しかし誰かさんは小物なのか、ってサブタイトルとどっちにしようかと思ったのですがはちみつレモンっていきなり出て来た方が?でいいかなあ、と。
はちみつレモンの話ちょっとだけですけどね。言葉がこっちのが面白いので。
では続きでどうぞ。
とある演劇サークルの記三章め はちみつレモンの恨み
「うーん、全部当たった役が感情移入できん役ばっかりとは…」
台本の読みを三回ばかりやってまだウニャウニャ言っている円城である。
「なんか青い炎かなんかでも読んで少年犯罪研究したんじゃなかったんですか?」
と、横からからかう調子で渋谷が言う。
「あれ、結構頑張って読んだもののやっぱようわからんのよなあ…」
「でも円城さんの荒谷君、だいぶそれっぽくなって来ましたよ?」
みんなで丸く座っている向かいっ側でうーさんがさりげなくフォローする。本当?と一瞬喜んだものの、顔を曇らせる円城。でもなんか違うんだよなあ。要するにまだ掴めていないのである。
「そんなに気負わずにいっそさらっと演じた方がいいかもしれないわね。ちょっと力みすぎって言うか」渋谷の反対側の繭子がそれこそさらっと、いう。
「その「さらっと」ができたら苦労せんって言うの。「さらっと」が一番難しいんだからな。ああ、演技してない演技とか言われたい…!!」
「あれって結局一番の褒め言葉よね」
「よねー」「だね」と、一同頷きあう。
「さすがに小夜香さんのキラーワーズははまり役だけどね」
そりゃあ、本人役だもんなあ。と、円城はため息をつく。
「結構繭子さんの麗花役もうまいって言うか。意外だった」と、渋谷。
「でもさりちゃん、もうちょっとなんて言うか、おとなしくならないかな。すぐ噛み付いて来そうだよ、その草下さん」
「だっておとなしくいじめられる気持ちなんて全然わからないんですもん!あんまり一発殴り返す気分になるもんだから」
シロの言葉にそれこそ噛み付いて返すさり。
「でも草下さんは意外とそれでよくない?あの子ちょっと気が強めって言うか」
「かなあ…でもあんまり強く演じると矢吹君も助ける気が無くなるんじゃないの。どうですか、矢吹渋谷君」
よ、よけいなお世話だっ!!と怒りつつも実力不足から黙ってしまうさりに、シロは頷く。
その横で話を振られた渋谷が肩をすくめる。
「そうそう、そう言うの。そう言う感じの、それをもうちょっと「しゅん」って感じにさせたらちょっと草下さんっぽくなるんじゃない?」
「え、あ?そうかな。ちょっと感じ掴んだ?」
え、でもちょっと待って。感じを掴むためにはこうやってシロさんにからかわれなきゃいけないの?ちょっとやめてよ、とさりは気づいてむくー、と膨れる。
「円城さんもはちみつレモンの恨みがあるからもうちょっとつついてもいいかな」
「ん、なんだそれ」
いきなりはちみつレモンとか言われても記憶にございません。
「ああ、あれは作中時間で言ったら一章目の語り手が詳細な記録をパスった時間のことでした。うーさんがはちみつレモン作って来ただろ」
「んん?そだっけ」
何せ語り手が記録してないので話にならない。
「役者陣ばっかりがっついて食べて、照明と音響(俺たち)には当たらなかったんだぞ、あれ」
「あー…うん、あれはうまかった」
美味しかったね、と頷きあう一同。いや、特に円城が一番がっついていたと言うわけでなく、一番最初に渡されたのが円城だと言う話なだけなのだが。
「でも音響さんや照明さんはそんなに動かないんだから役者陣が食べるのは当たり前じゃない?」
と、小夜香が控えめにシロの大人気なさを主張する。
「それにあの頃まだシロさんうーさんと付き合ってなかったじゃないの」藤村もフォローする。
次々とブツブツ言う一同。
「ま、まあ大人気ないのは確かだけど、音響は怨霊だから実質人間で当たってないのは俺だけだったじゃないか。なあ、うーさん」
「今度個人的に作ってあげますよ、もう」
はあ、やれやれ、みたいな大きなため息をつくうーさんだった。
「な、なんでだよー」
と言うが今じろっと睨んでる役者の方が数が多いので勝ち目がない。
「んじゃ、うーさんはみんなの演技のどこが気になるの?」
話をそらそうとしたシロの言葉に、うーさんは言いたいことにふと詰まる。
「んと、そうですね…んーと、藤村さんの霞さん役がちょっと大物すぎるかなあと」
え、とみんなで顔を見合わせる。気になりポイント、そこなの?ざわざわとしていると。
「え、なんで?」
「だっていじめっ子があんまりラスボスっぽかったらいじめられてるのもちょっと納得しちゃいません?ちょっと小物ないじめっ子の方が実質的にはむかっとしますよ」
あ、ああ、そうかなあ、と相変わらずざわざわする一同。
「それにその方が数でもの言わされてる感も出るし、感情のリアリティも出ます」
「う、うーん、なるほど。うーさんのが大人だ」
納得して頷くシロ。
俺が天使や悪魔や言ってたら彼女に勝てないな、こりゃ。ちょっと天使モードに徹しとこ。
「あ、そうそう。円城さん。青い炎とか読んで研究するなら漫画版もよくないですか。顔の作り方とか研究したら」渋谷がちょっと訪れた沈黙を破っていった。
「そうだな。顔から変えんといかんよなあ…」
「そうね、円城君すぐ顔が緩むものね…」真剣に繭子が言う。
「まあ今回は台本がありものな分時間あるし、みんな頑張ろう」
読みを3回もやっていい時間になって来たので、円城がそうまとめた。
「あー。結局口出す係りのが楽ね!私も次は裏方回ろうかなあ…!」
やけじみたさりの言葉に、みんながまあまあまあ、となだめにかかる。
「そんなこと言ったって、さりちゃん役者だもの」
「う、うん、まあね」
うーさんの言葉に、さりは気を良くして笑った。
…うーさん、本当にさりちゃんの扱い、心得てるよなあ…。と一同感心するのだった。
ってか、転がされとるよな、さりちゃん…。ああ、とみんなため息。
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