今日のアルフィンは髪を緩くカールさせて、雰囲気が違う。華やかというか、より女の子らしい。ショーパンにモヘアのオーバーサイズセーターを羽織ってリビングにいると、ジョウがやってきた。お、と目を見開き
「なんか、いつもより綺麗だな。イメチェンか」
「そ、そういう訳ではないけど」
ジョウに声をかけられ、アルフィンの心臓が跳ねる。
「クリスマスだからちょっとおしゃれしただけ」
「ふうん。ちょっとおいで」
ジョウがソファに座り、手招きをする。ちょいちょいと。
「え?」
「ここにおいで。座って」
目で指示した先はーー隣ではなくて、彼の膝の上。
「ええええ」
さしものアルフィンも怯む。でも、ジョウに呼ばれたら砂鉄が磁石に引き付けられるように自然と近づいて行ってしまうから習性ってこわい。
「こ、こう?」
彼の膝にちょこんと腰を下ろす。ジョウは背中に手を添え、改めてしげしげと近くで彼女を見て、
「化粧もしてる? 可愛い」
と目を細めた。アルフィンはどくどくと心臓に血流が流れ込むのを感じた。
「あ、ありがとう」
身をすくめてしまう。間近でジョウの褒め言葉を浴びると……すごい威力。声が耳たぶをなぞるようにしてくるから、愛撫みたいで、なんだか落ち着かない。
そこでジョウはふとアルフィンの髪をひと房掬い上げ、耳にかけた。
「ピアスしてる。これ、俺が君に上げたやつ?」
「う、うん。そうなの。このセーターに合うかなって思って」
ジョウにもらったダイヤのピアスが輝くこぶりの耳たぶ。言われるなりアルフィンは真っ赤になった。
「似合う。すげえ可愛いよ、それも」
ジョウは微笑んだ。
堪らずアルフィンは顔を両手で覆ってしまった。うわ~ん、と泣き声を上げ「ごめんなさい、もうダメ。降参、白旗です」
と喚く。
ジョウはんん?と視線で彼女を掬いつつ、「何がダメ?降参だって?」と弄るのを止めない。
「あたしが悪かったわ。あたしが、クリスマスプレゼントはスパダリなあなたがいいって、滅茶苦茶甘い言葉をくれるジョウがいいってリクエストしたから。でもまさか、スパダリなジョウが、こ、こんなにすさまじい破壊力だなんて、思ってもみなかったんだもん!」
ジョウの膝に体重を預けたままもだもだする。ジョウはそんなアルフィンのウエストに手を添えたまま、ふふん、と口角を吊り上げた。
「アルフィン、端から無理だと思ってたもんな。リクエストしておきながら。あのな、俺だっていざとなったらスパダリの役だってなんだって、やれるんだよ」
どうだ、恐れ入ったかという気持ちがありありとドヤ顔に出ている。アルフィンはそこでふと手を離して彼を見上げ、その目を覗き込む。
「役なの? みんな演技? 可愛いとか、本気で言ってくれたんじゃないの? 全部、飾りたてた演技だった?」
「う、」
そこで初めてジョウがたじろいだ。
アルフィンが傷ついた顔をしていたからだ。眉をひそめ、青い目が陰っている。
「まさか。演技じゃないよ、本当に可愛いと思ったから口にした。いま言ったことはみんな、本心」
「……本当?」
窺うように、掬い見る。安心させるようにジョウはうんうんと大きく頷いた。
アルフィンからジョウに身を寄せて、彼の肩に腕を回し、こつんと額に額を当てる。至近距離で見つめ合う。
「……じゃあもう一回言って? 可愛いよって。心を込めて」
「お、おう」
「たっぷり甘やかしてね。クリスマスイブだもん……ね、ジョウ」
「アルフィン……」
あっという間にラブラブタイムに突入する二人。
「なあ、あれって絶対、ここに俺ら居るって忘れてるよなあ」
リビングにいたリッキーがタロスにぼやき始める。
視界の端にはアルフィンを膝に乗せて可愛がるジョウの姿。……いや別にいいんだけどね。うん。ずっと前から、俺らもこの部屋でボードゲームしてるけどね。眼中にないよね、きっと。
「まあ、いいじゃねえか。クリスマスだからよ」
オセロの駒の置き所を探りながら、タロスが返した。
「あの二人がいちゃついてるのは年中行事だろう」
「アルフィンから一本取ろうとして、なんだかんだで一本返されてるのカッコ悪いよね」
おたおたしちゃってさ。と口を尖らす。ふ、っと口元を緩めてジョウのお目付け役は言った。
「カッコ悪くてもなんでも、ジョウは満更でもなさそうだぜ。あんな顔、他で見せるか?」
顎で示した先に、二人がいる。ぴったり隙間なくくっついて、それはそれは幸せそうなジョウとアルフィンが。
「……たしかに」
リッキーが不承不承、首肯した。でも不完全燃焼だったせいか、その晩、オセロで大勝ちしたのはタロスのほうだった。
END
あのうスパダリって、何ですか……雰囲気で書きましたが実はよくわかっていません。。。。ハートウオーミングな話になってます?
タロさん、リッキーいた‼️
でも、いいの(笑)