<宇宙生物(うちゅうせいぶつ)がこの地球(ちきゅう)にやって来て四億(おく)年の歳月(さいげつ)が流(なが)れた。彼らは今もこの星(ほし)で観察(かんさつ)を続(つづ)けていて、人間(にんげん)たちがそのことに気づくことはなかった。だが、とうとうその時がやって来た。これは、虫(むし)好きのオタクが遭遇(そうぐう)した事件(じけん)である>
私は昆虫(こんちゅう)が大好(だいす)きだ。暇(ひま)さえあれば採集(さいしゅう)に出かけていた。そんな私が、家の近くの公園(こうえん)で新種(しんしゅ)の昆虫を発見(はっけん)した。だが、残念(ざんねん)なことに捕(つか)まえることができなかった。これは、最大(さいだい)の不覚(ふかく)だ。今まで数多(かずおお)くの昆虫採集をしてきた私が、肝心(かんじん)なところで失敗(しっぱい)するなんて…。きっと動揺(どうよう)していたからだ。新種を発見するなんて、これは奇跡(きせき)なのだから…。
落胆(らくたん)を引(ひ)きずって、私は家に帰った。今日はもう何もする気になれなかった。私はソファーに身体(からだ)を沈(しず)めてため息(いき)をついた。その時、なぜか視線(しせん)を感(かん)じだ。この部屋(へや)には私一人しかいないのに…。私は部屋を見回(みまわ)した。すると、なんということだ。あの…新種の昆虫がそこにいたのだ! なんでだ?! 私にくっついてきたのか?
私は、そいつと目が合った。おかしな話しだがそう感じたのだ。そもそも、どこが目なのかはっきりしないのだが…。ここで私はあることに気がついた。それは、身体が…動(うご)かないのだ。まるで、この身体が自分(じぶん)のものでなくなったようだ。頭(あたま)で動けと命令(めいれい)してもまるで手応(てごた)えがない。そいつは、少しずつ私に近づいてきた。どうしようというんだ?
恐怖(きょうふ)がむくむくと私の中にわき上がってくる。そいつは、目の前に迫(せま)ってきた。
<つぶやき>もしこんな遭遇をしてしまったら。もう受(う)け入れるしかないのでしょうか?
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その生(い)きものは、何の前触(まえぶ)れもなく現(あらわ)れた。そして、その姿(すがた)を見た人間(にんげん)たちはかわいいと感(かん)じてしまった。でも、それはその生きものの戦略(せんりゃく)だったのかもしれない。誰(だれ)もがその生きものを欲(ほ)しがった。所有欲(しょゆうよく)を掻(か)き立てられたのだ。その生きものは人間たちによって生存(せいぞん)が保証(ほしょう)された。そして、人間たちはその生きものの繁殖(はんしょく)に躍起(やっき)になった。何でも食(た)べるので誰にでも飼(か)うことができたし、増(ふ)やすのに特別(とくべつ)なことは何もなかった。
その生きものはどんどん増え続(つづ)けた。不思議(ふしぎ)なことに、ある時からその生きものはいろんな姿に変化(へんか)していった。これはもう進化(しんか)と言っていいのか…。姿を変えるたびに高値(たかね)で売(う)れていく。人間たちはますます繁殖にのめり込(こ)んでいった。そして、とうとうその時が来てしまったようだ。これは、その生きものの最終形態(さいしゅうけいたい)なのかもしれない。
しばらくして、どういうわけか各地(かくち)で失踪(しっそう)する人間が増え始(はじ)めた。周(まわ)りにいた人間たちは、金銭問題(きんせんもんだい)とか人間関係(にんげんかんけい)で悩(なや)んでいたとか、いろいろ憶測(おくそく)した。だが、どれも的外(まとはず)れのものだった。まさか、その生きものが関係しているとは誰も思わなかった。
最終形態まで行き着(つ)いたその生きものは、人間を食料(しょくりょう)として認識(にんしき)したのだ。人間から栄養(えいよう)をとるのが一番(いちばん)だと知ってしまった。そして、人間たちがそのことに気づいたとき、もはや手遅(ておく)れだった。人間たちがどうあがいても、その生きものをせん滅(めつ)するのが不可能(ふかのう)になっていた。ここから、長(なが)い長い戦(たたか)いが始まったのだ。
<つぶやき>これは宇宙(うちゅう)から来た生きものだったのでしょうか? 人間は生き残(のこ)れるのか。
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これは、とある夫婦(ふうふ)のお話だ。
妻(つま)が夫(おっと)に妊娠(にんしん)を告(つ)げると、夫はどこからか家政婦(かせいふ)を連(つ)れて来た。妻は心配(しんぱい)になって言った。
「そんなお金(かね)、どこにあるのよ。そこまでしなくても…」
夫は嬉(うれ)しそうに、「心配ないよ。ちょっと知り合いのつてで安(やす)くしてもらったから」
妻はしぶしぶ受(う)け入れた。ところが、この家政婦、どうやら夫の愛人(あいじん)のひとりのようだ。妻に隠(かく)れて、家の中で身体(からだ)を触(ふ)れ合ったり、みだらな振(ふ)る舞(ま)いをしていた。妻が出産(しゅっさん)をおえて赤(あか)ちゃんを連れて帰ってきた頃(ころ)には、夫は妻の目を気にすることがなくなっていた。これみよがしに、まるで夫婦になったかのように見えた。
妻は、育児(いくじ)の手伝(てつだ)いをしてくれるので、その家政婦には何も言えなかった。悪(わる)い人ではないのだ。夫への不信感(ふしんかん)も芽生(めば)えていたが、妻をないがしろにするわけでもなく、育児にも前向(まえむ)きで良(よ)きパパになっていた。でも…、これでいいのか?
妻は思い悩(なや)んで、夫とちゃんと話しをすることにした。でも、夫は…。
「何の不満(ふまん)があるんだよ。彼女がいてくれて、君(きみ)だって助(たす)かってるだろ。俺(おれ)だって、彼女にはずいぶん助けてもらってるんだ。クビにする理由(りゆう)がどこにあるんだ?」
「でも…、あなた。あの人と、そういう関係(かんけい)なんでしょ。あたしは…イヤなの」
「なに言ってるんだ? 君と彼女は二人でひとりなんだ。俺には必要(ひつよう)なんだよ」
<つぶやき>こんな夫は許(ゆる)しちゃダメだよ。けじめをつけさせて、お仕置(しお)きしちゃおう。
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ここは闇(やみ)のデパート。いろんな身体(からだ)が売(う)り買(か)いされていた。人の身体から心(こころ)だけを取り出すことが可能(かのう)になったので、こんな商売(しょうばい)が始(はじ)まったのだ。もちろん、これは非合法(ひごうほう)である。もし、警察(けいさつ)にバレたらただじゃ済(す)まない。だが、この場所(ばしょ)が見つかることはないだろう。
ある女が、ここにやって来た。どうやら初(はじ)めての客(きゃく)のようだ。店主(てんしゅ)は、その女の身体を品定(しなさだ)めするように見回(みまわ)した。なかなかの上物(じょうもの)である。
店主は言った。「どんな身体を、お探(さが)しですか?」
女はケースの中に入れられている身体を眺(なが)めながら、「そうねぇ、普通(ふつう)のでいいんだけど…。あんまり目立(めだ)たない感(かん)じがいいの」
「それは…」店主は愛想笑(あいそわら)いをして、「みなさん今(いま)より美しい身体を欲(ほ)しがるもんですがね」
「もう男にはこりごりなのよ。うんざりしてるの」
女が選(えら)んだのは、どこにでもいそうな顔立(かおだ)ちの中肉中背(ちゅうにくちゅうぜい)の平均的(へいきんてき)な身体だ。店主にしてみれば、それは売れ残(のこ)りの始末(しまつ)に困(こま)っていた商品(しょうひん)だった。まさか、上物と取り替(か)えることになるとは、これはぼろ儲(もう)けというものだ。店主は女に訊(き)いた。
「それで…代金(だいきん)なんだがね…」
女は即座(そくざ)に答えた。「もちろん無料(むりょう)でしょ。あたしの身体なら高く売れるんだから」
<つぶやき>もし、こんな世界(せかい)になってしまったら…。何だかちょっと怖(こわ)い気もします。
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彼女は、三年間付き合っていた彼から突然(とつぜん)、別(わか)れを告(つ)げられた。そろそろ結婚(けっこん)を考(かんが)えていた彼女にとって、それは思いもよらないことだった。だって、喧嘩(けんか)なんかしたことないし、別れる理由(りゆう)がまったく分からない。
彼女は意気消沈(いきしょうちん)してしまった。会社(かいしゃ)に行っても仕事(しごと)が手につかない。そして、ミスを連発(れんぱつ)してしまった。見かねた先輩(せんぱい)が手を貸(か)してくれて、事無(ことな)きを得(え)たのだが…。彼女はますます落(お)ち込んでしまった。
会社からの帰り道(みち)。彼女はふらっと本屋(ほんや)に立ち寄(よ)った。そこで彼女は何かに引(ひ)き寄せられるように、日記帳(にっきちょう)が並(なら)べられている棚(たな)の前で足(あし)を止めた。彼女には日記をつける習慣(しゅうかん)など無(な)かった。なぜそうしたのか分からないが、彼女は手にした日記帳を買(か)って家に帰った。
寝(ね)る前に、彼女は日記帳を開(ひら)いた。そして、彼とのことを思いつくままに書(か)きつづった。最後(さいご)には、彼に対(たい)しての恨(うら)みつらみを吐(は)き出していた。
翌日(よくじつ)、彼女は何だかスッキリした顔で出社(しゅっしゃ)した。彼とのことを知っている同僚(どうりょう)が、彼女を気づかって声をかけた。
「大丈夫(だいじょうぶ)なの? もう、あんな人のことなんて忘(わす)れちゃいなよ」
でも、彼女はきょとんとした顔(かお)で、「なにそれ? そんなことより――」
彼女は、彼のことなどすっかり忘れてしまったのか…。まるでなかったことのように、彼女の頭(あたま)の中から消(き)え去(さ)ってしまったようだ。
<つぶやき>こんな日記帳があれば…。でも、彼はなぜ別れを切り出したのか。気になる。
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