Journal de Tsurezure

雑多な日常、呟き、小説もUPするかもしれません。

錬金術の講師として打診を受けたおっさん二人と飲み屋での出会い 2

2021-05-29 12:56:35 | ハガレン


 「錬金術師を目指す貴方へ、これだけは知っておきたいこと」
 「二つ名を習得するための必須条件」
 「禁止事項、これだけはやっていけない、錬金術師の心得」
 
 他にも色々なタイトルがつけられた本が積み上げられているが、ノックスとマルコーは内心、なんだ、これはと思ってしまった。
 数日前のことだ、二人の医師は突然の呼び出しを受けて、セントラルの軍本部に呼ばれた。
 至急 と言われて何事かと思ったのも無理はない。
  
 「つまり、我々二人に講師をして欲しいということかね」

 マルコーの言葉にロイ・マスタングは頷いた。

 「本業の医者の仕事も大変だろうが、ここは一つ、元、軍に勤めていたOBとしてお願いしたい、ちなみにお二方以外にも協力して貰う人選には話を通してある」
 
 錬金術師といっても皆、自分の研究や仕事に忙しくて、そんな暇などないだろうと思ってしまうのは無理も    ない。

 「ゾルフ・J・キンブリー、スカー、イズミ・カーティスは暇があるときの特別講師として迎える事に、勿論、この私も講師として錬金術師を目指す者達
に、他にもアームストロング家の長男、それから」

 知っている人間なら誰でもいいのか、こういうのを手当たり次第というのだろう、大統領選はどうしたんだとノックスが呟くと、勿論、両立させるつもりだとマスタングは豪語した。
 
 


 「で、引き受けるという事にしたのか、まあ、俺にしても簡単に断る事はできんな」
 
 ノックスの言葉にマルコーは頷いた、退職したとはいえ軍で働いていたわけだ、一応というか恩もある、後になって分かったことだが、打診を受けた人間達も迷ったようだが、結局のところ全員が引き受けたようだ。
 マスタングの必死の頼み込み、大統領選に受かったら何かしらの便宜を図るなどと言ったのかもしれない。
 
 
 「診療所の方はどうなんだ、大丈夫なのか留守にして」
 「ああ、たまには休暇もいいものだよ」
 「将来的にはこっちで暮らすのか」
 「引退したら、それもいいかなと考えているが、先の事はわからんよ」
 
 おまえさんは働き過ぎなんだよ、医者の不摂生だぞとノックスに言われてマルコーは苦笑いをした。
 若い頃からの習慣はなかなか直りそうにない、仕事をしている方が楽なんだと思うときがあるくらいだ。

 「どうする、ホテルをキャンセルして、俺の家に泊まるか」
 「いや、今週一杯は、その後はもしかしたら泊めて貰う事になるかもしれんが」
 「そうか、だったら、今夜は飲みにでも行くか」

 飲みに行くか、その言葉を聞いてマルコーは迷った、付き合いが長いせいか友人の性格は分かっているつもりだ。
 若い頃から仕事で煮詰まると、反動からかはじけるというか、騒いで醜態を晒すということが何度かあった、しかし、お互い、いい歳だ、少しは落ち着いただろうと思ったのだ。


 店に入り、席に着くとボトルとつまみが運ばれてきた。

 「まあ、国家試験の難易度を下げるっていう案、大佐が躍起になるのもしかたねぇな」
 
 ノックスの言葉に、マルコーはマスタングの顔を思い出した、大統領選に出馬するというが、今は結局のところは中間管理と変わりない、上からの命令には黙って従うしかないのだろう。

 
 「少しでも世間の心証を良くしようってところなんだろうな、現役の錬金術師を使うというのも」
 
 「どれだけの人間が集まるかが問題だが」

 「ちょっと知ったかぶり、囓っただけのモグリの錬金術師が真理の扉を開こうなんてするから、大佐も余計な仕事を背負い込むことになった訳だ、まあ、気の毒といえばそれまでだが、多少は同情の余地ありってところだな」
 
 ノックスはぐいっとジョッキを空にした。

 
 「この話は置いといて、どうだ、綺麗な姉ちゃんに酒でもついで貰うか」
 
 ノックスの言葉にマルコーは、うっっと言葉を飲み込んだ。

 「い、いや、私は」
 「おまえは昔から頭が堅い、せめて下の方は、もう少し」
 
 話が別の方向にいきそうだと思った時だ。

 「こちらの席でよろしいですか」

 自分達の隣の席に案内されたのは女性、しかも一人だ。

 「中ジョッキでエールを、あと、食事をしたいんですが」
 
 サンドイッチ、カレーならすぐにできますが、店員の言葉に、女はお願いしますと頷いた。
 
 「おい、姉ちゃん」
 
 ノックスは声をかけた。

 「一人なら、こっちに来て一緒に飲まねぇか」

 「お、おい、いきなり」

 「奢ってやるぜ、美人の姉ちゃん」

 女は一瞬、きょとんとした顔つきになった。

 「お世辞が上手ですね」

 「オッサンだからな」

 女はマルコーを見ると、いいんですかと声をかけた、まさか、断る事などできない。

 
 こういう組み合わせはどうなんだろうと思ったら意外に話は弾んでしまうというか、会話が途切れる事はない。
 二人が医者だと知ると一瞬、考え込むような表情をした後、女はバッグから取り出したカードを二人に見せた、自己紹介はこれでいいですかと。
 
 「おっ、初めて見たぜ、軍が出したのか、おい」
 
 ノックスは見ろとカードをマルコーに渡した。

 証明カード、木桜春雨(きざくら はるさめ)出身 日本、帰国する医師は現在なし、カードの書き換えは・・・・・・。

 「おい、俺たちは一応というか、軍の関係者だが、このカードは他人には、あまり見せるなよ」

 「偽造とかされますか、あっ、何か犯罪にとか」

 「今のところ、変な噂は聞かねえが、何かトラブルに巻き込まれないとも限らねえからな」

 
 

 目が覚めた時、ホテルの部屋、ベッドで寝ていたことにマルコーは驚いた、昨夜の事を思い出す、友人のノックス、それと途中から、記憶が少しずつ鮮明になってくる、そうだ、いつもより飲み過ぎて、彼女がホテルまで送ってくれたんだと思い出した。
 今度から飲み過ぎないようにしよう、そんな事を思いながら起き上がるとサイドテーブルのコップに気づいた、紙が挟んである、何かメモでもと思いコップを持ち上げると紙の間に数枚の札が挟んであった。

 

 「おおっ、マルコー、昨日は楽しかったって」
 
 診療所にやってきた友人の顔をノックスは不思議そうに見た、すると三枚の札とメモを見せられてノックスは、ああと頷いた。

 「いや、奢るっていったのはこっちだからな、そうか、おまえ、撃沈してたからな、まあ、いいだろ」

 「全然よくない、これを見てくれ」
 
 マルコーは上着のポケットから取り出したものをノックスに見せた。

 「財布だ、身分証明のカードまで入っている、ドアの前に落ちていたんだ」

 「ははっ、結構、ドジだなあっ」

 笑ってる場合じゃないぞと思いながら、マルコーは考えた、困っているはずだ、こういう場合、どうすればいいと考え、まずは軍の施設に行くしかないと考えた。


 

 「錬金術師という仕事、どんなこと、何ができるの」
 「興味があるけど、わからないと悩んでいる、あなた」
 「錬金術師を目指しているなら、まずは、この講座を受けてみないか」
 「国家試験の前に心得だけでも知りたいなら、この講座はぴったりだ」
 「何故なら、講師は全員が現役の錬金術師だからだ」
 「真理の扉を開く前に、自分の心の扉を開いてみるのもいいんじゃないかな」


 掲示板の張り紙を見ているだけで、萎えてしまうというか、疲れてしまうと女は思った。
 自分のいた世界にもあった、こういうのは。

 「ただ聞き流すだけでいいのです、あなたはいつの間にか英語がぺらぺらに。
 「講師は、あの難関大学を卒業した有名人ばかりです」
 「勉強のやり方が分からないと悩んでいるなら一度、講座を受けてみませんか」

 怪しいという雰囲気しかない煽り文句のオンパレードの講座、確か友人が受けて酷い目に遭ったなあと思い出す。
 こんな張り紙で人が集まってくるのだろうか、だが、ここは軍の敷地内だ、ネズミ講、怪しい講座の勧誘などは有り得ないだろう。
 錬金術というのは映画や小説でもかなり難しいというのを読んだことがある、講座で一般の人にも知ってもらって理解を深めようというやつだろうか。
 張り紙を隅々まで読んでいた女は、講師という部分を読んで、あれっと思った、確認しようと顔を近づけて見る。
 そのときだ、いきなりバシッと音がした、尻を叩かれた彼女は掲示板に顔面をぶつけそうになった。

 
 
 「姉ちゃん、いいケツしてるじゃねえか、いやあっ、もしかしてと思ったら予想は当たったな、なあ、マルコー」

 友人の行動に顔をしかめたのも無理はない、いきなり声もかけずに尻を叩くなどセクハラと言われても仕方ないぞと思った、だが、振り返り自分達の顔を見た彼女は驚いた声を上げただけで、マルコーは内心ほっとした。

 

 「マルコーさんが拾ってくれたんですか、よかった」
 
 「運が良かったんだ、感謝しろよ、俺たちに」

 店で落としたとい事にしておいたほうがいい、ホテルの部屋でなんてドジな話は笑い話にもならない、これからは気をつけろというとノックスの言葉に真面目な顔で気をつけますといった後、女は掲示板を見た。

 「ところで気になっていたんです、この講座って二人も講師として参加するんですか」

 

 掲示板の広告を見た二人は、互いに顔を見合わせた、興味あるのかとノックスが尋ねると。

 「この国の人間じゃないと駄目とか、講座なんて学生時代に戻った気分ですよ、ただ、この広告の文句は少し怪しいというか、笑ってしまうんですけどけど」
 
 ふーんと頷いたノックスは隣の友人を見るとにやりと笑った。
 
 「いいんじゃねえか、俺とこいつの講座なら問題ないだろ」

 「お、おいっ、いいのか、そんな勝手に」

 「いいんだよ、こっちも暇じゃねえ時間を割いて、講師やるんだ、もし誰も来なかったら寂しいだろ」

 マルコーは想像した、確かに、受講者ゼロなどという事はないだろう、だが。

 講義は週末からとなっていた。

 

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