時期はずれの転勤で引っ越してきた家族
これから大変な季節に突入だってのに大変
雪国の大変は雪かき
道路はツルツルで歩くのも必死
こっちの女性は足腰がしっかりしている
冬の間にツルツル道路を転ばぬようにしっかり地面を踏みしめるから
ちょうどこの時期になると思い出す
大阪から転勤してきた4人家族
街からちょっと外れた一軒家に引っ越してきた
2階は8畳間の2部屋
1回はキッチンと和室1部屋にフローリング14畳の居間
そして8畳の寝室
一般家庭の標準の作り
引っ越してきたばかりの奥様は溜息混じりに
『こっちは朝晩は寒くて大阪とは気温が10度は違うわ』
引越しの荷解きを手伝いながら
『直ぐに慣れるって』
部下の奥様が言った
『言いたくないけど、北の外れに転勤なんて・・・』
部下の奥様は一瞬ムカッときたが
『あら、こっちは水は美味しいし食事も美味しいのよ』
『食材は美味しいのが沢山あっても、料理が下手なのよ』
笑いも出た
『荷物が片付くまで外食したら?』
『不景気なのに頻繁に外で食事してたら破産するかも』
他愛も無い会話をしながら時間を掛けて荷解き
とその時
2階で遊んでた子供が
『ママあのね、部屋のドアをトントンする音が聞こえるの』
『お兄ちゃんの悪戯かな?』
『他に誰も居ないんだから、お兄ちゃんの悪戯よ』
大阪ではマンション暮らし
子供2人は一部屋を共同で使ってた
引っ越してきた一軒家では自分だけの部屋がもらえた
『机を何処に置いたら良いの?』
愛娘のウキウキ言葉に
『しょうがないわね』
キッチンの荷解きもそこそこに子供の部屋を片付ける母親
さっそくドアをトントンする音が聞こえた
『こら~っ悪戯しちゃ駄目でしょ』
言葉は返ってこない
再びドアをトントンと叩く音がする
部下の奥様は笑って
『嬉しくて仕方がないのね、自分の部屋をもらっちゃって』
『そうじゃないのよ寂しいんだわ』
『今まで一緒の部屋だったからね』
『由美ちゃん、やっぱりお兄ちゃんと一緒の部屋にする?』
『嫌だよー』
『だってお兄ちゃん寂しくて悪戯してるでしょ』
『・・・・・・・・。』
下を向いて黙る小学3年の娘、由美ちゃん
母親はこうも言った
『お兄ちゃんは由美ちゃんが好きなのよ』
『一緒の部屋に居たら悪戯しないの?』
『それは何とも言えないわ、だって3歳のままなんだもん』
『うん解った、お兄ちゃんと一緒の部屋でも良いよ』
まだ3歳のまま?何?
母親は隣の部屋に行って直ぐに戻ってきた
3歳で亡くなった由美ちゃんと双子の兄の遺影をもって
『ほら、これを机の上に飾ってね』
部下の奥様は遺影を目で追った
遺影の中にはあどけない小さなままの子供が写ってる
由美ちゃんとソックリな男の子
その遺影を見つめて
『お兄ちゃん、ドアをトントン叩いたり髪の毛を引っ張ったりしないで』
『あらあら由樹ったら、そんな悪戯してたの?』
『そうだよ~あとね、机の引き出しも勝手に開けるんだよ』
『まぁ~由樹ったら、いけない子ね』
そんな親子の会話を聞いていた部下の奥様
『じゃあさっきドアをトントンしてた音は由樹ちゃんだったの?』
『そうなの、しょっちゅうなのよ、遊びたい時の合図なの』
楽しげで不思議な親子の会話
母親のエプロンの結び目が見えない誰かに、ゆっくり解かれた
『こら由樹、悪戯も程ほどにしなさい』
怒った母親の声に2階から階段を走る降りる音が木霊した
部下の奥様はその時は怖かったと遠い目をして言った
それから半年後
『大阪の実家に車で帰省中に事故で一家が亡くなったの』
後日談
住む人の居ない家は昼夜を欠かさず階段を上がったり降りたりする音がする
由樹ちゃんは家族が亡くなった事を知らずに探しているのでしょうか?
聞いた時は鳥肌が立ったよ
o(^◇^)/~ ばいちゃ~♪