みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0012「ラブレター」

2025-01-23 16:48:37 | 読切物語

 山田君へ。突然こんな手紙を書いてしまって、ごめんなさい。
 私が廊下で転んでプリントをばらまいてしまったとき、山田君は一緒に集めてくれたよね。あのとき、私、ちゃんとお礼も言えなくて。山田君は、そんなこともう忘れているかもしれないけど。私は、ずっと後悔してて。なんで、ちゃんとありがとうって言わなかったんだろう。ちゃんと言ってれば…。
 私、山田君と同じクラスになったときから、山田君のことがずっと気になってて。でも、声をかけることが出来なくて。この手紙を書くのだって、ずっと迷ってて。友達に相談したらね、ちゃんと告白した方がいいって言われたの。それで、私、決めたの。
 私、山田君のことが好きです。山田君は、他に好きな人がいるかもしれないけど、それでもいいの。私の片思いでもいい。こんな気持ちになったのは初めてで、自分でもどうしたらいいのか分からないんだ。今もドキドキしてる。でも、なんだか心の中がほわっとしてて、あったかいの。今まで悩んでいたことが、どっかへ行っちゃった。
 あのときは助けてくれて、ほんとにありがとう。もし、私のこと好きじゃなかったら、好きになれなかったら、この手紙は捨ててください。

「ねえ、あなた。さっきから何やってるの。そんなんじゃ、ちっとも片付かないでしょ」
「ちょっとね、昔の手紙を見つけてさ」
「もう、今日中にやらないと、あさっての引っ越しに間に合わないでしょ」
「ごめん。でも、懐かしくてさ。きみ、これ覚えてる?」
 男は女に色あせた手紙を手渡した。女はそれを手に取ると、「なに、これ?」
「何だよ。覚えてないの? ほら、学生のとき、きみが僕に…」
「知らないわよ。私、手紙なんか書いたことないし」
「えっ、そうだった?」
「もしかして、これラブレター?」女が手紙を読もうとしたので男は慌てて、
「駄目だって…」
 男は女から手紙を取り上げようとするが、女は逃げまわりながら、
「ねえ、誰からもらったのよ。白状しなさい」
「だから、きみからだと…」男はなんとか手紙を取り戻して、「よっしゃ!」
「もう、子供なんだから」女は悔しそうに言うと、「ほんとに覚えてないの?」
「うん」男は手紙をかざして、「名前も書いてないし。ほんとにきみじゃないの?」
「私は知ーらない。ねえ、そんなことより、あなたのガラクタなんとかしてよ」
「ガラクタって。あれは、僕の大切なコレクションなの」
「そうですか。あなたが片付けないと、私、明日の不燃ゴミに出しちゃうわよ」
「やめてくれよ」男はそう言うと自分の部屋に駆け込んだ。
「まだ持ってたなんて…」女は男が置き忘れていった手紙を手に取ると、懐かしそうにつぶやいた。「でも、これは、私が預かりますからね」
<つぶやき>初恋は青春の思い出。心のどこかに隠れてて、時々現れては消えていく。
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0011「同化」

2024-12-15 16:33:08 | 読切物語

 その研究室は大学構内の奥まった場所にあった。そこへ行くためには、迷路のような通路を通り、いくつもの扉を抜けないとたどり着くことはできない。大学関係者ですら、この研究室にたどり着けた者は数えるほどしかいなかった。そんなわけだから、学生でこの研究室の存在を知る者など、全くと言っていいほどいなかった。
 この研究室では、ある実験が行われていた。それは、いろいろな物を掛け合わせて、新しい物を作り出すというものだ。教授はこの実験を何十年も続けていた。
 ある日、教授は研究室の前まで来て驚いた。部屋の中から美味しそうな匂いが漂ってくるのだ。研究室に入ってみると、助手のかえでが机の上にたくさんの料理を並べ、昼食を取っていた。
「君は、何をしているのかね?」教授は驚いた顔で助手に尋ねた。
「すいません」かえでは申し訳なさそうに、「食堂まで行くのがめんどうなので、つい…」
 かえでは偶然この研究室に迷い込んできた学生で、どういうわけか教授のことが気に入ってしまい、押しかけ助手として研究の手伝いをしていた。
「それにしても」教授は机に並んだ料理を見て、「どうやってこんなに作ったのかね?」
「ほんとに、すいません」かえでは深々と頭を下げると、「実は、あの装置を使ったんです」
「装置を?」教授は研究室の一角を占領している機械の塊を見て、「まさか君、この装置で料理を作ったのかね? 信じられない。そんな使い方ができるわけがない」
「でも、教授。それができちゃったんです」かえではそう言うと、まだ残っていたジャガイモや豚肉などの食材と調味料を容器の中に入れると、装置のボックスにセットした。
「えっと、これでパワーを弱にして…」かえでは装置のスタートボタンを押した。
 装置はぶうぉーんと音を響かせて動き出した。しばらくすると、ボックスから白い煙が立ち上がった。それを合図に、かえでは装置のスイッチを切った。そして、ボックスの扉を開ける。中から出てきたものは、肉じゃがだった。
「でも、難点は…」かえでは肉じゃがを机の方に運びながら、「どんな料理になるのか、わからないことです。同じ材料を入れても、同じ料理ができるとは限らないんです」
「これは、たまげたな」教授はそう言うと、容器の中で湯気を立てている肉じゃがを、まじまじと見つめた。
「食べてみますか?」かえではそう言うと、教授に大きなスプーンを手渡した。
 教授は恐る恐る口にした。その瞬間、教授の顔色が変わり、目から大粒の涙がこぼれた。かえでは教授の変わりように驚いて、急いで出来たての肉じゃがを口にしてみた。
「…まずい! 何で、これだけ。他の料理はとっても美味しいのに」
「これは、妻の味だ。私の妻は、どういうわけか、肉じゃがだけがまずくてね」
「妻って、あの、教授の、行方不明になっている…」
「そうだ。もう、二十年になる。私と一緒に研究してたんだが、この研究室で事故があってね。それ以来、行方がわからなくなっていたんだ。だが、とうとう見つけた。あいつは、この装置と同化していたんだ。ずっと、私のそばにいてくれたんだよ」
<つぶやき>愛する人のことを思い続けることができるなんて、素敵なことですね。
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0010「仕事と恋」

2024-11-18 16:44:00 | 読切物語

「何でそんなこと言うの? 約束したじゃない! ずっと一緒にいるって」
 涼子は電話口で声を荒らげた。電話相手の彼とは、もう三年の付き合いになる。ここ数ヶ月はお互いの仕事が忙しく、なかなか逢うことが出来なかった。それに、電話も夜遅くしか出来ないので、長話をするわけにもいかなかった。涼子は淋しい思いを我慢していた。
 だから、今日はまだ早い時間なのに彼から電話がかかってきて、涼子は飛び上がらんばかりに喜んだ。それが、まさかこんな事になるなんて、夢にも思わなかった。
「どういうことよ。はっきり言ってよ」
 涼子の声は震えていた。相手の話を身動きもせずに聞いていたが、
「分かんないよ! 仕事がそんなに大切なの。……そりゃ、私だって、仕事が忙しくて、急に逢えなくなったときあったけど…」涼子の目から、一筋の涙がこぼれた。
「ねえ、どうしてもだめなの。離れたくないよ。ずっと一緒にいようよ」
 彼は涼子が泣いているのに気づいたのか、
「泣いてなんかいないわよ。楽しみにしてたんだから。それなのに…」
 彼女は、自分が無茶なことを言っているのはわかっていた。でも、許せなかった。
「……延期?! 何でよ、あなたから言いだしたのよ。それを…。簡単に言わないで!」
 涼子はしばらく、無言で彼の話を聞いていた。しかし、
「わがまま? 何それ! 私、わがままなの? 私が、この日のためにどれだけ…」
 彼の方も、声を荒げて、何かしきりにしゃべりはじめた。こうなると、お互い相手の話など耳に入らない。自分のことしか、考えられなくなっていた。とうとう彼女は、
「もういいよ! 私一人で行くから。一人で泊まって、2人分、ご馳走食べてやる!」
 彼女はそのまま電話を切ってしまった。本当に腹が立った。彼女は怒りをぶつけるように、そばにあったクッションを電話に投げつけた。
 しばらくして、気がおさまると、今度は後悔の念が嵐のように襲いかかってきた。
「ああ…、何であんなこと言っちゃたのかな。どうしよう…」彼女は電話に手を伸ばした。でも、途中で思いとどまって、「何で、私から…。悪いのは、あの人なんだから…。大丈夫よ…。向こうからきっと電話してくるはず」
 涼子は待った。五分、十分、二十分…。でも、いくら待っても電話はかかってこなかった。彼女は不安になってきた。いろいろな想像が、頭を駆けめぐる。
「もしかして、私、嫌われたの? でも、悪いのあの人よ。でも…。まさか…、他に好きな人が…。いいえ、そんなことあるわけない。でも…。違う、仕事が忙しいから会えなかったのよ。私以外の人とそんな…」
 その時、突然電話が鳴り出した。涼子は、思わず電話に飛びついた。
「はい……。なんだぁ、愛子なの…」それは、涼子の親友からの電話だった。
 久し振りに親友の声を聞いてほっとした涼子は、それから話し込んでしまった。電話を切ったときには、もう十二時を過ぎていた。
「あれ、私、何してたんだっけ…。あっ、もうこんな時間。早く寝なきゃ」
<つぶやき>仕事と恋の両立は難しい。どっちも大切ですから。明日、仲直りしましょう。
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0009「運命の赤い糸」

2024-10-21 16:38:45 | 読切物語

「まだそんなこと信じてるのか?」と英太は呆れ顔で言った。
「いいでしょ」さよりは口をとがらせて、「私の子供の頃からの夢なんだから」
「おい!」と後ろから突然声がして、哲也が二人の間に割って入った。「おまえらな、さっきから呼んでるのに、気づけよな。で、なに楽しそうに話してたんだよ」
「別にたいしたことじゃないけどさ」英太はにやにやしながら、「こいつが…」
「ちょっと」すかさずさよりが話を断ち切り、「余計なこと言わないで。もし、しゃべったら、ほんとに怒るからね」そう言って、さよりはぷいっと走り去った。
 さよりを見送った英太は、ちょっとした悪戯を思いついた。それは、さよりの夢をかなえてやること。哲也を巻き込んで、極秘作戦がスタートした。
 日曜の朝。鳥かごを抱えた哲也は、英太の部屋に入るなりつぶやいた。
「なあ、ほんとにまずいよ。もし、姉ちゃんにばれたら、俺、殺されるから…」
「心配すんなって。どうせ姉ちゃん、仕事でいつ帰ってくるかわかんないんだろ。大丈夫だって。ちょっと、塗るだけだよ」そう言うと、英太は青いマジックを取り出した。
「ちょっ、待てよ!」驚いた哲也は英太の腕をつかんで、「マジックじゃ、消えないだろ」
「だって、白い文鳥じゃ意味ないじゃん。この作戦には青い鳥が必要なんだ」
「いや、そう言うことじゃなくて…。もし、ピー子に何かあったら…」
 哲也の心配をよそに、英太はピー子をまだらな青い鳥に塗り替えた。
 その日のうちに、英太はさよりを近くの海岸に呼び出した。砂浜は人もまばらで、さよりを見つけるのは簡単だった。岩陰で待ち伏せしていた二人は、速やかに作戦を実行した。
「ねえ、こんなとこに呼び出して、話ってなによ?」さよりはわざと迷惑そうに言った。でも、急に呼び出されたのに、しっかりおしゃれをして来たことは誰が見てもわかった。
「あの、実は…」英太はそう言いながら、後ろ手で哲也に合図を送った。哲也は赤い糸を鳥の足に結びつけるのに手間取ったが、慌ててピー子を放した。ところが、逆の方向に飛んで行ったピー子を見て、哲也は思わず立ち上がり、「ああっ!」と叫んでしまった。
 ピー子はぐるりと旋回すると、さよりに向かって飛んできた。さよりはそれを見てすべてを理解した。哲也は慌ててピー子を追いかける。赤い糸がひらひらと宙を舞っていた。
 三人はピー子を捕まえようと、砂浜を走り回った。ピー子は英太の手をすり抜けて、さよりの肩に止まった。英太の腕には赤い糸が絡みついていた。
 その時、突然女性の叫び声が聞こえた。その女性の姿を見た哲也は、震え上がり腰を抜かした。さよりの肩に止まっていたピー子は、赤い糸を器用にほどいて飼い主の方へ飛んで行った。そして、それを追いかけるように、鳥かごを抱えた哲也も走り去った。
 砂浜に残された英太とさよりは、しばし見つめ合い…。さよりは赤い糸を巻き取りながら英太に近づいて、にっこり微笑んだ。次の瞬間、さよりの平手が空を切った。
 次の日。哲也の顔には何枚も絆創膏が貼られていた。英太とさよりは、昨日のことが嘘のようにいつも通りだ。でも、さよりの筆箱には、昨日の赤い糸が大切に入れられていた。
<つぶやき>子供の頃のたわいない夢。でも、その夢を忘れなかった人は、幸せかもね。
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0008「女の切り札」

2024-09-26 17:27:42 | 読切物語

 純子は一人、部屋でパソコンとにらめっこをしていた。彼女はフリーのライターをしているのだが、締切が間近に迫っていてあせっていた。今、彼女の頭の中は完全に煮詰まっていて、昨夜から一睡もしていないのだ。こんな時、彼女は豹変する。
「ただいまぁ…」夫の隆が残業を終えて、静かにドアを開けて帰ってくる。
 この二人、最近結婚したばかりなのだが、彼女の仕事が立て込んでいて、いまだに新婚生活を味わっていなかった。この部屋も彼女が引っ越しが面倒だと言うので、彼の方から越してきたのだ。でも、隆は満足していた。だって、彼が住んでいた部屋より、こっちの方が断然広いのだ。
 彼は純子の仕事について理解しているつもりだった。でも、一緒に住んでみて、その大変さに驚いた。だから、彼女が仕事に没頭しているときは、家事のほとんどを彼が担当することになった。
 今日も仕事中に彼の携帯が鳴り、夜食の買い物を言いつけられた。でも、彼はそれを嫌がることはなかった。隆は純子のことを愛していたし、大切に思っていたのだ。
 彼は純子の仕事部屋をちらっとのぞいてから、キッチンへ向かった。テーブルの上にエコバッグを置き、流しを見て驚いた。昼食の残骸が無残にも投げ込まれていたのだ。
 彼はため息をついた。その時、突然後ろから声がした。「何なのこれ?」
 隆が振り返ると、穴蔵から抜け出したような、うつろな目をした純子がエコバッグからカップ麺を取り出していた。その目には、ただならぬものが感じられた。
「私は醤油味を頼んだのよ。何でとんこつ味を買ってくるの?」
「だって、ちょうど売り切れてたから」隆はヤカンに水を入れながら答えた。
「私は今、醤油味を食べたいの。それ以外あり得ないから」
「いいじゃない。これだって美味しいって、このあいだ…」
「そりゃ、とんこつも美味しいわよ。でも、今は醤油なの。醤油味を食べたいの!」
「そんなのいいじゃん。美味しけりゃ、同じだって」隆は無頓着な人間のようだ。
「買ってきて」純子はエコバッグを隆に突きつけて、「今すぐ買ってきて!」
 隆は純子のわがままには慣れっこになっていた。でも、何故か今日はぷつっと切れた。
「お前な、いい加減にしろよ! 前から言いたかったんだけど…」
「なによ」純子は動じる様子もなく、彼を睨みつけた。隆は一瞬ひるんだが、
「前から言いたかったんだけど…、朝食の目玉焼きに醤油なんかかけるなよ。目玉焼きはケチャップだろ。僕がせっかく美味しく作ってるのに…」
「なに言ってるの」純子は鼻で笑って、「目玉焼きは醤油じゃない。常識でしょ。それより、早く行ってよ。15分だけ待っててあげる。もし、ちょっとでも遅れたら、もうこの部屋には二度と入れないから」
「何だよ…」隆は背筋に冷たいものが走るのを感じた。今の彼女は何をするかわからない。
「分かった。行ってきまーす」隆はそう言うと、部屋から飛び出していった。
<つぶやき>隆、負けるな。いつかきっと、報われる時が来るから。たぶん…。
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