1990年
彼は40歳、ベテランの刑事
バツ1
歳の差18歳の若い彼女がいる
可愛くて仕方ない
仕事が休みの時は普通の人が経験しないような場所に連れて行き
驚く彼女の顔を見るのが好きだ
場末の朽ち果てた細長い悪臭さえするビルの3階
殆ど日本語を話さない日本人の顔した常連客が24時間たむろする
汚れたショットグラスに注がれたバーボン
彼は、我が家のように躊躇せずに入ってカウンターに座る
カタコトの日本語で
『ヨウスケ(洋介)ノ、カノジョ?』
薄暗い店内では泣き喚く声
無言で飲む外人も居た
『奈美、俺の彼女か?って聞いてるよ、何て答えるんだ?』
奈美は慌てて
『ハイ・・・。』
洋介と出会ったのは、アルバイト先のスナック
同じ飲み屋でも、こんな店があるなんて
ちょっと怖い
だけど彼は刑事
洋介が側に居てくれたら怖いものなんて皆無
『べっぴんさんね』
奈美に伝わったのはそれだけ
英語で受け答えする洋介
ショットグラスのバーボンを一気に飲み干す洋介の笑顔
洋介の知らない一面
場末の店から一転し、高級料亭に友人を集めての食事会
次々と奈美を紹介する洋介
『どうだ?俺の友人達は楽しいだろ?』
自由奔放な洋介
そして洋介も奈美を愛している
素のままの俺を愛してくれと言った洋介
定年したらハワイに住みたい
英語の勉強も兼ねて?あの外人さんの店に行くのね
納得
前の奥さんと別れた理由は聞かない
ただ、嫌いになって別れた訳じゃないと言った
そんなのどうだって良い
今は私を愛してくれているし
洋介は明るく友人の面倒見が良い
何処に行っても知り合いが居る
そして奈美を気軽に紹介する洋介
仕事も出来る
愉快な友人達
歳の差は魅力だと思う
大人の顔した子供のような洋介
洋介もまた、奈美が愛しくて仕方ない
仕事が休みの時は、片時も奈美を離したくない
自分の歩いた道を奈美に見せる
汚い小さなアパートに足しげく通ってくる奈美
暫くして奈美は身体の異変に気づいた
妊娠
洋介は何て言うだろう?
自由奔放な洋介が子供を望むだろうか?
不安がよぎる
奈美は洋介との小さな幸せな生活がしたい
子供のいる生活
意を決して、洋介に
『私・・・妊娠したみたい』
『本当か?やった~俺も親父になるんだな』
洋介が
心の底から喜んでくれてる
喜ぶ洋介を見て奈美の頬から熱い涙がこぼれた
だが
妊娠を告白した日から、洋介の外泊が増えた
1人待つ小さな洋介のアパート
不安な気持ちを抑えられなくなった奈美
洋介と一緒に入った外人の集まる店に出向いた
そっと店のドアを開ける
洋介は、そこに居た
奈美の知らない女性と楽しそうに飲む洋介
『この店は、特別な人にしか教えないんだよ』
洋介の放った言葉が虚しい
少し開けたドアを静かに閉めて階段を駆け下りた奈美
何処をどうやって歩いたのか?
早朝の歓楽街
ふと足元に目をやる
指輪?
何処かの誰か?
恋に破れ、やけっぱちになり捨てた指輪?
拾って指にはめてみた
『この指輪・・・私にサイズがぴったり』
しらじら明ける空を眺め
奈美の心は揺れていた
*:・'゜☆。.:*:・'゜★゜ 続く '・:*:.。.:*:・'゜:*