あなたの好きなところはたくさん、数え切れないほどあるけれどーー
「そういやお前、新しいメンバーを乗せてるんだって? 女の子だって聞いたが」
「ああ。最近な」
「ガンビーノの代わりなんだろ。女の子で務まるのか? 名前は」
ジョウが、コクピットで回線を開いてやりとりしているとき。偶然その場に居合わせたことがある。
相手はどうやら昔なじみみたいだった。画面の相手は見えないけれど、彼の背中が寛いでいる。難しい仕事の話ではなく、雑談をしているようだ。
お話中だわ、後にしよう。幸い、ジョウは後ろから入ってきたあたしに気がついていないみたいだし。
そっと立ち去ろうと行きかけたあたしの足を止めさせたのは、回線を通じて聞こえたその台詞だった。
あたしのことだわ。
急に緊張した。ジョウがなんて言うか、聞きたいと思った。
でも、――
だめだめ。立ち聞きなんてはしたない。だめよ、アルフィン。
そう言い聞かせて、踵を返す。と、
「名前はアルフィン。ガンビーノとはタイプが違うけど、よくやってるよ」
ジョウの声があたしを引き留めた。
「ふうん。どんな子だい?」
「どんな子? そうだな……」
ジョウが少し思案する様子が伝わる。
う。気になる。
――ピザンの元王女さまだよ。生まれが高貴なんだ。
――金髪碧眼のきれいな子。
――すごく美人だ。モデルみたいな。
あたしを形容する言葉が次々と脳裏に浮かぶ。自慢じゃないけど、小さい頃から出自についてまっさきに言われたり、容姿を褒められたりすることが多かった。それは、あたしがここに密航してからも変わらないんだろうか。
ジョウはなんてあたしを紹介するんだろう。
あたしの知らないところで。知らない相手に対して。
知りたい、と思った。
いけないことだとわかりつつ、あたしの足が止まる。
背中全体で、ジョウの言葉を待ってしまう。緊張がみなぎる。
ジョウはそんなあたしの胸の内など知らぬ風に、
「すごく頑張り屋だ。努力家だよ、アルフィンは」
と言った。
「……」
あたしは、思わず振り返った。ゆっくりと。
ジョウの肩の線がリラックスしている。シートの背もたれに身を預けて、回線の相手と続けた。
「根っからの負けず嫌いなんだろうな。仕事が終わってからでもこっそり銃器の扱いとか練習しているみたいだ。航宙術も実戦で鍛えるだけじゃなく、睡眠学習で補っているし。びっくりするぐらい短時間で力をつけてるよ。立派なもんだ」
優しい声音で、彼は言った。
「……へえ。いい子なんだな」
相手が、しみじみと言った。
ジョウが頷く。
「ああ。いい子だよ。すごく」
「……」
あたしはそうっとコクピットを立ち去った。
ドアの開閉で、気づかれたかも知れない。そこに居合わせたって。
早足で通路を歩く。――自分でも知らず、急ぎ足になった。
なんだか視界が歪む。唇を噛んでいないと、泣いてしまいそうだった。
新しいメンバーは、どんな子だい?
――ピザンの元王女さまだよ。生まれが高貴なんだ。
――金髪碧眼のきれいな子。
――すごく美人だ。モデルみたいな。
あたしを形容する言葉は、そういった出自や外見に関するものが多いし、言われて不快に思ったことはない。
けれど、ジョウの言葉は、あたしの深いところに刺さる。心の一番柔らかいところにまっすぐに。
「すごく頑張り屋だ。努力家だよ、アルフィンは」
「ああ。いい子だよ。すごく」
あたしは歩きながら手で目を擦った。めそめそしちゃだめだ。
ジョウがあんな風に言ってくれたんだから。しゃんとしよう。顔を上げて、胸を張って。
ジョウの瞳に映るあたしが、いつも凜としているといい。
あたしは歩を進めながら、そう思った。
ジョウ。あなたの好きなところはたくさん、数え切れないほどあるけれどーー
そういうところ。
そんな風にあたしを見てくれているところが、とても、とても好きなの。
END
「君の内側」、とテーマは同じです。逆バージョンも書いてみたいですね。
「そういやお前、新しいメンバーを乗せてるんだって? 女の子だって聞いたが」
「ああ。最近な」
「ガンビーノの代わりなんだろ。女の子で務まるのか? 名前は」
ジョウが、コクピットで回線を開いてやりとりしているとき。偶然その場に居合わせたことがある。
相手はどうやら昔なじみみたいだった。画面の相手は見えないけれど、彼の背中が寛いでいる。難しい仕事の話ではなく、雑談をしているようだ。
お話中だわ、後にしよう。幸い、ジョウは後ろから入ってきたあたしに気がついていないみたいだし。
そっと立ち去ろうと行きかけたあたしの足を止めさせたのは、回線を通じて聞こえたその台詞だった。
あたしのことだわ。
急に緊張した。ジョウがなんて言うか、聞きたいと思った。
でも、――
だめだめ。立ち聞きなんてはしたない。だめよ、アルフィン。
そう言い聞かせて、踵を返す。と、
「名前はアルフィン。ガンビーノとはタイプが違うけど、よくやってるよ」
ジョウの声があたしを引き留めた。
「ふうん。どんな子だい?」
「どんな子? そうだな……」
ジョウが少し思案する様子が伝わる。
う。気になる。
――ピザンの元王女さまだよ。生まれが高貴なんだ。
――金髪碧眼のきれいな子。
――すごく美人だ。モデルみたいな。
あたしを形容する言葉が次々と脳裏に浮かぶ。自慢じゃないけど、小さい頃から出自についてまっさきに言われたり、容姿を褒められたりすることが多かった。それは、あたしがここに密航してからも変わらないんだろうか。
ジョウはなんてあたしを紹介するんだろう。
あたしの知らないところで。知らない相手に対して。
知りたい、と思った。
いけないことだとわかりつつ、あたしの足が止まる。
背中全体で、ジョウの言葉を待ってしまう。緊張がみなぎる。
ジョウはそんなあたしの胸の内など知らぬ風に、
「すごく頑張り屋だ。努力家だよ、アルフィンは」
と言った。
「……」
あたしは、思わず振り返った。ゆっくりと。
ジョウの肩の線がリラックスしている。シートの背もたれに身を預けて、回線の相手と続けた。
「根っからの負けず嫌いなんだろうな。仕事が終わってからでもこっそり銃器の扱いとか練習しているみたいだ。航宙術も実戦で鍛えるだけじゃなく、睡眠学習で補っているし。びっくりするぐらい短時間で力をつけてるよ。立派なもんだ」
優しい声音で、彼は言った。
「……へえ。いい子なんだな」
相手が、しみじみと言った。
ジョウが頷く。
「ああ。いい子だよ。すごく」
「……」
あたしはそうっとコクピットを立ち去った。
ドアの開閉で、気づかれたかも知れない。そこに居合わせたって。
早足で通路を歩く。――自分でも知らず、急ぎ足になった。
なんだか視界が歪む。唇を噛んでいないと、泣いてしまいそうだった。
新しいメンバーは、どんな子だい?
――ピザンの元王女さまだよ。生まれが高貴なんだ。
――金髪碧眼のきれいな子。
――すごく美人だ。モデルみたいな。
あたしを形容する言葉は、そういった出自や外見に関するものが多いし、言われて不快に思ったことはない。
けれど、ジョウの言葉は、あたしの深いところに刺さる。心の一番柔らかいところにまっすぐに。
「すごく頑張り屋だ。努力家だよ、アルフィンは」
「ああ。いい子だよ。すごく」
あたしは歩きながら手で目を擦った。めそめそしちゃだめだ。
ジョウがあんな風に言ってくれたんだから。しゃんとしよう。顔を上げて、胸を張って。
ジョウの瞳に映るあたしが、いつも凜としているといい。
あたしは歩を進めながら、そう思った。
ジョウ。あなたの好きなところはたくさん、数え切れないほどあるけれどーー
そういうところ。
そんな風にあたしを見てくれているところが、とても、とても好きなの。
END
「君の内側」、とテーマは同じです。逆バージョンも書いてみたいですね。
⇒pixiv安達 薫
さすが、チームリーダー。表面だけでなく、内面もちゃんと見てる。この人たらし。
リッキーも、努力しないとおいていかれるぞー。
>toriatamaさん
姫のような女性は、男性としては大事に座布団に座らせて床の間に置いておきたいくらい貴重な存在らしいですよ
ミネルバには床の間はありませんけれども 笑
OVAとか、仰る要素が強いですよね。ゲストが来るとあしらいに回ってしまうという。
>ゆうきママさん
ジョウは、幼い頃から海千山千の猛者とわたりあってきているので、姫の純粋さをこよなく愛したと思います。癒やしだったのでは