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対象読者を未信者とし、使用目的を伝道用とする場合と、対象読者を高学歴の信者とし、使用目的を礼拝用とする場合では、おのずと翻訳原則も異なる[9]。前者では動的等価訳が、後者では逐語訳

しかし、翻訳方針を巡っては紆余曲折があった[4]。動的等価(意訳)理論に基づいて翻訳した新約聖書を共同訳として1978年(昭和53年)に先行頒布したが、諸教会から採用に否定的な声が寄せられた[4][15]。その結果、急遽翻訳方針を逐語訳へと見直し、聖書全書を新共同訳として1987年(昭和63年)に発刊したが、翻訳方針の変更などに伴う訳語、訳文の未調整部分が課題として残った[4][15]。
新翻訳事業の開始[編集]
日本聖書協会は、新共同訳を精査し次世代に向けて新たにどのような聖書翻訳を目指すべきか検討するために、2005年(平成17年)11月に翻訳部を新設し、あわせて翻訳理論の研究及び実際の翻訳作業についての調査を行った[9][注 3]。その結果、オランダ聖書協会(蘭: Nederlands Bijbelgenootschap)が2004年に発刊し、高い評価を得ているオランダ語訳聖書(蘭: Nieuwe Bijbelvertaling)の翻訳手順と、その翻訳理論である「スコポス理論(英語版)」が、モデルとして参考になるとの結論に至った[9]。そこで、「スコポス理論」の主唱者であるオランダ自由大学教授のローレンス・デ・ヴリース(蘭: Lourens de Vries)を招いて直接「スコポス理論」について学ぶなどし、このスコポス理論を新たな聖書翻訳に用いる方針が決まった[9]。過去においては、いくつかある翻訳原則のどれが正しいかが議論され、「逐語訳」と「動的等価訳」とが対立的に捉えられてきたが、スコポス理論の利点は翻訳理論を別の視点から捉え直すことにより、翻訳理論の間の対立を乗り越えることを可能にしたことにある[9]。スコポスとはギリシア語で目標を意味し、聖書翻訳理論では「対象読者(聴衆)」と「使用目的(機能)」を表す[9]。対象読者を未信者とし、使用目的を伝道用とする場合と、対象読者を高学歴の信者とし、使用目的を礼拝用とする場合では、おのずと翻訳原則も異なる[9]。前者では動的等価訳が、後者では逐語訳が適切となる[9]。スコポス理論は、このように、まず翻訳のスコポスを選択し、そこから適切な翻訳方針を決定していこうとするもので、逆に言えば、スコポスをあらかじめ決定するなら、翻訳理論をめぐって動的等価か逐語訳かという選択に関して揺れが生じるようなことはなくなるとしている[16]。翻訳事業を開始するに先立ち、日本聖書協会は2008年(平成20年)6月に共同訳事業推進計画諮問会議の設置を決議し、国内17教派・1団体が委員推薦に賛同した[17]。この18教派・団体の信徒数は、当時の日本国内の信者総数の75.3%に相当することから、「日本の諸教会が求める聖書」を示す答申を得ることができるとした[17][18]。諮問会議は2009年(平成21年)10月6日に、新しい翻訳聖書のスコポスは「礼拝での朗読にふさわしい、格調高く美しい日本語訳を目指す」ことであるとする『翻訳方針前文』を日本聖書協会に答申した[17]。同年12月4日の同会理事評議員会はこの答申を承認、2010年(平成22年)2月にはカトリック中央協議会も臨時司教総会で新しい共同訳事業を承認するとの決議を行ったことにより、新翻訳事業は正式に共同訳事業として開始することとなった[4]。





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