狼男

　ひょんなことから狼男になってしまった。と言っても、夜中に暴行事件を起こしたりしたわけではない。単に飲みに行く日程を決めるのに「次の満月の夜にでも」という話になっただけのことである。

　そんな日程の決め方が粋なのかどうかはよく分からないが、とりあえず本気にその日にしようと言われたら困るので、念のため次の満月の夜がいつになるのかを調べてみた。直近の満月は6月12日で、新月は5月27日という結果だった。私たちは普段は太陽暦で生きているので、潮の干満を意識している漁師でもなければ月齢を意識するということはほとんどないだろう。ネオンサインに煌々と照らされている東京の夜空では月を見つけることすら困難である。それ以上に、夜毎飲んだくれて自分の足元さえおぼつかない私が夜空を見上げて月を愛でるような風流なことをするわけもない。それでも、知らず知らずに人間というのは天文の動きに影響を受けているというのが、洋の東西を問わず占星術の基本理念である。ちなみに私は西洋占星術師（いちおう日本占星術協会公認）なので、ちょっと蘊蓄を語ると、毎日位置が変化する太陽と月は他の惑星に比べて影響力が強いとされている。純粋に天文物理学的に考えても、引力や磁力などはその星の大きさと位置に比例することになることくらい子供でも分かりそうなものだから、わざわざ星占いなんぞを持ち出すこともないが、太陽に照らされる昼と月と星がなければただ真の闇が広がるだけの夜とに生きていた古代の人たちがそこに神秘的な力を感じたであろうことは想像に難くない。だから満月の夜に狼に変身するというお話があるというのもごく自然な連想だったのであろう。そんなわけで、こんな私が次の満月の夜には毛むくじゃらの狼に変身し、可愛い女の子たちを次々に襲ってしまうかもしれないが、それはもう私のせいではなくてただただ星々のいたずらのせいなので、美女たちにはお許しを願いたいと思っている。

・・・なんてさ、口ばっかりなんだけどね。どうせ酔っ払って寝ちゃうだけのくせして見栄張っちゃった。