どんないい人にも困った面はありますよね、というお話。
皆月家とジャムの話、昔話編
ふと、琉留はあの騒動のあと、お茶をしながら呟くようにいった。
「ジャムというと…どうしても前の当主の方を思い出しますね…あの方は、ジャム瓶もよく抱えてましたそのときは、家のジャムも完璧になくなっていたんですが」
今日のお茶は、甘めのミントティーである。
中国茶ではないが、モロッコミントティー風。
基本的に皆月家のお茶はお茶だけでお茶請けがあるときは少ないという潔いスタイルなのだった。ちなみに、李々と魅厘は向こうでなにやら話し込んでいる。
「前の当主って言うと、お人好しで有名だったって言う?」
「そうですね、…ええ、基本的にはお人好しでした。私にはひどいお方でしたが。名前は和麻様と」
「ええ?」
ちょっとそこんとこ詳しく、と空斗が言うより先に、琉留は話しだした。彼の方を見ずに、夜の庭の木々の間を見つめながら。
「…ここだけの話、李々ちゃんとその方はずっといけない関係だったんですよ」
「え、えええ…そ、それ俺に話して大丈夫なの?」
「まあ、ここだけの話、空斗さんですから話しますが…。彼は、甘いものが好きで…まあ正直ストレスもたまってたと思います。あの、痛い思いをして能力を媒介する能力を自分からもらって、ずっと笑っている方でしたから。もうおなかの中は燃えたぎっていたかもしれません。」
「う、うん…」
「彼は糖尿病一歩手前でした。なので、私はずっと、彼から要求されるあれを断っていたのですが、李々ちゃんは断りきれず…まあ、お金も余分にくれるし、さぼりもできるし、欲に負けた面もあったと思います。」
琉留の声は静かな声で、二人で見る月の庭も静かだった。
「私が気がついたときには、二人の関係はものすごくただれていて…そう、気づいたときには、李々ちゃんは彼のために毎日毎日、せっせと内緒でくるみもちを買いに並びに行く専門のお手伝いさんに…」
なんか、文脈的にものすごくおかしい話が間に挟まったような。
「………くるみもち?って、あのくるみもち?」
某所名産の、枝豆餡のツボに入って売っている…。
思わず聞き返したが、琉留の声は夜に透き通る静かな声のままだった。
「ええ、甘いもの大好きな方でしたから、周りが止めるのも聞かず。」
………あのー。
「…二人は、ただれた関係じゃないの?」
「ただれた関係でしょう?糖尿病一歩手前の人に毎日毎日くるみもち買ってきてあげているんですよ!?ひどすぎます!だいたい、そんな癖をつけたものだから、李々ちゃんはあんなサボリ癖のつよい人に育ったんじゃないですか!!良い迷惑ですよ、っとに」
………えっと。
「彼の死因は?」
「一応、糖尿病じゃありません」
きっぱりと琉留は空斗を見て答えた。
「ちょっと彼には持病の発作がありまして…。」
「そ、そっか…。それで、皆月家はおちゃうけもないんだね」
「ご明察です。お菓子は基本的に来客があったときにしか出てこないでしょう。…前の当主で苦労しているからです。」
「………そっか………大変だったんだね、君も…」
それもあって、琉留はあんまり他の二人より甘いものに対する規制が厳しいのか、と空斗はため息をついた。
「でも、息抜きくらい、必要じゃないかなあ。過去は過去でしょ」
「そうですね、今となっては懐かしい事です。」
彼女はふっと笑った。
「いい月ですし、月見団子くらい用意すれば良かったかもしれませんね。」
「丁度中秋の名月だし?」
「ええ、ススキももって」
「ジャムは?」
「………ええっと、ジャムは……ごめんなさい、いりません。」
そして二人はふっと吹き出した。
「い、いらないよね?」
「もう私たちはいりませんよねー」
「あはは」
今日の月はウサギ柄。くいしんぼうなダレカサンは、空の上だった。
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