ずっと第1章だけなくて心苦しい思いをしてたのですが、ようやく。
と言うわけで、追記でどうぞ。
ブラッディスト第1章
俺の名はエルス・セントリック・ランガン。
一応は魔術師ってことになってるけど、普通の魔術師とはちょっと違う。
まず、自分が食らった技しか出せない。
どうやら「狼男だから、普通の魔術的なことはできない」ということらしいのだが、どうも納得がいっていない。が、普通に電気を出すこともできないようだからその通りなのだろう。その代わり、呪文の詠唱は入らず、あの時食らったあれ!って思うとその技が出せる。
やっぱりちょっとMPというか、マジックポイント的なものはいるようで、限度はあるのだが。
でもこれって「一日いくら」、とか「今日は調子いい」とか、そういうものがあるものなのだろうか。どうもその辺が昔っから疑問だ。
そして、どうも一日2回だけのようなのだがはね返しの技が使えるようなのだ。
へー、そうなの、ふーん。である。
あんまり使ったことないんだ、これが。
で、この俺が財布を落としました。中華ご飯屋の前で。
で、今に至る。
「で、なんで食い逃げしようとしたの?」中華ご飯屋のアルバイトで働いていたらしいエルム・シュナイダーが俺を見下している。
「食い逃げじゃないんだってば、財布落としたんだってば。あっただろ、財布」
「子供が拾ってたのは確かだけど、でもほとんど入ってなかったわよ、お金」
「見たのかよ、中」
「っていうかあなたのいる前で見たじゃない」
そうだった。俺の目は節穴です。
「でも、今時魔術師なんているの?」
科学というやつが幅を利かせる昨今、魔術師はレアな存在だ。
「レメティーナはまだちょっといるだろ。最近ミルファーナの科学入ってきてるけど」
レメティーナ、というのはこの国の名。ミルファーナというのは隣の国の名だ。そしてもうひとつ、そのにフーリンカという名の国がある。ミルファーナが一番南の三角関係だ。
「あなた、ミルファーナ知ってるの?」
ミルファーナは隣の国の名だけど、知らないふりされた国だ。
「話だけな。科学っていうやつはそこ発祥だって聞いた。」
「私、ミルファーナ出身よ。母はレメティーナ人だけど」
「科学ってやつはどうなってるんだ」
「どうって言われたって詳しいことは知らないわ。ただその科学ってやつのおかげで、とんでもない怪物がこの近くに現れたっていう話」
「…トンデモナイ、怪物?昔流行った魔王みたいな?あれはフーリンカじゃなかったっけ。魔王のタネだろ?なんで魔王が植物性やねんて話だよな」
「魔王とは全然違うと思う、でも、なんか魔王のタネも複製が前に作られてたっていう話は聞いた」
「ええ?」
と、いっていたら、すごい叫び声が聞こえてきた。
恐竜系というのか、象系というのか。ちょっと間抜けにも聞こえる寂しい声だ。
「でた!!」
でた、って。
「行くのか!?何も武器とか持ってないのに!」
「私には、さっきの技があるもの。あなた食らったでしょ、さっき。あなたは気絶しなかったけど大抵の人間は気絶するわざよ」
なんと言う無茶言う娘だ。
「気絶するわざよ、って、俺が気絶しなかったのにあんなもん倒せるかよ!」
「ああ、町無茶苦茶にならなんだらいいけど、んじゃいって来いよー」
っておやっさんも適当な。
「あなたも魔術師ならフォローよろしく」
よろしくって俺も食らった技しか出せないんだってば。
トゲトゲのザラザラ。あと、なんか砂嵐。
その怪物ってやつを形容したらそんな感じの文字が浮かぶ。
砂嵐というのは、テレビの砂嵐に似ている感じで、時々像のむずべなくなる、ピントの合わなくなる感じで、いっそいってしまえばモザイク、といってもいいかもしれない。俺もよくわかってないけど。不快感というか、そういう感じというよりは、なんとなく忘れ去られた時代の異物。とかそんな感じの代物に見える。
「行くわよ…光波!!」
とばかりにエルムはガンガンさっきのやつを喰らわせているが、トゲトゲザラザラは身をよじらせて喜んでいるように見える。その、喜んでるので尻尾っぽいのがあたりの民家壊してたりするのだが。
「ほら、あなたも」
「ん、うーん、わかった、あの時の氷のやつ!!」
なんとなく促されたので、俺もそんなことを言ったのだった。
ピキン。パリン。ほらなあ…。
あの時のかまいたちの、あの時の炎の、とかかなり考えなく魔法を食らわせていたら、どんどんやつの体が大きくなってきた。
「なんか、あいつおかしくないか…?」
と言ったら、なんか光線みたいなの吐いてきやがった!!
「おい、エルム!!これ聞いてないんだけど!」
じゅわっっ。と木の一瞬で蒸発したものに、少なからず彼女もショックを受けたらしい。
「こ、これ、ちょっと作戦とか考えないとダメなんじゃ…わわ、私もこんなのは初めて見たわ!」
「だから最初から考えないとダメだって、出てきたから倒すじゃ!!」
よく考えたらそらそうだろう、という話なのだが俺たちはかなり日和見だった。
「何かでいっぺん、山の方に向かわせられないか…!そのうちに、俺たちは様子を整える、ということで」
「わ、わかった…あいつ、これ、わかるかしら…」
エルムは、どこからか銀のロケットを取り出し、それを山へ投げた。例の光波とかいう光のエネルギーは使わずに、魔力で遠くへ飛ばすだけで。
魔獣は寂しい咆哮を上げながら、とりあえずは山の方へと向かった。
「あ、助かった…とりあえず、だけどな。」
「しかし。にーちゃんやるじゃないか、あんだけ魔法ガンガン使えるなんて今時いねーぞ。あの魔獣追っ払ってくれるの保障したら、食べ放題約束してやるからさ頼む!」
えーーーーー。
「い、いや、そんなこと言うけどおやっさんさ、追い払えるとか俺約束できねーぞ、あんな光線みたいなの吐かれたら俺だってじゅっ、で終わるやんか」
なんでかちょっと関西弁の出てしまう俺だ。関西ってどこやねんな。
俺だって自分の身は助けておきたい。
「って言うけど、あなた食い逃げしようとしてたのが食べ放題よ。いい話じゃないの」
「いい加減なこと言うな、お前。あれ追い払えるって言うか、やっつけなきゃダメだろ。ここ追い払っても他のとこ行ったら他が迷惑するじゃないか」
「まあ、エルス…!」
エルムはキラキラとした瞳で俺のことを見た。
「そんなにあなたがやる気だなんて、私、嬉しい。」
「バカにしてんのか、お前」
「あ、バレちゃった?えへ。って言うか、私財布すっちゃってるから、絶対やらせるつもりだったけど」
「私財布すっちゃってるから!?」
なんだそのセリフー!!
「ほら、ズボンのポケットに長財布は危ないわよ。ちゃんとかばん持ちなさい。それくらいは出してあげるから」
「ああ、ありがとう、でも男って本当にカバンは持たないもんだぜ」
「おっちゃんの昔のカバンだけどね」
「お前、本当におちょくってんのか!?」
「まあまあまあまあ、エルムが饒舌なのは実はビビってるからだぜ、にーちゃん」
おやっさんにそう言われて、俺は一瞬ハッと
「………本当にー」
「本当だってば…」ほら、急に弱々しいし。
いきなり助けてくれないと死んじゃう、モードになるんじゃない。
「もう…まあ、こうやってても、話にならんからな。しょうがない。いっぱいMP使ったし、おやっさん、飯もう一回頼んでいい?」
「おう、アリヤトーーー!!」
俺も人がいいよなあ、やれやれ。
で、結局一時間ご。俺は腹を抑えてウンウンと唸っていた。
「ほら、おやっさんちょっと食わせすぎやし…お腹いっぱいでかえって戦えない…」
「食べ放題って言われたからって食べ過ぎるからよ!とにー」
「貧乏人は食べ放題って言われたら弱いもんなんだよ!!そんなこと言わなきゃほどほどの量で済むのに!!」
「まあ山まで歩けばだいぶお腹マシになるわよ、がんば」
まあなあ、だいぶマシにはなってきたけどなあ。
しかし、この山って結構な禿山だよな。木もほとんどないし、ほとんど丘みたいな感じだし。おかげで魔獣もよく見える。
って、あれ…あの魔獣、だっけ…なんかエルムのロただケット見て、涙流してる的な…?
でも、いじり倒して、ついにロケットがパリン、と割れて…。
俺たちを向いた。
俺たちの策は、と言うか、また特に策もなく。食らった魔法やら光の波動やらくらわせるだけ食らわせた。ただ、あの光線だけは時々危なかった。
1回目のリフレクトをそれで使ってしまった。
しかし、あの魔獣、魔法を喰らえば食うほど、どんどんでかくなっていくような…。
だったら、それしか手立てはない。
「エルム、一番でかい光線来たら、それをリフレクトするからな。それが通じなかったら、俺には本当にお手上げだ」
「う、うん…一番でかいのはどれか、って言う話よね。」
と言う話をしてから、自分たちに光波の要領で光のバリアを張り、一回、二回、三回…そしてそこらの木が全部根こそぎやられるような光線に思わずエルムが叫び声をあげる。と、言うかバリアもバリバリと音を立てて弾け飛び、俺たちに光線が飛んで来そうなその時。
「いまだ、リフレクトーーー!!」
そして、気づけば魔獣は自分を光線の中になぎ払っていた。
「あれ、これ…誰だ?」
魔獣のいたところに、どうやら人間の死体のようなものがある。
「………グレイ」
消え入るような声で、エルムが呟いた。
「誰だ、その、グレイって」
「兄さん」
「にいさ…え?」
「本当に、人生が嫌になって仕方がない時ってない?そう言う時に、本当に魔獣になってしまう呪いをかけられたの、私の兄弟」
「人体実験?でもそんな」
「人の持つ凶暴性と暴力性、これが魔力とシンクロして、どうにかなってしまうみたいね。どう言うメカニズムかは知らないけど、要するにそう言うこと。」
「じゃ、エルムが投げてたロケットってーーー」
「グレイの家にあった、婚約者の写真の入ったやつ、みたいね。その人、私は見たことないけど、どうやら殺されちゃったみたいでさ」
誰に、とかそんなことを言っても、もう起こってしまったことである。
「まだあと四人いるの」
「でも、それが全部魔獣かするかどうかなんて、わからないじゃないか…!」
「しなければいいけど、したら、また今回みたいにやっつけるしかない。だって、魔獣なんていたら確実に誰かの迷惑だから」
エルムは立ち上がり、よろよろと歩き出した。
一人で?無理だろう。
二人で、でも無理があるかもしれない。
でも一人よりは、二人だ。
「………じゃあ、俺もついていこう。さすがにエルムだけじゃな」
言うとエルムは現金に顔を輝かせた。
「本当に優しいわね、あなた!甘えちゃうわよー」
んっふっふって、悪い顔だな…。
「まあまあ、甘えていい。女の子が悪い怪物と戦うなんて、無理があるからな」
「悪い怪物って…」
あ、しまった、エルムの兄弟だった。
「ま、まあ言ってしまえば、な。ははははははは」
「もう、ちょっと口悪いくらいは許すけど。いい人だから」
あ、それ言っていいんだ、俺、狼だぞ?
最新の画像もっと見る
最近の「再録、リメイク」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事