とある大企業の給湯室。女子社員たちが立ち話をしている。
綾乃「昨日の合コン、どうだったの?」
安江「それがね、みずきが…」
綾乃「えっ、みずきをよんだの? それじゃ、最悪だったでしょ。なんで彼女なんか…」
安江「だって、メンバーが足りなくて、仕方なかったのよ」
綾乃「で、今回は何やらかしたの? 前はたしか、相手の男、殴りつけて…」
安江「それが、すっごくおとなしかったの。まるで別人だったわ」
綾乃「ウソ。じゃ、相手の男、合格点だったのね。それでそれで、どうなったの?」
安江「別になにも…。店を出たら、そのまま一人で帰っちゃったから」
理恵「あの、私、見ちゃいました」
綾乃「理恵ちゃん、あなたも合コンに参加してたの?」
理恵「はい。先輩に、どうしてもって言われて…」
綾乃「もう、安江。彼女、まだ新人なんだから」
安江「それで、何を見たの? 教えなさいよ」
理恵「それが…。私、別に後をつけたわけじゃないんですよ。たまたま、帰る方向が…」
安江「いいわよ、そんなこと。本題に入りなさいよ」
理恵「はい。それが、男の人が待ってて…」
安江「えっ、合コンの男?」
理恵「いえ。それが、別の…」
綾乃「付き合ってる人、いたのね。知らなかったわ」
安江「みずきって、私生活は謎だらけだからね。それで、どんな男だったの?」
理恵「あの…。でも、こんなこと言っちゃっていいのかな…」
安江「何よ。ここまで言ってやめるつもり。許さないわよ」
綾乃「もう、そうやって新人をいじめないの。それで、知ってる人なの?」
理恵「はい。実は…、部長でした」
安江「部長!(急に声をひそめて)まさか、あの部長が? あり得ないでしょ」
綾乃「そうね。みずきのタイプじゃないわよ。だって、あの、まどぎわ部長よ」
安江「理恵ちゃん。あなたの見間違いじゃないの?」
理恵「そうでしょうか? 私、何だか自信が…」
年配の女子社員が入ってくる。
佐藤「あなたたちが知らないのも当然ね。今はまどぎわだけど、昔の部長はすごかったのよ。退社の時間になると、部長を目当てに女子社員がビルの外に集まったものよ」
安江「そんなことが…」
佐藤「このとこは、うち会社の伝説になっているから、覚えておきなさい。それと、みずきさん、部長の娘なのよ。でも、これは会社の極秘事項だから。もし誰かにしゃべったら、あなたたち会社から消されるわよ。気をつけなさい」
<つぶやき>会社には伝説や謎がつきものです。もしかしたら、あなたの会社にも…。
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どこだかわからない何もない空間。ひとりの男が歩いてくる。
中年男「ここは、どこだ? 俺は何でこんなところに…」
暗闇から、老人がぬっと現れる。
老人「あなたは死んだんですよ。交通事故でした。あっけなかったですね」
中年男「死んだ…。俺は、死んだのか?」
老人「そうですよ。これからあなたは、長い旅に出ることになります。出発の前に、ひとつだけ願いをかなえることができますが、何かありますか?」
中年男「願い? じゃあ、生き返らせてくれ。俺は、あんたよりも若い。まだ、やりたいことがいっぱいあるんだ!」
老人「それは、無理です。では、他になければ…」
中年男「だったら、妻に会わせてくれ! せめて、女房には別れを言っておきたい」
老人はにっこり笑ってうなずくと、あたりはまばゆい光に包まれた。光が消えると、男の目の前に中年の女が立っていた。
中年女「あなた、何で死んじゃったのよ。まだ、家のローン、残ってるのよ」
中年男(女の顔を覗き込み)「誰だ、あんたは?」
中年女「あら、いやだ。私の顔、忘れちゃったの? もう、なんて人なの」
中年男「芳恵なのか? お前、そんな顔、してたんだ。そう言えば、お前の顔、じっくり見たことなかった気がするな…。(間)今まで、ありがとう。これで、さよならだ」
中年女「(明るく)後は心配しないで。あなたの保険金で、何とかやりくりするから」
女はまばゆい光にかき消される。光が消えると、男の子が現れる。
男の子「おじちゃん、出発の時間だよ」
中年男「ちょっと、待ってくれ。もう一人だけ、会いたい人がいるんだ」
男の子「どうしようかな? 願い事はひとつしか…」
中年男「いいじゃないか。ちょっと、面倒みてる子がいてね。俺が急にいなくなると…」
男の子「おじちゃんの恋人だよね。でも、会わないほうがいいと思うけど…」
中年男「さよならを言うだけなんだ。すぐ、すむから…」
また、光に包まれる。今度は、若い女が姿を現す。
若い女「おじさん! お金、持ってきてくれた?」
中年男(女の顔を覗き込んで)「お前、誰だ?」
若い女「なんだ、違うの? 今日は、会う日じゃないでしょ。私、忙しいんだから…」
中年男「嘘だ。俺の知ってる子は、もっと、奇麗で、スタイルもよくて…。こんな、そばかす顔のジャージ女じゃない。胸だって、もっとこう…」
若い女「ばっかじゃないの。私が、おやじと本気で付き合うわけないでしょ」
あたりは光に包まれ、女は光とともに消える。暗闇から老人が現れる。
老人「もう、心残りはありませんね。さあ、これがあなたの歩く道ですよ」
老人が指差すと、どこまでも続く道が現れる。男は先のない道をとぼとぼと歩き出す。
<つぶやき>私は心残りが一杯ありすぎて、願い事はひとつでは足りません。きっと…。
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夜中、銃をかまえて部屋に忍び込んできた二人の殺し屋。
マック(声をひそめて)「お前、あっちの部屋を見てこい」
ガスはうなずき、そっと扉を開けて隣の部屋へ入る。
マック「何だ、この部屋は。まるで女の部屋じゃないか。そういう趣味でもあるのかな」
ガスが戻ってきて、部屋の扉を閉める。
ガス「誰も居なかったよ。あっちは、寝室だった。縫いぐるみとか、いっぱいあったよ」
マック「どうも変だ。ほんとにこの住所なのか?」
ガス「うん、間違いないよ。何度も、確認したんだ」
マック「それにしたって、どう見ても女の部屋だぞ。それも子供部屋みたいだ」
ガス「こういうの集めてるんじゃないのかい。えっと、コレクターとかいう…」
マック「殺し屋がこんなもの集めるわけないだろ。俺は、どうも最初から気にくわなかったんだ。同業者をやるなんて。何で、こんな仕事を引き受けたんだ?」
ガス「ごめんよ。でも、少しでもお金が入れば…。ここんとこ、仕事なかっただろ」
マック「まあいい。住所はここで間違いない。相手の男は殺し屋で、ジェーシーと呼ばれていて、少女趣味がある変態ってことだ。奴が帰って来るまで、待ち伏せしよう」
ガス「そうだね。それがいいよ」
寝室の扉が開き、寝間着姿の少女が出てくる。男たちがいるのに驚いて、逃げようとする少女。男たちはあわてて少女を押さえ込み、口をふさぐ。
マック「(ガスに)誰も居ないんじゃなかったのかよ」
ガス「あっ、ごめんよ。暗かったから…。居ないと思ったんだ」
マック「(少女に)落ち着け、何もしないよ。静かにしてれば、何もしない。いいか?」
少女はうなずく。二人は彼女をはなしてやる。
マック「悪かったな。ちょっとした手違いなんだ。俺たちは、部屋を間違えただけだ。いいか、俺たちのことは忘れてくれ。そうしないと、あんたを消さなきゃいけなくなる」
ガス「(マックに)これから、どうするんだい?」
マック「もう、やめた。この仕事は断る」
ガス「でも、そんなことしたら、俺たちが消されちゃうよ」
マック「そんときは、二人して逃げようぜ。もう、汐時かもな」
ジェシカ「助けてあげようか? 私が逃がしてあげる」
マック「なに言ってるんだ。お嬢さんにそんなこと出来ないよ」
ジェシカ「それはどうかしら。私、ジェーシー。同業者みたいね。よろしく」
ガス「えっ! あんたが、殺し屋? 信じられないよ」
ジェシカ「実はね、私もやめたいと思ってたんだ。一緒に逃げてくれない。いいでしょ?」
マック「まあ、かまわないけど。それにしても、何だって殺し屋なんかに?」
ジェシカ「それを話してると、朝になっちゃうわ」
ガス「大丈夫だよ。これから話す時間はたっぷりあるさ」
三人はくすくすと笑う。ジェシカは急いで荷造りを始め、男たちもそれを手伝う。
<つぶやき>世の中には、いろんな職業があるんですね。でも、命は大切にして下さい。
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とある落ち目の作家の書斎。新米の編集者がはりついている。
先生「うーん。あーぁ。んがーぁ……。だめだ、書けない。(編集者に)君ね、ちょっと向こうに行っててくれないか。どうも、気が散っていけない」
編集者「だめです。僕が離れたすきに、逃げようとしてるでしょう。今度はだまされませんよ。今日が締切なんですから、がんばって書いて下さいよ」
先生「そうは言うけどね、書けないものは書けないよ」
編集者「お願いします。今日、原稿を持って帰らないと、編集長に何て言われるか」
先生「そうね。でも、まあ、クビにはならんだろう。君、知ってるかね。あの編集長の武勇伝。彼女はね、ああ見えても、柔術の達人でね」
編集者「先生。この間は、大和撫子で日本女性の鏡だって言ってませんでしたか?」
先生「えっ、そんなこと言ったかな。そうか、大和撫子で柔術の達人なんだよ」
編集者「もう、いいですから。早く原稿を書いて下さい」
先生「せっかちだね。そんなだから、彼女に嫌われるんだよ」
編集者「そんなことないですよ。彼女とは…」
先生「うまくいってるの?」
編集者「それは、まあ、それなりに…」
先生「はっきりしないねぇ。ほら、この間の誕生日。私の言った通りにしたんだろ。(間)しなかったの? だめだよ、君。女性にとって誕生日とは、一種のバロメーターなんだよ。相手の男を査定してるんだ。だからこそ、男はそこに勝負を賭けなきゃ」
編集者「しましたよ。先生の言った通りに…」
先生「そうか。それで、どうだったんだ?(間)もう、じれったいなぁ。はっきりしない男は嫌われるぞ」
編集者「でも、何で彼女の誕生日に、禅寺で半日コースの修業をするんですか?」
先生「あの禅寺は良かっただろ。心身ともに鍛えられて。あそこの半日コースはな、お勧めなんだよ。値段も手頃だしな。君の彼女も喜んだろ」
編集者「どうかな。でも、僕はつらかったですよ。もう、足はしびれるし…」
先生「だめだよ。彼女の前でそんな弱音を吐いちゃ」
編集者「でも、先生。最後のホテルっていうのは、どうなんですか?」
先生「良かっただろ、あのホテル。あそこのディナーは最高なんだよ」
編集者「それ、いつの話ですか? 僕たちが行ってみたら、ラブホになってましたけど」
先生「えっ? そうなの。うふ、うふふ…。良かったじゃない。盛り上がっただろ」
編集者「それどころか、ひかれちゃいましたよ。彼女、そのまま帰っちゃって…」
先生「そうなの。君の彼女は奥手なんだねぇ。そうだ。これを書いてみるかな」
編集者「ちょっと、やめて下さいよ。変なこと書かないで下さい」
先生「大丈夫だよ。君のことだとは分からないさ。それとも、原稿できなくても…」
編集者「もう。先生、まさか原稿のネタがほしくて、僕にあんなことさせたんですか?」
先生は含み笑いをして、原稿用紙に向かいペンを走らせた。
<つぶやき>書けない時には、ちょっとした息抜きの充電が必要なんでしょうね。
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とある大企業の備品倉庫。地階の奥まったところにあるので、めったに人は来ない。会社の制服を着た女性が縛られている。それを取り囲む男たち。
明日香「あの、私、いつまでここに…」
兄貴「今、考えてるんだよ。静かにしてろ」
ふとっちょ「アニキ、もう帰ろうよ。オイラ、腹へって…」
兄貴「何だと。もとはといえば、お前の、がせネタのせいでこうなったんだろうが」
ちょろ「こうなったら、この女、かっさらって、そんで、売り飛ばして…」
兄貴「ばか野郎。俺たちはな、落ちぶれたとはいっても、由緒ある窃盗団なんだぞ」
ちょろ「だってよ、このままじゃ、金になんないし。それにこの女、結構、上玉だぜ」
明日香「あの、ちょっといいですか?」
ちょろ「うるせえな。おめえは黙ってろよ」
明日香「でも、私、思いついたんですけど…」
兄貴「やっと機密情報のことを話す気になったのか? もし、そうじゃなかったら…」
明日香「ごめんなさい。本当に知らないんです。でも、その人、私がすごいもの持ってるって言ったんですよね?」
ふとっちょ「そうだよ。なんかぁ、誰も真似できないんだって」
兄貴「おい、ちょっと待てよ。そんなこと聞いてねえぞ」
ふとっちょ「だって、兄貴、最後まで聞いてくれなかったじゃないか」
兄貴「よし、わかった。じゃあ、聞いてやるよ。ほら、話せよ。話せって、話せ!」
ふとっちょ「そんな、せかされるとさ。えっと…、あの…」
兄貴「その情報屋、どこのどいつだ。えっ? いくら払ったんだ?」
ふとっちょ「払ってないよ。だって、俺、そんな金、持ってないしね」
兄貴「おい、おい、おい。信じられねえよなぁ…」
ちょろ「ほら、どんな奴だか言ってみろ。俺が見つけだして、ボコボコにしてやるからよ」
ふとっちょ「知らないよ。この近くの、屋台で話してたの聞いただけで…」
兄貴「聞いただけって何だよ。それじゃ、何か、酔っぱらいのたわごとかよ」
ふとっちょ「うん、そうだよ。それを、兄貴が…」
兄貴「もういい! 何も言うな。もう、聞きたくない」
明日香「それ、たぶん、この会社の人たちです。きっと、そうだと思います」
兄貴「おい、ほどいてやれ。もう、やめた。バカバカしい」
ふとっちょ「いいのかい? わかった」
ふとっちょ、明日香の縄をほどいてやる。
兄貴(明日香に)「ほら、もう行ってもいいぞ」
明日香「ありがとうございます」
兄貴「あ、そうだ。さっき、何か言いかけてたよな?」
明日香「私、人の顔をすぐ覚えちゃうんです。それに、似顔絵も得意なんですよ」
明日香、ほっとした顔で出て行く。男たち顔を見合わせて、慌てて追いかけていく。
<つぶやき>果たして彼女は逃げられたんでしょうか? 言葉には気をつけましょう。
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