幼い日の事がやたら浮かぶ。
ずっと埋没させてきた事
思い出しても感情がなかった事
母の事·····
小さな頃
母は母じゃなかった
女だった
私が物心着いた頃から
母には恋人がいた
兄ちゃんも知ってた
きっと苦しんでたね。
初めて見たのは私が保育園の頃
コタツに潜ったら
男の手が母さんの太ももに触れていた。
泣き叫んだ。
そしたら慌てて母さん達が
コタツの中を覗いて
私に【足くさ~】と言って
足を向けて笑わせてきた。
おかしくもないのに
愛想笑いをした。
その夜父さんに言いかけたら
子供なのに兄ちゃんが
「シッ、言うな」と私を制した。
父さんはどこか気付いてイライラしてた。
父と母は私が小1の頃別居
多分そのまんま離婚
そこから男は頻繁に家に来てた。
真夜中に·····
夜中ふと目が覚めると
真っ暗な家の中で
私の部屋の前をスッと横切り
母さんの部屋に向かう黒い影がいた。
すっごく怖かった。
【母さんがころされたらどうしよう】
幼い私は気が気でなかった。
本当に怖かった。
恐る恐る勇気を持って
母さんの部屋に行ったら
人影が隣に寝ていた。
「お母さん·····」って声を掛けたら
慌てて出てきた。
泥棒が入った夢を見た
と告げると
「誰も居ないよ」なんて言ってた。
私は夢だと言ったのに
誰か居ること認めてた。
気が気でなかった。
何度も母さんの隣に寝る【誰か】を
目撃するたびに不安だった。
怖かった。
【あの人影は誰?】
人形と寝てた
とか色んな事言ってた。
あの人だろうか
なんていつも例の私が嫌いな男を思ってた。
ある夜
凄まじい声で目を覚ました。
小2の真夜中。
隣のベッドで寝てた私は
男女の営みの声と
終わった後男が
【ワシはお前と絶対別れんけ】
そう言ってた
何が行われてたかは
幼い私にも理解出来た。
苦しくて苦しくて苦しくて
汚らわしくて怖くて苦しくて
激しい嫉妬と怒りと嫌悪と·····
頭の中がぐちゃぐちゃになった。
いつからか私は
毎夜悪夢を見ていた。
いつもナメクジや青虫やミミズなど
爬虫類が大量にいて
ある時は押し入れ開けたらなだれ込み
ある時は浴槽にうごめき
ある時はソファーを占領していた。
またある時は
コタツの向こう側で
私の内臓が全て飛び出していたり。
自分の
「ギャー!ギャー!ギャー!」
という声で目を覚ましてた。
誰にも言えない
言ってはいけない
性のことは秘め事·····
苦しかった
女である母を見たくなかった
夜にコソコソ電話をしたり
『浮気したんやろ』
なんて痴話喧嘩したり
泣きながら化粧台の前にいて
男に肩を抱きすくめられて別室に行ったり·····
「何で母さんは他の人みたいに
お母さんしてくれんの」
なんて思ってた
小4の夜中
凄まじい声で目が覚めて
目の前を見ると居間の真ん中で
母と男が絡み合っていた
一瞬で目を閉じた
心臓がえぐられるような思い
男をころしたいと思った
滅多刺しにしたいと思った
苦しくて憎くて憎くて苦しくて
人を憎む事が
こんなにも苦しい事を知った
相手よりも
自分を抹消したくなった
消えたかった
でも私は
ピアノの椅子のすだれを触り
笑ってた。
男は頻繁に家に来てた。
嫌いだった。
だから態度に出していた
そんな自分が嫌いだった
その頃特に
大人の男が気持ち悪かった。
母が居なくなる不安
男性嫌悪
小学2年生から続いてる私の記憶
最近感情を伴い
たまに思い出す
これまでは自分を責めてきた
母を苦しめてきた自分を責めてきた
拒食症になった事
過食嘔吐をしてきた事
リストカットやオーバードーズ
飛び降りた事
内観をした事
母さんに暴力を振るった事
酷いことを言ってきた事·····
だけど
母は女だった
母は母親ではなく
未熟な1人の人間だった
私がしてきた事は酷い事
だけど
そうさせたのは母の罪
やっとそんなふうに思えた。
少し
少しだけ
救われるような気がした。、
母も人間
私も人間
最高に酷い事をしてきた私
だけど
小さな頃にしてきた母の罪
それできっと五分五分
そして
苦しんできた私
呪ってきた私
憎んできた私
病気になった私
そして女だった無神経な母を
ゆるしたい
赦したい
ゆるしていきたい