ただそんな事に構っていられる状況ではなく近寄り様に私は聞いてみた。「ここ・・・どこですか？」今、考えればねこの聞き方はおかしい。ってかおかしい人に自分からなる、ような発言。同年代と思しきその酔っ払いに・・・「ここ、ろこって、おめぇのあったまらい丈夫かぁ～」なんて言われてむかっ腹は立ったのだけれども「そりゃ～そうだ・・・」なんて妙な納得をしてしまってまたしゃがみ込んでしまう。「どうすりゃ、いいんだ、ってそれよりここはどこなんだ」「あっ・・・」私は思い出した。私の百円ライターのケースには方位磁石が付いている。「北、北さえ解かりゃ～なんとかなる」さっそくライターを取り出して見てみる。クリンクリンと２度ほど針をふると、自信なさげにＮを指す。よっしゃ～とにわかに元気を取り戻した私はそちらに向かって路地を２つ３つ曲がって歩き出す。するとどうだ、「なんだよ、ここかぁ」って所に私は立っていた。しかし目的地である教習所には、さっきのビアバーの位置からは完全に逆方向に４～５キロは進んでいる。

　元気は、少しだけ取り戻し自分の現在地も捕捉できたのだが、解かってしまった現実もある。１時間以上かかるな・・・すでに時間は朝４時近く・・・重く痛んだ足を引き摺りながら・・・「俺って、なかなかやるよなぁ・・・」なんて少しづつ醒めゆく酔いの中・・・早朝の街を彷徨い続けてみたい衝動に駆られた・・・ちょっとだけ感じた、ランナーズハイ。