ジョウは、身体を鍛えるのを日課としている。
<ミネルバ>の一室をジムに充てて、マシンを置いて地道に筋トレ。
さすがにきつい仕事が入っているときはやらないけれど、オフの時は結構まめにその部屋に籠って鍛えている。
トレッドミルで走り込んで汗だくになったジョウに、俺らはタオルを放りながら訊いた。
「兄貴はさ、なんでそんなに自分を追い込むの。暇さえあれば筋トレしているよね」
「ん」
ジョウはミネラルウォーターの封を切って、ごくごくと飲んだ。たっぷり走った後の水はさぞかしおいしいんだろう。
喉仏が上下するのが色っぽいな、汗に濡れて身体に張り付くTシャツ姿がセクシーだな、男の俺らから見てもと思いながらじっと見てしまう。
ジョウは無造作に口元をこぶしで拭って、
「気分」
とだけ答えた。
「気分?」
「ああ。筋トレとかして身体がしっかり変わっていくがわかるのって、面白くないか?」
首に掛けたタオルで滴る汗をぬぐった。その上腕筋は美しく隆起している。
俺らは「うーん。俺らはまだそんな、鍛えたことないから」と言う。
「そうか、お前はまだ成長期だから、あんまし作りこんじゃだめだもんな」
「あはは。身長止まったらやだもん」
「筋肉マシンみたいになりたいわけじゃないんだよ、俺は。ただ、何かあったときに瞬発力っていうか、ばっと飛び込む筋力は持っていたいと思う。それは、チームのメンバーのためでもあるから」
ふと真顔になってジョウが言う。
はたちの青年の顔じゃなくて、クラッシャーのトップに立つ、リーダーの顔をしていた。
ジョウは精神的な筋力のことも言っているのだと思う。メンタルの反射神経というか。とっさのとき、躊躇せずに何かに飛び込める力。判断より決断を優先するための、見えない鎧を身にまといたいのだ、きっと。
「いつも助けてもらってます」
あまり真剣な横顔をしているので、ちょっと俺らがおどけて見せた。ジョウに向かって手を合わせる。
「だろ?」
自分でも気恥ずかしくなったのか、ジョウは少し照れくさそうに笑った。タオルで頭を拭いて顔を隠した。
「俺らより、アルフィンかな。兄貴が一番助けてるのは」
「んー」
そうかな、とつぶやく。タオルの下で。
「いつも身体張って守ってると思う。ほんと、兄貴はすごいや」
自分のミッションだけじゃなく、アルフィンのサポートもしっかりできる。
その有能さは俺らのあこがれだ。
でもジョウは、そうでもないぜと意外な言葉を漏らした。ジムの低い天井を見上げる。
素の顔が覗いた。
「守ってるだけじゃない。俺も助けてもらってる」
「……へえ」
「アルフィンがいるからみっともないところは見せられない。しっぽ巻いて敵の前からとんずらするわけにはいかない。最前線で踏ん張って戦うしかない。そうやって、少しずつだけど強くなっている気がする」
ああ……。
ようやく俺らはわかった。腑に落ちたと言ってもいい。
そうか、そうだったんだ。
ジョウがこんなにかっこいいわけ。黙々と自分を追い込んで、常に高みを目指すわけ。
守っているようで守られてる。助けているけど、助けられている。
ウィンウィンの関係の、大事な人がいるからなんだな。一番傍に。
ミネラルウオーターのボトルをもって、ベンチに腰を下ろして、黙って汗をぬぐうジョウを見ながら俺らがなんだか感動していると、ジムのドアが開いてアルフィンがひょいと顔を出した。
「おつかれさま。どう? ひと区切りついた?」
愛らしい声で尋ねる。
「晩ごはんできたわよ。もう食べられるけど、どうする? 先にシャワー浴びる?」
ジョウは「ああ、そうするかな。ごめん少し待たせてもいいか」とベンチから腰を上げて言った。
「早めにね。冷めちゃうといやだわ」
「わかった」
ドアのところで行き違うジョウとアルフィン。
アルフィンがふざけて「汗くさあい」と言うと、ジョウは「悪かったな」と自分が使ったタオルをアルフィンの頭にわざとかぶせた。
「なにすんのよ!」
「洗濯頼むな」
ひらひらと手を振ってシャワー室に向かう。その後ろ姿に向かって、アルフィンが噛みついた。
「自分でランドリールームに持って行ってよ! もお、なんなの~」
とか何とか言いながら、ジョウの使ったタオルを胸の前でぎゅっと握り締める。
幸せそうだった。
……なんだかなあ。俺らもミミーに会いたくなっちまったな。
アルフィンとともにジムを出ながら、今夜ハイパーウエイブ通信で連絡とってみるかなと俺らはそんなことを思った。
END
<ミネルバ>の一室をジムに充てて、マシンを置いて地道に筋トレ。
さすがにきつい仕事が入っているときはやらないけれど、オフの時は結構まめにその部屋に籠って鍛えている。
トレッドミルで走り込んで汗だくになったジョウに、俺らはタオルを放りながら訊いた。
「兄貴はさ、なんでそんなに自分を追い込むの。暇さえあれば筋トレしているよね」
「ん」
ジョウはミネラルウォーターの封を切って、ごくごくと飲んだ。たっぷり走った後の水はさぞかしおいしいんだろう。
喉仏が上下するのが色っぽいな、汗に濡れて身体に張り付くTシャツ姿がセクシーだな、男の俺らから見てもと思いながらじっと見てしまう。
ジョウは無造作に口元をこぶしで拭って、
「気分」
とだけ答えた。
「気分?」
「ああ。筋トレとかして身体がしっかり変わっていくがわかるのって、面白くないか?」
首に掛けたタオルで滴る汗をぬぐった。その上腕筋は美しく隆起している。
俺らは「うーん。俺らはまだそんな、鍛えたことないから」と言う。
「そうか、お前はまだ成長期だから、あんまし作りこんじゃだめだもんな」
「あはは。身長止まったらやだもん」
「筋肉マシンみたいになりたいわけじゃないんだよ、俺は。ただ、何かあったときに瞬発力っていうか、ばっと飛び込む筋力は持っていたいと思う。それは、チームのメンバーのためでもあるから」
ふと真顔になってジョウが言う。
はたちの青年の顔じゃなくて、クラッシャーのトップに立つ、リーダーの顔をしていた。
ジョウは精神的な筋力のことも言っているのだと思う。メンタルの反射神経というか。とっさのとき、躊躇せずに何かに飛び込める力。判断より決断を優先するための、見えない鎧を身にまといたいのだ、きっと。
「いつも助けてもらってます」
あまり真剣な横顔をしているので、ちょっと俺らがおどけて見せた。ジョウに向かって手を合わせる。
「だろ?」
自分でも気恥ずかしくなったのか、ジョウは少し照れくさそうに笑った。タオルで頭を拭いて顔を隠した。
「俺らより、アルフィンかな。兄貴が一番助けてるのは」
「んー」
そうかな、とつぶやく。タオルの下で。
「いつも身体張って守ってると思う。ほんと、兄貴はすごいや」
自分のミッションだけじゃなく、アルフィンのサポートもしっかりできる。
その有能さは俺らのあこがれだ。
でもジョウは、そうでもないぜと意外な言葉を漏らした。ジムの低い天井を見上げる。
素の顔が覗いた。
「守ってるだけじゃない。俺も助けてもらってる」
「……へえ」
「アルフィンがいるからみっともないところは見せられない。しっぽ巻いて敵の前からとんずらするわけにはいかない。最前線で踏ん張って戦うしかない。そうやって、少しずつだけど強くなっている気がする」
ああ……。
ようやく俺らはわかった。腑に落ちたと言ってもいい。
そうか、そうだったんだ。
ジョウがこんなにかっこいいわけ。黙々と自分を追い込んで、常に高みを目指すわけ。
守っているようで守られてる。助けているけど、助けられている。
ウィンウィンの関係の、大事な人がいるからなんだな。一番傍に。
ミネラルウオーターのボトルをもって、ベンチに腰を下ろして、黙って汗をぬぐうジョウを見ながら俺らがなんだか感動していると、ジムのドアが開いてアルフィンがひょいと顔を出した。
「おつかれさま。どう? ひと区切りついた?」
愛らしい声で尋ねる。
「晩ごはんできたわよ。もう食べられるけど、どうする? 先にシャワー浴びる?」
ジョウは「ああ、そうするかな。ごめん少し待たせてもいいか」とベンチから腰を上げて言った。
「早めにね。冷めちゃうといやだわ」
「わかった」
ドアのところで行き違うジョウとアルフィン。
アルフィンがふざけて「汗くさあい」と言うと、ジョウは「悪かったな」と自分が使ったタオルをアルフィンの頭にわざとかぶせた。
「なにすんのよ!」
「洗濯頼むな」
ひらひらと手を振ってシャワー室に向かう。その後ろ姿に向かって、アルフィンが噛みついた。
「自分でランドリールームに持って行ってよ! もお、なんなの~」
とか何とか言いながら、ジョウの使ったタオルを胸の前でぎゅっと握り締める。
幸せそうだった。
……なんだかなあ。俺らもミミーに会いたくなっちまったな。
アルフィンとともにジムを出ながら、今夜ハイパーウエイブ通信で連絡とってみるかなと俺らはそんなことを思った。
END
⇒pixiv安達 薫
いい男は、汗もいい匂いのはず(笑)
お父さんにやられちゃってるところとか。
ジョウは熱血ヒーローぽくなくて、普通の青年っぽいところが魅力だなと。