背中合わせの二人

有川浩氏作【図書館戦争】手塚×柴崎メインの二次創作ブログ 最近はCJの二次がメイン

おしどり夫婦(姫誕SS)

2025年01月13日 09時28分48秒 | CJ二次創作
「お、母ちゃん、きれえ~!」
  制服を着替え、ドレスアップして現れた母親を見るなり、タクマは感嘆の声を上げた。
「ありがとう」
 自分の親ながら、30を過ぎているのに、何て美しさだいと舌を巻く。今宵母はミッドナイトブルーのワンピースを身に付けている。カシュクールスタイルの。そんじょそこらの女優さんよりうちの母親は美人だと思うし、周囲の大人も口をそろえて騒ぎ立てるから、あながち身内のひいき目とは言えまい。
 息子として鼻が高い。ふふんと変な自慢が首をもたげる。
「素敵だよ、アルフィン」
 リッキーも頷く。今夜は母親は父とデートだという。寄港地にミネルバを着けたとき、二人は必ず夫婦だけの時間をもつ。どんなに短くても。
 結婚してから、ずっと続いている2人の慣習。
「にしても、母ちゃん今日は特別きれい……おめかし、してない?」
「あ、うん、それは」
 母親は耳のあたりに手を置き、髪を梳いた。ガーネットのピアスをしているのが見える。ブルーのワンピースにそれはよく映えていた。
「今日は誕生日なんだよ、母さんの」
 そこで父親が現れる。こちらも、ユニフォームではなく私服だ。革を好んで着る父だが、今夜は渋茶色のジャンバーに黒のデニム。ダメージはさほどない。ガタイがよいのでワイルドなスタイルが板についている。
「ああ、だからか」
 タクマは納得。だから今日の母ちゃんは一際きれいなんだな、と。
「そうだった……アルフィンおめでとう」
 リッキーが腰を上げ、母親に近寄る。手を取って、頬に頬をくっつけるようにキスを贈る。
「ありがとう、リッキー」
 母は彼にハグ。邪気のない戯れを脇で見ていたタクマが、おおい、と声をかけた。
「お二人さん、あんま熱々だと父ちゃんが焼くぜ」
「ま」
 母親がリッキーから身体を離し、父親に目をやる。と、彼は憮然とした顔をしていた。
「何言ってるんだ。そんなことあるわけないだろう」
「ーーだってよ?」
 タクマは母を目で掬う。母親はコケティッシュな笑みを浮かべて「あら、残念。たまには焼いてくれてもいいのにね」と言った。
 父親は呆れたようにため息をついて、「もう出かけるぞ」と促した。
「はいはい」
 母親はハンドバッグを小脇に抱える。空いている方の手をするりと父親の腕に絡めた。ごく自然なしぐさで。
「行きましょう、ジョウ」
 満面の笑みを向ける。しかつめらしい顔をしていたが、父親はふと眉間を開いた。
「ああ。行くか」
 恭しくエスコートしてリビングを出ていく。肩を寄せ合う二人は、まるで夫婦と言うより熱々の恋人同士のようだった。とても子供がいるカップルには見えない。
「いってらっしゃい」
「楽しんでね」
 背中に声をかけるも、ああと手を上げて父親が返すだけ。母の方はすっかりデートに気が向いているらしい。
 ドアが二人を視界から遮ってから、タクマは言った。
「ったく、年甲斐もないねえ。うちの父ちゃんは」
「まあまあ。昔からベタぼれだったからな。兄貴はアルフィンに。
 知ってたかタクマ。アルフィンの今夜のドレスもバッグも、兄貴が贈ったんだよ。誕生日のプレゼントにって」
 したり顔でリッキーが言う。
「へええ。初耳」
「アルフィン、めっちゃ嬉しそうにしてたぜ。ジョウが選んでくれたの、って。あたしの瞳の色と同じワンピースなのって。バッグはお気に入りのブランドなんだってさ」
「……父ちゃんは、母ちゃんを悦ばせるならなんでもするからなあ」
「そうだな。今夜もアルフィンに付き合って観劇だってよ。あまりガラじゃないって本人は言ったけど。眠らないように気を付けようって」
  これはここだけの話。ないしょな、と声を潜める。
「へえええ」
「ほんと、何年経ってもラブラブで羨ましいことですよ。お前の父ちゃんと母ちゃんは。この業界きってのおしどり夫婦だもんな」
 あやかりたいねえと鼻歌交じりで言う。
「……ねえ、リッキー、今夜あの二人、遅いんじゃないかな」
 ぼそっとタクマがつぶやく。彼を驚いたようにリッキーが見た。
 少し目を見開いてしみじみと言う。
「お前も大人になったなー」
 男女の機微というか、カップルに漂う甘いムードを察知できる年になったかと感慨もひとしお。まあアルフィンの誕生日だし、タクマは俺に預けて夫婦水入らず、ゆっくり愛の時間を紡ぐつもりだろう。
 ジョウの佇まいから、雄の香りがぷんぷん漂っているのを感じたのは、リッキーばかりではなかったらしい。
「ま、ね」
 タクマは鼻をつんと高くして見せた。えっへん。
 こういうところはまだまだ子供なんだよなと思いながら「じゃあ今夜は俺たちで晩飯、作るか」と声をかけた。
「そうしよう」
 ゆっくり時間を気にせず今夜はデートをしてほしい。父ちゃんと母ちゃんには。
一人息子としては、そう願わずにいられなかった。
 HAPPY BIRTHDAY、母ちゃん。

END
1日遅れですが、息子視点での姫誕です。


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2 コメント

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Unknown (toriatama)
2025-01-14 22:27:18
新作ありがとうございます。今年も姫誕ストーリーが読める幸せ。バッグはともかく似合う服まで選べるってなかなかに凄い。それこそスパダリ…と思う私です。J君、やりおる。身につけるものを送るのはそれを取り去りたいと言う願望もあるそうですけどね!ミネルバのクルーは姫の弛まぬ長年の教育で気の利く男連中に仕上がってるなあと感心しておる次第です。

ちはやぶる、とにかく最後が気になって急いで読み過ぎました。コミックスサイズだとなんかもう小さい字が読めない…って気づいたのもショック。メルカリで全巻買って一読したら手放すつもりだったんですが、落ち着いて明るい所で再読するつもりです。
以前流行ったはちクロのコピーが「全員片想い」で上手いなあと思っていたのですが…。ちはやぶるは全員心が強くて美しいですよね。あの世界に住みたい程です。この世も捨てたもんじゃ無いよね、と前向きな気分にさせてもらいました。
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Unknown (あだち)
2025-01-19 16:04:57
こんにちは、私はジョウの誕生日は忘れないのですが、姫誕は曖昧でして… 申し訳ない。冬の誕生日、知り合いが沢山いて混乱するみたいです。1日遅れです。
さて、ちはやふるですが、日本語の美しさ、人としての美しさを教えてくれる素晴らしい青春漫画だと思います。ラストもいい。最後の最後までヒロインがどちらの彼とくっつくかまるで分からないのもよき。私としては大団円でしたが、カップリングに納得なさらないファンも多かったです。それほどどのキャラも魅力的ですね。
実は、一番好きな推しは原田先生です。ちはや周りのおとなの人が、若手だけでなくとても人として凄いと思わせる、何度も読みたいバイブルですね
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