にざかな酒店

疲れ探偵、同調

というわけで、結構ありがちな感じではありますが、あんまりいろんなものオススメされて人の色に染まっちゃうことに拒否反応示しちゃった女の子、的な。
もうちょっとパワハラ的に会社の先輩とかにオススメされまくる男子社員でもよかった気はするのですが、ちょっと描きたい意味合いが違ってきちゃうので女の子の方に。
あと、初めて疲れ探偵の収入源が明らかになりました。

あ、あと、この話で言ってる本はクラフトエヴィング商會プレゼンツの本で、実際にある本です。だいぶ古い本ですが、かなりお気に入り。
疲れ探偵 同調

高校入学して、初めて友達ができた。美人だが一風変わった友達だ。
何が変わってるって、趣味が結構変わっている。
漫画が好きとか言いつつ、今流行りの漫画には目もくれず、絵本的な漫画を読んだりかと思ったら妙なホラーを読んでたり。おっちゃんが歌うようなフォークソングをよく聞いてたり。綺麗な絵だったら日本画でも洋画でもなんでも好きだと言ってたり。
はじめの方は、いいなあと思っていた。自分にない世界を持っている友達。
でも…

あれいいよ。
あれも、結構私、好きな音だな。
綺麗な絵は心癒されるよね。あなたもあの番組聞いてごらんよ。
あなたもーーーー。

いい加減にして。
私はあなたじゃない。
あなたじゃないんだってば。

気がつくと、スーパーの包丁売り場で輝く刃を見ていた。包丁。
「君」
声をかけられて振り向く、と、知らない男の人だ。
「ああ、ごめん、ちょっと包丁見る目が危なかった気がしたものだから。」
ああ、彼には、お見通しなんだ。と、私はなぜか思い。
目から涙が溢れ出した。
「わ、私…」
お見通しなくせに、彼はなぜかびっくりしてこっちを見ている。気のせいか、だいぶおどおどとしているような。
「な、何をそんなに思い詰めてるんだい?っていうか、こんなところで泣いたりなんかしたら」
「あー、また、探偵さん女の子泣かして。何したんだい」
いつものスーパーの主みたいなおばちゃんがいう言葉に、私は思わず一瞬泣き止んだ。
「探偵さん…?」
「そうだよ、この人有名なんだから。何もしてないのに事件が集まるってね。ろくに推理もしないのに」
バシッ、とおばちゃんは探偵さんを叩く。
「だから、事件の探偵は本業じゃないんだってば。」
疲れた声で、探偵さんはいう。
「それより、どういうことか説明してもらえるかな?」と、私の方を向いた探偵さんに、おばちゃんはどっしりした声でいう。
「あー、ここじゃやめてよね。他のお客さんに迷惑だから。一階の食料品売り場でパンでも買ってイートインで話して」
「ええ?」探偵さんは嫌そうだが、おばちゃんには勝てない様子で押し切られた。
「しょうがないなあ、とに、もう。」
とりあえず一階に行くよう勧められたが、状況を話すかどうか、私は迷っていた。
そこまで、本気で殺害とか考えてた?本当に?自分でもよくわからない。
「あ、あの、いいんです…別に、そんな大したことでもないし、話せば簡単なことなんで」
「ん?」
「単に、友達が趣味を色々教えてくれるのに、なんかそのせいで自分がなくなっていく気がしたっていう、それだけで」
ふむ、と彼は一息入れて、考えた。
「ああ、だったら君は本業の方のお客さんになるかな。本屋で本を見繕ってあげるから、好きなの買って見るといい。ちょっと本の選び方とかも教えてあげるから、自分の文化を育てるといいよ。そういう話だろ?」
思わず耳まで熱くなってしまった。私は、自分の文化を持ってない。それだけの話だったのか。
「その子に負けないくらい、自分で色々好きなもの探して見るといい。僕は本業は本の探偵だから、そういう面では力になれると思うな。」
疲れた声だけど、表情には少し温かみがあった。
「本の探偵、って…?」
「君にするみたいに読みそうな本を見繕ってあげたり、動けない人に本を持って言ったり尋ねられた作家の過去作品やインタビューの記事を調べたり。意外とすることはあるんだよ」
これだけでも、だいぶネタにはなりそうな話である。
「初回だから、見繕ってあげるのはただにしてあげるけど、本は自分で買って見て。見知らぬ女子高生に本まで奢ったら援助交際みたいで気持ち悪いから。」
うーん、それは考えすぎじゃないかなあ…。
まあ、でも。
「ありがとう、探偵さん」
いえいえ、と、彼は頷いて、そして、この件は心の奥にしまわれた。

探偵さんの選んでくれた本は、童話のような、日常の話だった。
アップルパイを焼く親子の元に乱入してきた黒猫に、黒猫を判別するためのシナモンのシールを首輪につける、そして、そのシナモンのシールをみたスパイスメーカーの人がそれらしい童話をシナモンの宣伝につける、みたいな感じでみんなが巡っていく話。
でも、私はうっかり笑ってしまった。
探偵さん、これ、シリーズ物の二巻目じゃん。
古本屋で見繕ってくれたとはいえ、ちょっとまじめな人だったら怒るよ。
「ミルリトン探偵局、かあ。」
続き、探そうかな。彼女はこの本、なんていうだろう。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「ネタ、小説」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事