にざかな酒店

反転の殺戮第二話

なんか、もはや元のバージョン影も形もないような気がする第二話。
ちなみに、この信野紅亜(しなのくれあ)さんっていうのは、ブラッディストのあのキャラの刻停間版です。
実は研究所の人はオリキャラに珍しいメガネ男子のはずだったんですが、うっかり脇役の男子キャラが多くなってきたのでこれはまずい、と急遽彼女に登場いただきました。
実は出てこないかもですが、エルムもちゃんと刻停間世界にはいるという設定です。まる。

うっかり、挿絵描いてたのにはさむのを忘れてました。
今回挿絵っぽいのは話の扉と同じでその話のかきたいところを描くという風になってます。
っていうか、今回絵が無いと意味が無いようなエピソードでしたね…うっかりでした。

「あなた、皆月からの仕事を受けたって本当?」
どのルートから聞いたのか、母が朝食時にそうきりだした。
三年前に親父が亡くなって以来、どういう考え方なのか妙にケバくなった母だ。
まあ確かに月影は妙に規律厳しいし、親父が死んで開放感なのかもしれないが、それにしたって目に余る。この母が朝食なんて作るのもだいぶ久しぶりだ。
「あなたは月影として動かないって思ってたから、道場をまかせたのに…」
困ったわねえ、というような口調に、俺はああそういえば道場の事忘れてたなあ、とのんきなことを考えた。
「こうなったら、岸太郎ちゃんに道場まかせることにするわね。」
岸太郎というのは、月影の一族のうちだが、皆月の家と同じように月影をなのるのを許されているのはごく少数である。なんでそれで俺が入ってるのかがよくわからんのだが、まあそれはこのさい、いい。
岸太郎は、本名は岸本太郎、といって俺の兄弟子的存在だった人だ。今でもまだ半人前の俺にだいぶ世話をやいてくれている。一言でいって、いい奴タイプだ。
「…不審がられないか?」
俺に月影の仕事が回ってこなかったのは、この母によるところも大きい。なんだかこの母は道場の方にやけに重心をおいていたからだ。それと、学生なんだからちゃんと勉強しなさいよっていう、妙に正しいようなことをいう。
それを聞くたびに、親に対してお前って言うのも何だが、お前な、うちの家系なんだかわかってるか?と問いただしたくなるのを押さえているのだが。
「あなた成績よろしくないんだから、そんなものいくらでも言い訳たつわよ。」
ってその言い訳は俺に失礼だろうがよ。
「どうしても仕事するならまあしょうがないわ、家系だから!でも…」
真剣な顔をして、母は眉間に超皺を寄せた。
寄せなくても、このごろ結構皺だ。母は、俺の年齢から逆算すると割と年な方である。
「りゅーねんだけは、許しません」
「うげ」
思わず声が出た。
その単語は、かなり危機である。
「危ないのですか?」
声が震えている。かしこまった口調をするときの母は、相当怒っているのであった。
「い、いや今んとこやばいのは数学だけだ、大丈夫」
「んー本当かしら~?」
「本当だよ!!」
「…ならいいけど、まったくあなたは仕事しないと思ってたのに」
ぶちぶち。ってか、親父とよくそれで喧嘩してたよな。親父は月影として立派にやれ、派だったからなあ。
「でも引き受けちゃったから、仕方ないわ。皆月からの、ってのは極力内緒にするようにするから、ちゃんとやるのよ」
母権力の箝口令がどれだけ効果あるのかわからないが、一応俺はうなずいた。
「ああ、そろそろ学校行く時間でしょ?ゴン太ちゃんには私がごはんあげとくから、行ってきなさいよ。」
ゴン太か…。
実は、ちょっと思ってた事がある。俺は学校に行くふりして、皆月家にいった。

あいかわらず、立派な割には寂れた屋敷だ。といっても、手入れは行き届いている。綺麗なことは綺麗だが、言葉にして言うと、妙に活気がない、というのか。
皆月という家自体、旧家だしまあその辺のイメージもあるのかもしれない。
京都あたりに町家があるとはえるが、近代化してきた町にこんな家があってもなんだかな、という感じだろうか。
ぽつん、とそこだけ古いイメージ。
ここだけ時がたっていない。
「で、どうした、月影の」
相変わらず、魅厘は座ってゴン太を膝に乗せているが。
「あれ、なんでお前今日和服じゃねえの?」
何故か、今日はワンピースなのである。
「ああ、ちょっと李々ともめてな」
「お前一人で着物きれねえのか…意外だな」
俺が呟くと、魅厘は速攻で、違う、と言ったが、もごもごと、事情を説明するのがめんどくさいんだ、とつぶやいて、最終的に「…まあ、そういうことにしといてくれ」といった。
実はこの家、お手伝いさん権力が妙に強かったのを知ったのは後からだった。
しかし何故もめたのかは、後々になっても教えてくれなかった。
「おかしいか」
おかしいか、っていわれると、そうでもないような気はするが、まあ照れた調子で言えばかわいいのに、そんな風ににらまれるとこっちも喧嘩売りたくなる。
「別におかしくはないけどよー…もうちょっとなんかねえの」
「というと?」
きょとん、と魅厘は急に表情を変えた。
その表情が何故か妙にあどけなくて、言葉につまる。
「いや、まあいいや、それよりゴン太のことだけど」
「ゴン太?」
「ああ、違った。ボンボン」
魅厘はごん、じゃないボンボンの背中をそわそわとなでた。
「こいつな、俺の行く先々にくるんだけどよ、誰かの思念が入って遠隔操作されてるって線はねえの?」
まさかの、ゴン太、いや、ボンボン犯人説。
…って半分冗談だけどよ。
「…ボンボンが?言っとくが、猫は瞬間移動できて当たり前の生き物だぞ?」
お前もマジにいうなよ。
「だけど、猫の首輪になんか仕込むとか、猫にヒョウイできるとかってのもあるじゃん」
「ふむ…。」
半分おもしろがっているような表情で、魅厘は膝の上のボンボンに視線を落とした。ボンボンは見られているのをちょっと気にしたのか、ちょこっとだけ魅厘と視線をあわせて、あくびをした。
「ま、それは冗談として、被害者がなんか怪しげな研究所に通ってたって噂があるんだけどよ、どんな研究所かわかるか?」
「怪しげな研究所、か、最近は色々超能力も科学的に研究するとか、いろっいろあるな」
思い当たる節がいっぱいある方が意外な展開だが、あるようだ。
「一番ひどいのが、成功したのかしてないのかは知らないが、科学的に超能力をつける研究だ」
俺は思わず言葉を失った。
「…そんなもんまであるのか…。まあいいや、調べといてくれ、後で話聞きにいくからよ。とりあえず、学校行くわ」
そこで、驚愕の真実。魅厘は、俺たちに学校があるということを、さっぱり視野の外に入れていたらしい。
やたらと謝られたが、あーさっぱりさっぱり。
っていうか、別に学校くらいいいんだけどよー。世間的にはやっぱそうじゃねえんだな。
「んじゃ、依頼取り消すのかよー」
ちょっといたずら心をだして、そう聞くと、魅厘はためらいながらも、
「それは…まあ、頼んでしまった事だから」
そのー。しょうがない。と。
それは取り消さないようで、安心した。

で。
やっぱり学校にもゴン太来てるんだけどよ…。
やけににこにこした後藤が、ゴン太のこと、ボン次郎、って呼んでたぞ。
まあいいけど。

「…、あやしげな研究所、ねえ…」
放課後、皆月は気乗りしない様子でいった。
「魅厘が言うには、超能力くっつけられるらしいじゃねえか」
「…ほんとにー?」
心底疑わしそうだ。
「疑わしいから話聞きに行くんだよ」
「まあでも、それが本当なら、皆月や文月のものが犯人じゃない説ってのも出てくるね。まだ決まった訳じゃないんだろうけど」
割と慎重だな、皆月は。
青かった空に、ふと黄色がまじる。向こうには、赤い色。黄昏のいろ。
「ところで、文月はどうなったんだよ。洗脳、きかなかったのか?」
皆月は、少しだまって、
「それが、どうも仲間はずれの原因が違ってたみたいなんだよね…」
「超能力が原因じゃなかったって事か?」
「そうみたい。でも、そんなに本人は変わってないみたいに見える。」
というと、誰もいないはずの廊下に、ぱたぱたという足音が聞こえた。
「あれ、皆月君に、月影君?どうしたの」
言ってると、とうの文月だった。
「いや、どうしたの、文月。」
皆月が聞くと、文月は長い髪をはらいながら、小さいがよく通る声でいった。
「ちょっと忘れ物しただけ」
「ん?何を?」
「そんなに大したものじゃないけど」
文月は、俺たちの横をすりぬけて、皆月の隣の自分の席に座って、席の中をみた。
みると、黒猫のストラップだった。
「こういうもの持ってきちゃ行けないのはわかってるんだけど、なかなかね」
文月にしては意外とかわいい趣味だな、と俺は思った。
「んーじゃ、俺たちは行こうか、月影」
「行くって、どこに」
文月が妙な顔をしている。俺は、その憂いを払うべく。
「あやしげな研究所ー」
といった。
「何それ」
文月は、一人ぽつん、となりかけたが自分も教室にいる意味がないと教室を去って行った。

信野研究所。
とりわけ、大きい訳でもない、普通の雑居ビルにかかった看板にある文字だった。
こんなところで本当にそんな怪しい研究をやっているのだろうか。
入居施設の案内を見ながら二人で「うーん…」と言っていると、後ろから女の声がした。
「あら、あなたたち、うちに御用?」
くるくると巻いた髪を短く切ったショートカットの妙に色っぽい女がちょっと意地悪っぽい笑みを唇にのせていた。
「見たところ学生みたいだけど、アポ取った?」
「あぽ?」
「うそうそ、うちは無い方がいいのよ。被験者希望かしら」
なんだか、皆月の表情が疑わしさ、確信。という感じになった。
「あのー、ここ、本当にそんな怪しい研究やってるんですか?」
「あちゃ、逆の方だったみたいね。でもいいわ。一応、悪の組織ってわけでもないから。まああがって。二階よ。」
女の名前は、信野紅亜(しなのくれあ)。
ここの信野研究所の代表の娘だと言う。
「超能力って言うのは、一種の普通の人には聞こえない周波の音を操るっていうのが、うちの考え方ね。音楽で宗教するって話とか、聞いた事無い?それと似たようなもので、音には人や物を操る力があるっていうわけ。
で。そこでうちの父はひらめいた。
この普通の人にはわからない周波の音を、普通の人に与え続けてたら能力者にならないか、って」
「はあ…」
なんという話だ。
「それで、本当に能力者になった人、いるんですか?」
「私は詳しく聞かされてないけど、二人くらいいるってきいたわ。そのうち一人が、行方不明の鳥野浩太君」
俺は耳を疑った。
鳥野が―――こんなところにつながった。
「もう一人は、知らないわ」
「なんでこんなこと、してるんですか?」
「能力が欲しいって人も、いることはいるのよ。願いがあるなら、叶える道をさがすのも科学としての道ですもの」
「それが悪い道につながっても?」
「人間が生物として悪い道が、他にもないって保証はある?」
だからいいとは限らない、と皆月は言いたそうだった。
なんだか、こんな皆月は初めて見るような気がする。
もうちょっと二人の会話を聞いておくか、と俺は新鮮さと不思議さがないまぜになった心境だった。
紅亜の言葉は、不思議とどこか正当化のために言っている様子はなかった。
「確かに、人間は他の生き物からみたら、悪の組織の固まりかもしれないですね」
皆月はため息をついた。
「でも、どうしてそんな事言いながら、科学の道にはいったんですか」
あきらかな愚問だという表情を紅亜は浮かべた。
「この道には、まだ知らないことがいっぱいあるから。人間としては、知らないものは見れば見るほど楽しいものよ」
この女は根っから科学者らしい。
「健全な青少年たちには、関係の無い世界ね。あなたたちは見なかった事にしてあげるから、行きなさい」
「まだ聞きたい事が―――」
「悪の組織にキスでもされたいの?」
死の接吻的な意味で言ってるんだろうけど、うっかりちょっと期待した俺たちだった。
「しょうがねえな、行こうぜ」
俺は、皆月の長い手を引いた。

帰り道を歩いていると、皆月が不満そうに、「何で君あそこで何も言わなかったの」と呟いた。
「いや、うっかりちょっと面白かったからな」
正直に答えると、もともと猫背っぽい皆月がさらに背中をまるめた。
学校出た時点で黄昏だったから、もうほとんど夜空で隣の皆月もシルエット状態だ。俺たちの影が長く伸びる。
「あの人自身はちょっと偽悪的だけど、やっぱり悪の組織なのかなあ」
「でも、推理としては、超能力を一方的に与えられた被験者が、能力を試してみたくて凶行に走るってのは十分ありだな。」
「恐ろしい事に、成功してるんだね…」
「魅厘には、世間的にはこの線で行く事を打診してみるか?」
と、ふと目の前をよぎった、その辺の家の塀の上の小さい影。
やっぱり、皆月も見てたようだ。
「って、あれ、ボンボンじゃない?」
俺もそう見えたが、さすがにもう違う気がしていた。
「猫の集会かな。やけに多いよね。」
秋だし、また「あの時期」かもしれない。
まあ猫には猫の世界があるということだ。
あの透き通った球体の瞳で、猫たちは俺たちとは違う世界をみている。
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「再録、リメイク」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事