にざかな酒店

魅厘さんとジャムの話

というわけで、ジャムと言ったら某秋子さんのジャムを思い浮かべそうですが、ちょっと似たような話?かも?何かのついでの大惨事、こんなこともあるのです…。しかし皆月家ってめんどくさい家ですね。
魅厘さんとジャムのお話

それはたまたま発生した事件だった。そう、うっかり牛乳が切れたりなんてしなければ起こらない事件で、回避は十分可能だった。
それが、あんなことになるなんて…。

夜、牛乳が切れてるのを発見した皆月空斗はちょっとスーパーに行こうとしているところを、魅厘によびとめられた。
「こんなに遅くにどこ行くのだ、空斗」
「牛乳が切れてるんですよ。朝のミルクティーにいるでしょう」
「なんだ、それなら朝でもいいじゃないか」
朝いるものなら朝でいい、と魅厘は嘆息した。
「俺こういうのはちょっと気になる方なんで、今買いに行かないと気にすまないんですよ」
おっとりしているようで案外いらちという奴だな、と魅厘は思った。
「だったら、ジャムを一緒に頼んでいいか?」
「ジャム?うちにジャムなんてあるのみたことないですよ」
「実は結構好きなんだ。」
特に空斗は嫌な予感など感じずに、「ならいいですよ、買ってきます」と答え、歩いて十五分くらいのスーパーを目指した。刻停間にはまだコンビニはないのだった。

そう、好きなのにあたらないなら今まで無くてかわいそうだったんじゃないか、などと余計な気までまわし、お得かつ大容量が取り柄のジャムを買って戻ってきて普通に冷蔵庫にいれてしまったのだった…。
さて翌日。皆月家の台所で、冷蔵庫を何気なくみた琉留の悲鳴で空斗は目を覚ました。
「琉留さん?虫かなんか出たの?」
「か、か、か、空斗さん…!!なんですか、これはっ!」
「何って?」
「これですよ、これ!!」
琉留の手には不似合いなほど大きいお得のジャム。
「…ジャムでしょ?」
どうみたってジャム以外のものが擬態しているようには見えない空斗は目を丸くしたまま答えた。
「ジャムって、あのジャムですよね?」
「うん、ジャムだね」
「………誰が、買ってきたんですか?」
なんでそんなにジャムを買ってきて怒りのオーラを出されなくてはならないのか、全く理解ができないので、空斗は魅厘さんに頼まれて俺が買ってきたんだけど、とあっさり白状した。
「あ、あなたはなんてことをするんですかーーーー!!」
「何をそんなに怒ってるの?魅厘さん昨日おいしいって食べてたよ」
「あ、あの方は…!あの方はジャムは買ってきたその日しかおいしいって言って食べないんです!私がいままでどれほどほったらかされてかびたジャムを泣きながら捨ててきたか…!!」
「………ええ?でも、魅厘さんジャム好きだって…」
「私から言えば、あれは大嘘です!!本当に、パンに塗ってもちょっとしか塗ってなくて、薦めても「うーん今いらない」とかいって、食べないんですよ」
琉留の剣幕に、さすがの空斗もちょっとあわてて来た。
「…ちょっと待ってよ、俺も甘いものそんなに得意じゃないんだよ?」
「だったらなんでわざわざあんな大容量のジャムを買ってくるんですか!!しかもあれはお得だけど甘味料いっぱいでおいしくないんですよ」
琉留はきぃっ、と言う感じで空斗を見上げた。
「…好きだって言うから、食べるんだと思って…」
「………、まあ、買ってきたものはしょうがありません…でも、私はジャムのかびたのが何よりも嫌いなんです…」
ご、ごめん…という空斗の手を、琉留はそっと握りながら、言った。
「…どうか私に…かびたジャムを見せないでください…」
なんか、もうドキドキするというか申し訳なく、空斗はもともと猫背の体を丸めながら、わかった、がんばるよ…と力なく返したのだった。
………うん、いつか、この展開はやると思ってたよ。
そんな二人をあたたかいまなざし、いや生温いまなざしで見守っていた李々。
絶対やると思ってたさ。だって、魅厘ちゃんはジャムが腐るなんて信じてないんだもの!そう、私が何度でもジャム買ってこいとねだられてうっかり買っては琉留ちゃんに叱られたように…、空斗さんもいつか叱られれば良いと思ってた!待ってたのこの展開。。
悲哀をしょった琉留とはうらはらの、同じ双子の李々だったのであった。

………って、思ってたのに。琉留ちゃん普通に私は手伝いません!とか怒りながら三日後にはしっかり手伝って食べてるのはなーぜ?
っていうか、ジャム食べるの三日目ですでに根をあげる空斗さんもどーよ?的な。
魅厘ちゃん相変わらず便乗して「なら私も」とかいいつつ、二口で満足☆とかいってるのはいつものこととして…。そして、そんなこんなで毎日ジャムをたべて十五日目。さすがに疲れきった琉留と空斗はこんな会話になった。
「空斗さん?あーんてしたら食べますか?」
「……俺がそれ言ったらセクハラなのにさあ…なんで琉留さんからはそういうこと言ってもいいわけ?」
「?食べないんですか?」
「もう、ジャム飽きたよー。うう、でもジャムってどれくらいで腐るの?」
「このジャムは甘味料いっぱいだからかえって長持ちみたいですねえ。でも、だいぶがんばりましたよね☆あと、二センチくらい、がんばって」
「………なっとくいかなーい…」思わず李々は呟いた。
「俺も納得いかないよー。魅厘さんの嘘つき…本当に食べないんじゃないか」
「言った通りでしょう?だからジャムはもう二度と買っては駄目ですよ」
「わかった…」
って、二人はなんとかして本当は魅厘が食べるはずだったジャムを片付けたのだ。

そんなある日。
「なんだ、もうジャム無いのか…ちょっと食べたいんだがな…」
「み、みりんさーーーーん!」
「一口でいいんだが」
な、な?お願い。
魅厘があんまりねだってくるので、空斗はうっかり断りきれず、またジャムの悲劇が…

「って、ことなんだけど、琉留さんもこのサイズなら満足だろ」
と、得意げに空斗は言った。
手のひらサイズの、ちいーさいジャムの瓶。
魅厘の口でも、二口ですぐになくなるこのサイズ!
「ま、まあ…!空斗さん、花丸ですわ!!空斗さん超好き愛してる!!」
「ちょちょちょっと喜び過ぎだって」
「えーーーーー!!ちょ、ちょっと何よその展開!!そのジャム二口で百円の割高感ものすごいジャムよ!」
李々の突っ込みに、抱き合って喜びかけた琉留は一瞬動きがとまった。
「………え。で、でも魅厘ちゃん喜ぶなら、まあ…」
ね?と空斗を見上げる琉留。
「ちょっと、琉留ちゃんがそんな割高許すってわかってたら、私半年前から存在知ってたわよーーーー!!」
きぃーーーー!と李々は叫んだ。
「何騒いでるんだ、お前ら。ジャムは?」
「あ、ごめん、えとこれ。」
そこに件の魅厘が現れ、彼女は小さい瓶のジャムを手に入れた。
「ずいぶん小さい瓶だな?まあいいか、ぱくぱく、ハイ終わり」
と、あっさり去って行かれ、他の三人はしばらく固まった。そして異口同音に叫んだ。

「な、ななななっとくいかなーーーーい!!」

これが、彼らのジャム騒動の顛末である…。
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