プログラム
Récital de flûte et harpe
フルート&ハープ デュオリサイタル
梶原一紘・松村衣里
Kazuhiro Kajihara Eri Matsumura
2021年11月30日(火) 18:30開演
ドルチェ・アートホールOSAKA
川上統:捩花(2020) 7:00
木下正道:空/大地 Ⅱ(2020) 10:00
木下正道:委嘱作品(2021) 7:00
星谷丈生:対称、非対称 自然の変容(2021改訂版) 10:00
星谷丈生:フルート独奏 委嘱作品(2021) 4:00
星谷丈生:ハープ独奏 委嘱作品(2021) 6:00
ラヴェル:5つのギリシャ民謡 5:00
プログラムノート
捩花
蘭科の植物で、いつの間にか雑草に紛れて咲く事もあり、また植えてもいない花壇に突如現れる不思議な植物です。名前の通り小さな花が捩れるように縦に咲いていく姿がとても特徴的です。バスフルートとハープによる音像を思い浮かべた時、音が捩れて上昇下降する様を思い浮かべました。二つの楽器とも、出音そのものが魅力的な事から花の姿ながら捩れてお互いに混じっていくような音楽にしました。ハープはペダルによる音階設定をシ#ド♭のように音の高さがグリッサンドする時に捩れるように作り、バスフルートも低い出音での指替えトリル等の細かい音型を漸次的に強く吹き込み高い倍音を出す事で捩れて上昇していくような事を行いました。非常に難しく、この花から想像する以上に厳しい音楽となりましたが、過酷な状況に突如咲くこの花の事を思い描きました。松村さん、梶原さんのお二人に委嘱していただき、また本当に素晴らしい演奏をこれまでも行っていただき心より御礼申し上げます。
川上統
木下正道:空/大地 II (2020) (バスフルート&ハープ)
Masamichi Kinoshita:Le ciel / la terre Ⅱ
そして賢者は言った、
《彼は大地よりも天空をよく知っていた
《空、彼はいつもそれを自分の上方に見ていた、一方、大地については、彼はほんの少しの部分しか知らなかった。そして彼の知るこのごく小さな部分は、何とそれ自身にしか似ていないのだ。》
(エドモン・ジャベス「歓待の書」より、鈴木創士訳)
バスフルートとハープのための「空/大地 II」は、上記の詩句を念頭に置きつつ作曲いたしました。最初はおずおずとした対話から始まりますが、次第に熱を帯び、地味ながらも過酷な技巧を駆使しながら、音を持続に織り込んでいきます。また、楽器の高い音域を「空」、低い音域を「大地」と見立てるのは容易に思いつく手法だとは思いますが、それらの音域内での変奏、変容と、音域間を繋ぐ様々な仕掛けが、互いに影響し合いつつ幾重にも絡み合います。そしてそれは、演奏家の、精神と技術を内包した身体、またそれを受け止める楽器との対峙を通じて、音楽として成り立つはずです。やがてそれらは、断片化された「踊り」の姿を纏いながら、次第に沈黙へ飲み込まれていきます。
松村衣里さんから「ベックメッサーハープ」のための作品を書いて欲しいというお話をいただいた時、楽器の特徴などを伺っている中で「大正琴みたいな音」というお話がありました。実は実家に昔大正琴があり、祖母が歌いながら弾いていました(大正琴は確認されている中ではほぼ唯一「日本が起源」の楽器のようです)。ある種懐かしさを彷彿させるような曲を書こうと思い、3つの音楽的風景を用意しました。1はギターのパワーコードを用いて、ほんのりとハードロックの香りが漂う、引っかかりながらもグルーヴ感ある音楽を目指しました。2は薄く透明な旋律の絡み合いから、古代の風景が見えるように願いました。3は激しくかき鳴らす弦の響きの中から、踊りのリズムが次第にあらわになります。最後に一瞬だけ「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の断片が顔を出して終わります。書き終わってみてから、またすこし楽章を追加したくなりました。お楽しみいただければ幸いです。
星谷丈生:対称、非対称、自然の変容(2020)
Takeo Hoshiya:symmetry, asymmetry, transformation of nature
私は、私たちが音を楽しむとき、その美には大きく分けて2つの種類があると思っています。
一つは、偶然起こる音の美です。例えば、それは自然によってしばしば起こることがあります。海岸で聞こえる波の音と、ヤシの葉を通る風の音の組み合わせは無限大です。しかしそれぞれは、自然の周期によってある意味ではコントロールされており、全く無秩序なわけではありません。また、自然の音であっても人間によってそれが聴かれる時は、(人間の解釈によって)ある程度秩序立てられて理解されます。しかしいずれにせよ、自然の音は、人間から離れたところで起こり、人間がそれを聴くときはその結果を“受け入れて”その中に美を見出します。
もう一つの美は、音楽の中で人間によって構成された美です。その構成法には様々な種類がありますが、意図されて組み立てられた音楽は、それがどのような理論に沿って作られたかに限らず、ある方向性をもって人々に語りかけます。
しかし一方で、ジョン・ケージなどの作曲家は、偶然性の手法を巧みに用いることによって、“自然の美”を音楽作品の中に持ち込みました。そうした音楽では、例えそれが楽器によって奏でられるとしても、作曲家によって“意図された”ある種の”自然“として表現されます。彼らは、偶然性を音楽に持ち込むことで”無意図性“を”意図的“に音楽に持ち込むことに成功し、聴衆が聴こえてきた音楽を”受け入れること“の大切さを説きました。
前置きが長くなりましたが、この作品の作曲準備においては、私にとって自然に代わるものとして、シンメトリー(対称)やアシンメトリー(非対称)が準備されました。それは偶然的に起こる前述の“自然”とは異なり、私が創造して準備したものです。しかしこれらは聴き手を何かしらの方向へ引っ張ろうとする音楽ではなく、音の形を重視して配置されたパターン(類型)です。一度このパターンを並べてみて、それを後から意図的に壊していきます。しかし元のパターンの持つ特性を壊しすぎないように、あたかも自然に手を加えて造園するかのように、作品を作りました。作品の端々に突然の間や切断があるのはそのためです。私が目指したのは、完成されたパターンによる美(私にとっての自然)を壊し、その廃墟を作ることです。
Flûte 梶原一紘
Kazuhiro Kajihara
幼少の頃よりピアノを、12歳からフルートを始める。東京藝術大学音楽学部附属高校、東京藝術大学を卒業後渡仏。フランス国立クレテイユ地方音楽院を満場一致最優秀の成績にて修了後、パリ・エコールノルマル音楽院にて研鑽を積む。マグナムトリオのメンバーとして日本国内はもとよりイギリス、カナダ、韓国をはじめさまざまな演奏会やフルートフェスティバルに招聘され好評を博す。パリ・ブリュッセルを中心に活動するensemble kats、エレクトロニクス+アコースティック作品に焦点をあてた団体spac-eの創設、またサントリーサマーフェスティバルにソリストとして出演するなど現代音楽の分野に於いても評価が高まっている。これまでに長山慶子、金昌国、萩原貴子、神田寛明、中野富雄、ジョルジュ・アリオル、アラン・メナール、トマ・プレヴォーの各氏に師事。Todays Concert 共同創設者。
Harpe 松村衣里
Eri Matsumura
フランス・リヨン国立高等音楽院ハープ科首席卒業。フランス国家音楽高等研究資格取得。卒業後、野村国際文化財団のバックアップによりヨーロッパで研鑽を積み帰国。国内外のオーケストラへの客演などオーケストラ奏者として、ソリストとして幅広い演奏活動を展開している。また新作の初演など現代音楽にも意欲的に取り組んでいる。姉・松村多嘉代とのハープ・デュオ・ファルファーレでCD『眠れる森のファルファーレ』『不思議の国のファルファーレ』をリリース。第10回日本ハープコンクール(国際コンクール)プロフェッショナル部門優勝ほか多数受賞。田淵順子、木村茉莉、ファブリス・ピエールの各氏に師事。フランス国際ハープ協会会員。京都市交響楽団ハープ奏者。国際楽器社、フェリーチェ音楽院講師。
http://gold.ap.teacup.com/farfalle/