ミネルバの朝は、昏い。
宇宙空間を航行しているので、朝陽が差し込まないからだ。窓の外はいつも漆黒の宇宙(そら)が広がるばかり。だから、カーテン越しの日差しに目を細めるということにもならない。
いまあたしたちが停泊している宇宙港も、銀河の一角に浮かんでいる。
「ん……」
目が覚めると、ジョウの顔があった。
ほの暗い、陰影のついた顔が。ドアップだったので、思わず声が出かかる。
「おはよう。起きたか」
声を潜めて、ジョウが囁く。
「うーーうん」
あたしは頷いた。無意識のうちに胸元をブランケットで覆いながら。
あたしはそこで、何も衣服を身につけていない状態で眠っていたことに気付いた。すうすうするけど、寒くはない。それは今までジョウと一緒にベッドに横になっていたからであって……。体温を移し合えるほど密着して眠っていたということであって。
ジョウだって、上半身はだかだ。逞しい胸筋を隠そうともせずに起き上がり、
「大丈夫か。ーー憶えてるか、昨夜のこと」
そう尋ねた。
「え、ええ……」
憶えている――というか、今思い出した。
訊かれたタイミングで、リアルに。急にぼぼぼぼぼっと顔が熱くなるのが分かる。
あたしは胸元を隠していたブランケットを鼻まで引き上げた。顔、顔を見られたくない。恥ずかしい……。
うつ伏せになって丸まったあたしに向かってジョウはそっと声をかける。
「喉渇いてないか。飲み物か何か取って来ようか」
「あーーありがとう」
あたしが言うと、ん、とかすかにうなずく気配がしてジョウがベッドから降り立った。ぎし、とスプリングが鳴る。
ジョウは下にスウェットを履いていた。上体ははだか、そして素足で黙ってドアを出ていく。
出がけに一度あたしの方を振り向いた。
「……」
何か言いかけて、言葉を呑み込みそのままドアの向こうに消えた。
タロスとリッキーが、寄港先で少し遊びたいというので、外泊許可を取りにジョウのもとへやってきたのは昨日。
いいよ、と彼が二つ返事でOKすると、ふたりは嬉々として街に繰り出した。おおかた最新型の機器をそろえるゲーセンや仲間が集まるバーに繰り出すんだろう。
「俺たちは、どうする? 映画か、買い物か、どこか行くか?」
「んー」
ジョウに訊かれて、あたしは考え込む。少しだけ。
「それもいいけど。せっかく二人きりなら、ミネルバでジョウといちゃいちゃしたいかな」
「いちゃ……、」
ジョウは目を見開いた。そして、真っ赤になった。
「ほら最近、4人みんなで動くことが多かったでしょ。だから、ふたりきりでうちで過ごすのってけっこレアかなって。特にほしいものも今は無いし、映画は配信で船内でも見られるし、ジョウといられるんなら、別に外に出かける必要もないかなって」
「アルフィン」
「だめかな」
目線で掬い上げると、ジョウは何とも言えない照れくさそうな顔を見せた。
そして、
「ダメって言うと思うか? 俺が」
とだけ言った。
ダメなわけない。ジョウはそう言って、それはそれは優しくしてくれた。
「ふたりでいちゃいちゃしたいって、具体的にはどんなことしたいんだ?」
「そ、それはア」
あたしが口にすることを、全部実行に移してくれた。
ソファの上でバックハグしてほしい。口移しでアルコールを飲ませてほしい。優しく髪を撫でてほしい。エトセトラ、エトセトラ。
「ジョウは、したいことないの? あたしと」
彼の腕の中うっとりしながら、あたしが訊くと、ジョウはふっと真顔になった。
ううん、真顔じゃなくて、男の人の顔。そして、
「俺か、俺は……」
言葉を呑み込み、まっすぐにあたしを目で捉える。
そこに、かすかな欲望のかぎろいをあたしは見た。
どくんっと心臓がわしづかみにされる。こめかみがぼうっと熱くなった。
ジョウの言いたいことを正確にあたしは掴んだ。そのとき。
「言わなきゃダメか」
彼が訊くから、
「ーーううん。いいよ」
あたしはジョウの頬を両手で挟んで、こつんと額をくっつけた。
近すぎて彼の目を見ることはできない。すごく恥ずかしかったから、それでちょうどよかった。
「連れてって、ジョウ。あなたの部屋に」
あたしはそっと囁いた。
ジョウが部屋を出て行ってから、あたしはもぞもぞとベッドの上起き上がった。
初めて、男の人に抱かれた。あたしの考えるいちゃいちゃと、ジョウの考えるいちゃいちゃには少し乖離があったけど、あたしたちは昨夜ここでそれをすり合わせた。たっぷり時間をかけて。
お互いの身体と吐息と体温を使って。
まだ頭がぼうっとしている。夢見心地でいる。ジョウのしてくれたあれこれがまだリアルに肌に残っていて、……なんだか。
「まずは服を着なきゃ……」
裸でいるのはまずいわ。
あたりをきょろきょろ見回すけれども、着ていたはずのルームウエアが見当たらない。ここに連れてこられるやいなや、ジョウにはぎ取られたのだけは憶えているのだけれど。
「あ」
そこでふと、気づく。今まで自分がジョウが脱いだTシャツの上で眠っていたことに。しわが結構入ってくんなりしてしまっている。
それに手を伸ばし、あたしは引き寄せた。膝の上広げて、軽く寝じわを伸ばす。
男性用のTシャツは明らかに大きい。けれどもあたしはそれに袖を通した。
起きてもジョウに包まれてるみたいで、なんだか安心した。
「アルフィン。おい、それって」
キッチンまでわざわざ行ってくれたのだろう。ミネラルウォーターのボトルを手に戻ってきたジョウが、ドア口で足を止めた。口をぽかんと開けてしばらく声もなくあたしに見入る。
「ごめん。借りちゃった……。着るもの、なくて」
Tシャツの裾からのぞく太腿が気になって、丈を伸ばしつつ言うと、ジョウが紅くなって視線を逸らした。
「~~なんのごほうびだよ。心臓に悪い。それ、『彼シャツ』だろ」
いちゃいちゃ、再開かよ、と。ボトルをあたしに手渡しながら、またベッドに乗り上がってきた。
有無を言わさぬ力でぎゅっと抱きしめられ、あたしはまたベッドに横たえさせられる。
ジョウが目で訊いてくる。--ホントにいいのか、と。
あたしの身体を気遣ってくれるその優しさに打たれながら、あたしは彼の首に腕を回した。
「ダメって言うと思う?」
と、訊くと、
「思わない」
ジョウは即答。
「うん♡」
とびきりの笑顔に映ってるといい。そして目を閉じて、あたしは彼のキスを待った。
ミネルバの朝は、昏い。
でも好きな人と迎えるとっておきの朝は、キラキラ眩しいのだと知った。
END
たまには極糖極甘でお送りします。そういえばこの二人で「彼シャツ」って書いてなかったような気がして。
地震とか台風とか、お盆の時期ですがお気をつけください。
いまだpixivの話を引きずってますが、こうやって素直にいちゃいちゃしたい、とか言えちゃう姫には敵わないよねえと納得してしまった。家族のいない家でいちゃいちゃの延長から初エッチって普通っぽくて逆にどきどきしますね。。。(このCP、何せドラマチックなイメージだから)
別記事でヤマトよ永遠に、のリメイク上映されているのを知りました。アレですよね、森雪嬢が敵の宇宙人将校に拉致監禁されて求愛されるという。。。テレビで初めて見た時はぶっ飛び展開にのけぞりました。初めてエロスを感じたヤマト作品だったかも。。。
今のリメイクのヤマトは、20✖✖とか、年号でタイトルが表されていて、昔のファンとしては、どのリメイク????ってわかりづらいのが難です。
今の古代くんの声がJOJOの承太✖だと思って聞くと感慨深いです。。。。笑 お宅ネタですみません。
今のヤマトもいいですよ ただし、古代艦長その長い髪は下の隊員に示しがつかないんじゃないかって思いますけどね。